0-2-50 “魔法”へと至る
突如現れたメルリヌスを警戒し、魔力を展開する。奴は自らを魔法使いと称した。それはつまり、黒色魔力の使い手でもある事を指し示す。
「まさか『魔術』で“魔法”を追い詰めるとは思わなかったよ」
自壊と呟くと竜が綺麗に消え去る。
辺りに散らばっていた瓦礫の数々も消え失せ、広大なフィールドには俺と猫、メルリヌスの三人だけとなる。
「夜黒、君は私を越える義務がある。少なくとも“魔法”を自在に操れる程度にはならなくてはならない」
「にゃ! “ⅱ”の手先の言葉なんて聞かなくていいよ!」
魔法を自在に操る? そんな事が出来るならとっくにやってる。こいつは人の機嫌を損ねるのが上手いらしい。
だが挑発に乗ればどんな手痛い反撃があるか分かったもんじゃない。クローディアさんの何層もの防衛魔術を撃ち抜く爆発力は甘く見れない。
「メルリヌス、魔法なんてお伽噺は俺には荷が重すぎる」
「諦観は成長を殺すぞ」
「諦めた訳じゃあないが、そう言われるとむかつくなぁ」
魔力を展開して高密度な魔力塊を幾つも展開する。
そのどれもが高位の魔術行使の為の魔力量であり、並大抵の防御はコレで突破出来るが、黒色魔力の使い手には心許ない。
「そうだ。戦え」
「あんたは俺の先生かなんかか?」
「導くという意味では間違っていないだろうな」
全身の身体強化を限界まで魔力を押し固め、身体を白く輝かせる。云うなれば白色纏装。常に身体能力を何倍にも高める身体強化の極地。
これで反応速度を上げ、魔法の回避率を上げると同時に、肉弾戦も視野に入れる。
「そうだ。それで間違っていない。だが黒色に成れていない自分を責めるんだ。お前には既に下地が整ったいる」
メルリヌスを覆う魔力が黒く染まる。
それはまるで俺の白色纏装の黒バージョン。
最悪だ。
黒色魔力の爆発力を考えればこの時点で勝敗は決している。だが、俺もタダで負けてやる訳にはいかない。
「行くぞ!」
「『螺旋する魔力塊』」
拳を螺旋する魔力で多い、少しでも相手の威力を削ぎ落とす。幸いにもメルリヌスが細身であり、あまり魔力を込めていなかったからなのかお互いの手が触れると弾け飛ぶだけで済む。
最悪右手を失う所だったが、螺旋が活きた。相手を弾けたのは幸運だ。
猫は気配を殺してメルリヌスの背後からサーベルで斬りつけるが、後ろに回された手でサーベルを握られ投げ飛ばされる。
「嘆かわしい。そこまで出来て、なぜ“魔法”と成さない! お前にはあるはずだ、“魔法”へと至る道が」
魔法へと至る道。
これには心当たりが多少ある。
考えていなかった訳じゃあない。
猫の魂の欠片を宿す方法。俺の死に直結するタイミングでの魔法の発現。増大した初代クローディアの因子。メルリヌスと出会った事で覚えた何かの増大。
使えるものはなんでも使おう。出し惜しみは出来ない。
「使わせてもらうぜ、初代さんよぉ」
身体強化で圧縮した白色纏装に初代クローディアの因子を混ぜ込む。それだけで、更に魔力を上乗せ出来る様になり、覆う魔力が黒色へと転じる。
「夜黒、ソレが答えだ。ただの人間はそうせねば“魔法”を使えない。それは、代価のいる御業なのだから」
これが魔法――いや“魔法”。
「それは“完成”した技術。“ⅱ”の考案した魔術の大元」
「“ⅱ”は“魔法”を使えたから『魔術』は後から作ったって訳か」
「如何にも。“魔法”は原初にして至高の御業」
戻ってきた猫が俺の事を心配そうに見つめるが、気にするなと視線を飛ばす。伝わったのか猫も髪を漆黒に染め上げ、黒い物質を生成しサーベルに這わせる。
「これで二対一だな」
「にゃはは! メルリヌスは夜黒を強くしただけだねぇ」
「……舐められたモノだな。私は“魔法”使いメルリヌス。理想郷の管理者」
猫と二人で攻められるが、メルリヌスから噴出する魔力は余りにも膨大で、押し潰されそうな程だ。だが、魔力の圧如きで音を上げるとは思われたくない。
猫が俊敏に真横に位置取りをする。
「猫削五閃!」
黒い斬撃が飛ぶ。
大きな一つの斬撃が五つに分裂しメルリヌスを面で制圧する。
“魔法”による攻撃故にメルリヌスは防御の“魔法”で対応しているが、その反対から俺の“魔力砲”を放つ。距離は無視できる。ならば遠慮なく遠距離から撃たせてもらおう。
「その調子だ」
メルリヌスは一拍置く。
「私を越えてゆけ!」
放たれる花火の様に美しい弾幕。
回避できる道は残されているのかを瞬時に計算し、適切な会費を行う。猫は身体の柔らかさを活かしてあまり動かずに回避しているが、俺はそうもいかない。
可能な限り動きを少なくして回避する。それで精一杯だったが、メルリヌスも動けないのか弾幕を張るだけで攻めては来ない。
ならば好機。
避けながら中心に向かって“魔法”を放つ。
魔力砲ではダメだ。もっと、多数もあって太くて艶ななくてはならない。想像し、魔力を押し固める。
ふと、一つの“魔法”に出会う。
初代クローディアの記憶なのだろうか。だが、適した“魔法”だ。これなら弾幕を押し退けてメルリヌスに攻撃出来るだろう。
「“旭連天千手砲”」
太く熱い魔力の砲撃が横殴りの雨の様に射出される。
弾幕は収まり、メルリヌスが片膝を地面に付ける。
その顔をみるとあ口端から一条の血を流している事から内臓にダメージを与えたと分かる。それと同時にどこか満足そうな顔をしていた。
「夜黒……」
メルリヌスからゴポリと血が溢れる。
「恐るな。怯えるな。常に思考し、間違えても構わないから挑むんだ。お前なら運命を書き換えられる。私と違ってお前はこの世に生きる存在だ。何処までも歩みを続け、見果てぬ景色を掴み取れ」
そう言うとメルリヌスは崩れ落ち、身体が溶けてゆく。
「感謝するよ、メルリヌス」
「嗚呼、漸くこの身は一つの縛りから解放されるのか……」
「にゃー、もしかしてお前は“ⅱ”に魂を握られて――」
「さよならだ、猫人、夜黒。一時の死者に語る口はない」
彼は完全に消えた。
俺の中に何かが大量な流れ込んで来る。
すると転移でクローディアさんが現れる。
「夜黒さん! 無事ですか!」
「あぁ、クローディアさん。なんとか、ぶじ……」
俺の記憶はここまでだった。
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