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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-48 竜との戦い

 次の部屋も似た様な構造だった。

 戻る道はなく、先に進むしかない様だ。

 空を見上げると太陽が輝いている。

 ただ違うとすれば、広大なフィールドに鉄柵で囲まれた国の様な物が収められているくらいだろうか。取り敢えず一周してみようとしたが、この箱庭はかなり広いから辞めた。それよりも余白が多い造りのフィールドは、何処か異様だ。


 鉄柵には白い花を咲かす植物がびっしりと巻き付いており、花からは独特な香りがする。甘ったるい、人を寄せ付けない香りだ。

 中々癖の強い香りに、思わず顔を顰めそうになる。見た目だけは綺麗で、でも香りの強い花だ。そこが残念でならない。もう少し抑えられていれば良い花だろうに。


「にゃー、これは、僕にはきついかもぉ」

「小洒落た装飾だと思うが、甘ったるいな」


 人間の俺が甘いと感じるこの植物は猫には中々厳しいのでははいだろうか。少なくとも、この門を潜りたいという気持ちは薄れる。

 門を潜った先には彩り豊かな花々が咲く廃墟だらけであり、効率良く流される水路のせせらぎが聞こえる。


「此処には誰もいないのか?」

「にゃー、人の気配はしないねぇ」


 奥に見える灰色の煉瓦で組まれた城を取り敢えずの目標として歩き出す。

 敵はおらず、罠もない。

 美しい街並みだ。


 先程の竜三体と比べると穏やかに過ぎるこの空間だが、魔眼で見てみれば植物にも建材にも不適切な過剰な魔力が込められている。


 植物は普通緑色の魔力を、薄ぼんやりと輝く程度に有しているが、此処の、廃墟となり人の手が加わっていない植物は常軌を逸する色とりどりの魔力が込められている。

 整えられた石畳の舗装路も同じ様であり、見た目とは違い何かがあるのは確かだと確信する。


「誰もいないのが怪しさ満点だな」

「にゃー、これ確か生物避けの植物だよ。だぁれも居ないのは納得だね」

「ダンジョンは本当に不思議な空間を作るもんだ」


 誰かいても困るがな。

 ダンジョンなのに外の人間が住み着いていたら大問題だ。だが、このダンジョンは誰も入り込んでいない。物好きな冒険者は住もうとするのだろうか。


 奥に進むほど魔力が濃くなる。魔眼で見るのも疲れるからしばらく魔眼はオフで行こうか。

 これで猫の鼻と俺の唯一の探索能力を封じた訳だが、建物自体はそこまで高い造りの物はなく、見晴らしは良い。建物の間隔も狭くなく、不意打ちは余程気を抜いていない限り無いだろう。


「にゃー、平和ってこんな感じなんだろうねぇ」

「整い過ぎて俺には居心地が悪いがな」

「にゃー? そう?」

「余りにも計算されすぎてる。機能美とも言えるのかもしれないが、外への渇望がいつか勝るだろうよ。人間にとって完璧なもんなんてのは、究極の暇みたいなもんだからな。勿論それを好しとする奴もいるだろうが、俺の性には合わんな」

