0-2-51 魔の探求
目を覚ますと、其処は見慣れた天井があった。
「あれ……おれ、ダンジョンに居て……?」
あの竜を倒して、メルリヌスを倒して、それから……何が起こった?
とりあえずベッドから起きると、意外な人が居た。
「嗚呼、夜黒さん、おはようございます」
ベッドの脇にはクローディアさんが読書をしながら揺り椅子に座っていた。どこから持ってきたのか分からないが、この部屋に合うな。
いやそれよりも、なんでこの人が此処に居て、俺が此処に居るのか。聞きたい事は山ほどとは言わないが、少しはある。横をみれば猫は寝てるし、時計も五時を指している。
「俺は――」
「あのダンジョンは二階層しかないダンジョンでしたので、私が魔術協会本部に運びました。カンさんからは追加の報酬を支払う様に言われたので、夜黒さんの預金にその分を入れておきましたよ」
「そっか」
『魔術』を超えた“完成”した技術、魔術の大元、全ての原点、“魔法”。
これを習得した事はクローディアさんに話すべきか、それとも解読されているのか。一応報告はしておこうか。
「クローディアさん、俺、俺なりの方法で“魔法”を習得したよ」
「知っています。それがどれだけリスクのあるものなのかを説教しようと思ったのですが、寝ている間に見た限りでは初代様の因子は増えていたので、あまり私からは忠告しません」
そうか、あの感覚は初代クローディアの因子が増えた感覚だったのか。というか、魔力量もかなり増えてる気がする。
メルリヌスからの恩恵は初代の因子と魔力量の向上だろうか。有り難く貰っておくが、彼奴は結局何者だったのだろうか。
確か「漸く死ねる」みたいな事を言ってたから、囚われていたのだろうか。
「まさかあんな存在が居るとは知らずに依頼を出してしまい申し訳ありませんでした」
「ちょ、ちょい待って。クローディアさんが謝る事じゃないでしょ。あれは追加報酬のついでにこっちが勝手にやった事なんだから」
「……普通なら怒りますよ、特に冒険者の方は」
「異世界人はそんなんじゃ怒りません」
「ふふ、そうでしたね。夜黒さんは異世界の方でした」
クローディアさんが立ち上がると虚空に本をしまい、此方に向き直す。
「龍について説明しましょうか」
「え?」
「龍は古代には存在していたとされています。そして今でも西大陸に潜んでいると噂されています。かつてのニッポンジンが竜を狩っても竜狩りの称号が得られないと騒いだのですが、私達の様な、それに高位の冒険者であれば竜なんて狩れますから」
「そうだったのか」
「そして、龍狩りは初代クローディアが成し遂げています」
「その頃には龍が居たのか。詳しく分かってる事とかないのか? 流石に記録の少ない初代でもその辺は――」
「触れざる事項として伝えられています。あれは個の極地だと。分かっているのはそれだけです」
クローディアさんは虚空から一枚の依頼表を取り出すが、懐に仕舞い、扉に向かっていく。魔術協会の長もただふんぞりかえるだけでは無い。このタイミングで目覚められていなかったら、書き置きだったろう。
「早速次の依頼と行きたいところですが、一週間位は休んで下さい。身に付けたその力を馴染ませる意味も込めて」
「了解」
「次の依頼は異常繁殖した竜ですから、休み期間に道具も調達しておいて下さいね」
そう言うと彼女は転移で消えた。
え、この次竜の相手するの? なんか最近竜――一体はクローディアさんの擬態だが――とばっかり戦ってる気がする。
まあ“魔法”を手にした今ならどうにかなる気もするが、クローディアさんに勝てるかと問われると微妙なラインだ。あの人が本気の戦闘態勢を取れば“魔法”は防げると思う。
それに俺が思うに“魔法”は本来こんな威力なんかじゃないと思う。メルリヌスの身体強化を『魔術』で弾けた時点で彼奴も“完成”した技術を持っただけの存在に過ぎないんだと思う。
そうなると初代クローディアがどれだけ化け物なのかが想像も出来ない。
死んでいるという事は不老不死の“魔法”はなく、一応殺せるという事だが、そんな存在が憑依しているあの子はどれだけ強いのだろうか。
直接は戦っていない。
あくまで分身としか戦っていない。
故にいずれ戦うかもしれないあの子とは、正直戦いたくない。炎雷の使い手ももしかすると彼女なのかもしれない。
「にゃ……おはよ」
猫が目覚める。
「おはよう」
「にゃー、クロは初めて“魔法”使うから疲れたんだねぇ。ぐっすり寝てるからクローディアに運んで貰ったよ。僕じゃあ大変だからね」
「心配かけたな」
