0-2-49 “龍”という存在
思いがけない再生だが、面積を小さくした竜はその場で屈むと、俺に向かって高速のタックルをしてくる。
なんとか回避したが、人の形はしていても瓦礫が飛び出しており、掠めた際に脇腹が斬れる。
「にゃ! クロ!」
「心配するな、まだ無事だ」
メルリヌスはリュウ化といった。
わざわざ竜を変じさせるという事は竜ではなく、同音意義の龍になったと見ていいだろう。
だがこの世界では竜しか存在しない筈で、例えそれがどんなモノであれ、西洋のドラゴンや東洋の細長い竜らしい形を取るのが常だが、こいつは人の形を取っている。
この世界は凡そ地球でのファンタジーが適応している。にも関わらず――人の形。美しく整ったそれはまるで、人間がやがて龍となるみたいではないか。
「グラァァアアアア!!!」
廃材を剣の様に持ち、龍は迫る。
近くに来ていたお陰で、猫のサーベルで受けるが、相手は土や瓦礫の塊。質量の差で猫が押し切られる。その際、龍の身体から少しばかりの土や廃材が溢れる。
さっきまでの蛇みたいな体型じゃない分、かなり厄介というか、炎雷の予言関係無く死ぬかもしれない。
死の予感を肌で感じながら魔力を展開する。俺にはこの手しかない。ナイフも持っているが、俺の目で追えない相手に使っても効果は無いだろう。
「『速い魔力砲』!」
放たれた魔力砲は通常の二倍速い。
魔力圧縮による推進力を最大限に活用出来る様に射出口が考えられた基礎応用の一つ。
これに対して龍は避けた。
猫も先程見せた五つの斬撃を飛ばすが、紙一重でこの龍は回避する。まるで、何処に何が来るか分かっているかの様に。
手も足も出ないとは正にこの事だろうが、俺達にも相手の攻撃は本格的にあたってはいない。
足止めし、瞬間で出せる最大の魔力をぶつける。
それしか勝ち筋が見えない。
希望があるとすれば、相手が持久戦に弱そうな所だろうか。恐らく奴は動けば動く程壊れていく。
先程見せた高速移動からの攻撃で身体を構築する土とかが溢れていたのを見逃さなかった。
「にゃー! これでもくらえ!」
何処から取り出したのか猫は樽の様なモノを抱えて、それを投げた。一見するとただの樽だし、魔力も込められていない。
放物線を描くソレに龍が集中している間に魔力を密集させ、遠距離不適正でも関係の無い魔術の準備を進める。
龍もこれは片手を出して防いだが、その瞬間爆音が響き渡る。
魔力に反応する可能性を考慮しての爆薬による攻撃。功を奏したのかかなりの瓦礫が龍から飛び散るが、結合が硬い所為なのか爆音の割にはダメージが少ない様にも見える。
「にゃー、これでもダメかぁ」
猫の爆撃が終わると同時、俺も魔術を発動させる。かつての神との戦いでクローディアさんが見せた空間破壊の魔術。
今回は応用を織り交ぜた俺なりのアレンジだ。これは空間に作用する音波の様なモノだから遠距離不適正だろうが関係はない。
「『重い魔力の波動』」
俺を中心に円を描く様に空間が波打ち、龍の身体を壊していく。
このまま行って欲しかったが、龍となった所為かこの攻撃に適応し、奴は身体を固くする。さっきまでそんなの無かったろうに。
「グラァァアアアア!!!」
不味い。
魔力を放出していたから、回避が遅れた。
斬られた――と思った。
「にゃ、はは……クロは斬らせないよ」
俺を庇って猫が斬られる。
距離はあった筈なのに此処に現れたという事は猫の有する特異な力を使っての事なのだろう。猫の回復をしようとしたが拒否された瞬間に治る。
「にゃはは、僕は半不死身だからね」
何事も無かったかの様にケロリとした笑顔を此方に見せてくる猫に、嘘は付いていないと思い龍に意識を向けると奴は自らの身体を構築する鉄の棒を身体から引き抜き二刀流の構えを取る。
そのまま跳躍し、龍は俺と猫を同時に攻撃するが、俺達はその場を離れてその一撃を躱す。その一撃で地面に底の見えない斬撃の跡が残るが、ダンジョンの修正力により瞬く間に塞がっていく。
そういえば――。
「奴にダンジョンを攻撃させまくれ!」
「にゃはは、最高だね!」
ダンジョンには修正力があり、それを越えるとダンジョンからの制裁が降る。
具体的にはダンジョンを破壊しようとした存在にグリムリーパーと呼ばれる魔物がけしかけられ、対象が鎮圧されるまで攻撃を続けるダンジョンの掃除屋。
それを利用する。
その為に俺と猫はダンジョンの壁際まで後退し、龍の攻撃をダンジョンに誘発させる。こいつにダンジョンの知識があるのかは知らないが、こういう持久戦なら、こんな手を使っても仕方ないだろう。
「ゥゥルルルル――」
口から蒸気を垂れ流し龍は腰を低くし、此方に駆け寄る。