「にゃはは、そこまで心配はしてないけど、魂を削るのは不安になるかな。クロの事は好きだから、死んでほしくないしね」
寝起きで布団に包まる猫の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。寝る時は小さな赤の王冠を置くから、撫でるとしたらこのタイミングしかない。
猫の事を撫で、ちょっと出掛ける旨を伝えると猫は気のない返事をして再び布団に潜っていた。
確かに昨日は疲れた。
無限再生する竜の相手に、メルリヌスという“魔法”使いとの戦闘。そして、俺は“魔法”の開花。
猫も“魔法”をつかっていたから疲れたんだろうな。今日はお互いのんびりと――と言っても魔術協会の射撃場で“魔法”を試すつもりだが。
射撃場は魔術協会の外にある。
かなり広い面積を有しているから広範囲の殲滅魔術も使いたい放題の造りだ。俺の場合はあまり此処に来る事は無かったが、“魔法”を習得した今は必要な施設だろう。
俺の“魔法”の使い方は猫とかわらないが、魂にある初代クローディアの因子を魔術に微量混ぜる事で発動する。
魂を削るが、本来の魂とは違ってこれは俺の本質とは関係ない部分だから多少多めに取っても問題はない。問題があるとすれば有限であることか。
だが消費量を考えると、全然気にならない。
“魔法”へ至るにはほんの少しのきっかけ程度でいい。代価が必要と言っていたが、そこまで気にする様な代価ではない。
メルリヌスは初代クローディアに似ていたから何か別の物を代価にしていたのだろうか。それとも、猫と同じ様に魂を代価としていのか。
気にはなるが、俺は俺だ。
「さて、『魔術』を“魔法”に変換するにあたって、どんな“魔法”を作るかね。自分を探れば初代クローディアの使った“魔法”が分かるが、なるべくオリジナルで行きたい」
構想を練る。
魔術はある程度体系化されているが、“魔法”は俺の認識通りなら本当になんでも起こせる奇跡みたいなもんだ。
魔術も自由度はあるが、“魔法”は魔力の限界を越えて圧縮できる利点がある。コレを用いれば瞬間的に辺りを凍らせるなんて事も夢じゃない。
黒色魔力の爆発を冷気に置き換えれば、瞬間冷凍が期待出来るって事だ。
魔術はそんな事出来ない。
出来て氷塊を飛ばしたり、時間をかけて自身の魔力で染めた範囲を凍らせる程度だ。これが『魔術』と“魔法”の違い。
“魔法”にはまだまだ隠された技があると見ていいだろう。猫やあの子の黒い物質も“魔法”の応用だろうし、昨日猫は斬撃を飛ばしていた。
「とりあえず炎、雷、氷、土の“魔法”は作っておきたいな。爆裂はそのまま黒色魔力を爆発させればいいし、身体強化はメルリヌスで見たし」
この日は様々な“魔法”の素となる魔術を幾つか開発して、一週間後の竜の群れを相手にする“魔法”の下地を作った。
そんなこんなでお昼時、食堂に行こうとしたら射撃場にクローディアさんが現れる。
「夜黒さん。もう動いて平気なんですか?」
「ああ、もう大丈夫かな。魔力も増えてるみたいだし」
「それなら依頼の詳細を教えるので私の部屋にいきましょう」
クローディアさんに手を握られ執務室に飛ぶ。
俺がヘレナ王国に行っている間に西大陸に関する情報を集めていたのか、西大陸関連の資料が所狭しと積まれている。
「軽食でよければ出しますが」
「いや、依頼の内容を優先で」
クローディアさんの机にしまわれていた依頼表が出される。発行日を見るにこれも比較的最近のものらしいが、またあの子が関わっていたりしないだろうか。
もう嫌だぞ。流石に勘弁願いたい。
「今年は竜の繁殖期が重なってしまい、竜の絶壁と呼ばれる場所に多くの竜が集まっています。彼等の栄養が足りなくなれば、人間を狙うでしょう。親竜さえ狩れば子供は自然死するので、親の個体を幾つか狩ってもらいたいのです。勿論これには夜黒さんが危惧する『黒の魔人』の関与は見られません」
「さらっと心を読まれたが、それなら安心だな」
資料を渡される。
「夜黒さんは未だ本物の竜に遭遇していませんが、昨日の竜の様な再生能力はないので安心して下さい」
とりあえず竜を狩る為の準備を進めますかね。
竜の絶壁は名前だけなら知っている。かつてのエルフ探しの際に近寄らない様に確認した箇所の一つだ。
竜の群れ。
本来ならクローディアさんや七騎士が動く依頼か。
この世界に君臨する捕食者の頂点相手に“魔法”がどこまで通用するのか、試させもらおうかね。
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