願いの通り龍は壁に攻撃を当てる。
それは無駄な破壊をせず、刃物でもないただの鉄柵の破片が作るとは思えない斬撃跡を残す。
何度も繰り返し、未来固定の異能を使いながら、そうやって避けていた時。
「グラァァアアアア!!!」
渾身の一撃が振るわれる。
「にゃは!」
それを猫が避け、俺に迫るが、その斬撃は第三者によって阻止される。ここまでは俺の異能の通りに物事が進んでいるが、後は分からない。
コレが俺達にも牙を剥くのか、それともこの龍にだけ矛先を向けるのかは、ダンジョンの意思次第だろう。
「フゥーーー」
独特な呼吸。
黒衣の外套。
強靭な肉体。
ダンジョンが産み落とす防衛機構の一つ。ダンジョンの為に生きる獄吏、グリムリーパーがその姿を現した。
グリムリーパーの視線は龍にだけ向けられており、近くにいる俺達には目もくれない。
一つの賭けに勝った気分だ。だが、龍という存在がどれだけの強さを有しているのかが分からない以上、グリムリーパーも殺される可能性を視野に入れなくてはならない。
七騎士の一人はグリムリーパーを殺した「獄吏狩り」の異名を持っている。殺せない相手ではないのだ。
「グラァァアアアア!!!」
「フゥーーー」
両者が激突し、龍からは大量の土や廃材、瓦礫が飛び散る。それだけグリムリーパーの一撃は強いのだと分かる。
次々と龍を構成する物質が零れ落ちていき、龍にも焦りが見える。攻め手が雑になっている。だがグリムリーパーも損傷は免れていないのか、辺りには血が飛び散る。
龍の背後から『魔力の矢』を放ちグリムリーパーの援護をする。猫も雷撃を放っており、龍の気を惹きつけている。
だが龍はこの中で最も強い存在に集中しているのか、それとも俺達での攻撃では損傷は誤差だからなのか、グリムリーパーとの戦闘を続行させる。
その所為か、やがてグリムリーパーが消え失せる。
損傷からの活動限界で身を引くとは知っていたが、予想よりも遥かに速い。こうなっては暫く現れてくれないから、残りは俺達でどうにかするしかない。
「グラァァアアアア!!!」
だが、グリムリーパーは大いに活躍してくれたのか龍は咆哮を上げるだけでその身体から破片が飛び散る様になる。
それでも咆哮を上げるのは生物としての本能なのか、魔法とやらで作られた存在に命があるのかは疑問だが。
「シッ――!!」
猫の一撃が放たれるが、グリムリーパーに適応した龍は猫の斬撃を弾き、猫はその硬さに思わずサーベルを取りこぼす。
強引な未来の改変はかなり体力を使うが、そんな事は言ってられない。
「龍が此方に来る」という未来を固定して猫に武器の回収の猶予を与える。その間俺は龍から放たれる高速の打撃をなんとか回避し続け、その身体を崩壊へと導く。
あと少しのはずなんだ。
グリムリーパーは本当に一瞬の出来事だったが、奴が与えたダメージも、消費させた身体の素材も多かった。
この龍が構成されている廃材の五分の四は削ってくれた筈なんだ。だから、あと少し。
「『魔力の重複』」
こんな時の為に用意しておいたとっておきの俺専用の魔術。日本人ならではの都合のいい最大の魔術。
何かを察知した龍はより攻撃を苛烈にし、蹴りを混ぜてくるが、ソレを回避し、猫に間に入ってもらい、距離を取る。
「『魔術の拡大解釈』
溢れ出る魔力だけでその身を宙に浮かせる。
俺の魔力の半分を此処に込める。
猫が身体を貫かれ、その勢いのまま龍は此方に突き進むが、ここまで発動したらもう俺の勝ちは確定だ。
例えグリムリーパーに適応していようと、日本人の考える「ぼくのかんがえたさいきょうのひっさつわざ」には敵わない。これはソレを実現する魔術。
「『死の十三秒』」
魔術と呼ぶには凶悪な、最早魔法と呼んだ方が早そうな魔術だ。
これは十三秒後に対象に向かって、対象が死滅する為の魔力を打ち込む時間差の魔術。理論上俺が死んでも発動は止まらない為、最悪猫は助かる。
初代クローディアの因子によって莫大な魔力を有する俺だけの必殺技だ。精々残りの数秒を楽しんで生きてくれ。
「グラァァアアアア!!!」
鉄の棒に突き刺さった猫を放り捨て、俺に迫るが、少し遅かったな。
「さよならだ、龍」
龍の身体が崩れていき、残されたのは地に横たわる人間で言う所の脊髄や背骨のみになる。それは蛇の様な状態の龍と似ており、それが核になっていたと分かる。
これで全てが終わったと思った時だった。
「言っただろう。私を越えてみせろと」
消えたはずのメルリヌスが姿を現した。
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