「にゃー、人間も複雑だねぇ」

「俺が贅沢なだけ、かもしれないがな」

「にゃはは、クロが贅沢なら世の中はもっと消極的かな」


 雑談をしても敵が襲ってくる気配は一切ない。

 かつて耕されていたであろう土の広がりは、彩り豊かな花々に侵食されており、徹底した生物避けが施されている様に思える。


 これは城に次の転移の刻印が隠されているパターンか、王様と戦うパターンだろうか。

 ダンジョンは第一階層と似るのが主流らしいが、勿論例外もある。人生初のダンジョンだから緊張があるが、適度なモノだ。

 動きに影響はない。


 三十分ほど歩いたが、未だ少し距離のある城だが、城門前にたどり着いた。城は大きく灰色の煉瓦だが、城門や外堀なんかは白の煉瓦で組まれている。

 衛兵などは当然居らず、城門を潜ろうとした時魔力の圧に押される。魔眼をオンにすると、其処には漆黒の外套を纏って顔を隠した存在が立っていた。


「ほう、見えるのか」

「ダンジョンの生き物も喋れるんだな」

「一体いつ私がダンジョンの生き物だと言ったのかね?」

「なに?」

「私は――そうだな、メルリヌスとでも名乗ろうか。其処の猫人も同じだろう? “ⅱ”の被造物に過ぎない」


 猫の方を見ると明確に敵意があるのか、瞳孔が縦に開いており、尻尾も立っている。


「“ⅱ”が此処を作ったのか!」

「せめて名乗ったらどうだ? 私は名乗ったぞ」

「“ⅱ”の味方に名乗る名前はないね!」

「困ったフロ――」


 猫のサーベルが振われる。

 幻影なのか斬っても煙を裂くのと変わらず、映像は其処に残されたまま。本体は城で待っているのだろうか。


「君は“ⅱ”の言っていた春夏秋冬夜黒くんかな?」

「日本語が上手なんだな」

「では夜黒、私を越えてみせよ。“ⅱ”は言っていたよ、『あの子は最も私に近い』と。私を打倒し消え失せさせれば相応しいダンジョンの魔物が現れるだろう」


 外套を脱ぎ捨てたその姿は青白いあの存在にそっくりだった。何か魔術が発生すると思い込んだ俺は魔力を展開して凡ゆる魔術に対応出来る様に構えた。

 その時、何かが増える様な感覚を覚えた。


「私は“魔法”使いメルリヌス。これよりこの世界を書き換えよう。“植石混合(しょくせきこんごう)の適応する竜”」


 メルリヌスの背後の城が崩れ、煉瓦を鱗にした竜が創造されていく。足場の石畳も巻き込まれていき、猫を捕まえてこの魔法とやらが収まる範囲まで脱出を図る。

 家屋も、植物も巻き込まれる大規模な改変。魔術では到底起こさない奇跡の様な技だ。

 鉄柵が翼の輪郭となり、ダンジョンにあった美しい街並みは消え去り、煉瓦や花を鱗にした人造の竜が咆哮を上げる。

 その姿はとぐろを巻いており、しかしそれでもこの広大なフィールドを埋めている。


「グォオオオオ!!!」


 無駄に広いのはこの竜が自由に動ける為か。


「メルリヌスは……いないか」

「にゃー、取り敢えずあの竜を倒そうか!」

「……そうだな」


 とぐろを巻き、大翼を広げる姿。

 これだけでも充分威圧的だが、魔眼で見たその魔力は途方もない。

 あの街並み自体に魔力が込められていたのはこの竜を形成する為だったのか。生憎今回は魔力に対する道具は持ってきていない。


「グォオオオオ!!!」


 吐き出されたのは赤熱した灰塵のブレス。

 本当に魔法であるのであれば、これを真正面から防ぐのは合理的とは言えない。猫も避難の態勢を取っており、俺も回避を選択する。


 ブレスの威力だけで大地が抉れる。


 この戦いは一つ一つ神経を研ぎ澄まさなくてはならない。そう思った。だから魔力を展開して『魔力の矢』を何発か撃ち込むが、上質な魔力を含んだ煉瓦の鱗に阻まれる。

 三発程当てれば鱗は割れるが、とても効率的とは言えない。あれだけの素材が内に籠った竜だからこそ、割れた箇所は即座に内側から煉瓦が押し出される形で修復された。


 猫もマメネコを召喚して一点集中で穿っているが、この竜は人造の土くれ。一度穴を開けても即座に塞がれる。


 無闇に攻撃したんじゃ意味がない。これは俺達が引き離された状態では難しい。その為にも合流する必要があるが、中々近寄らせてくれない。

 だったら、派手に魔力を散らしてこいつの注意をこっちに引き寄せて、『夢現』をかけるのが手早い方法だろうな。


「『夢現』で騙す! その後そっちに行くから!」

「にゃ! そうだね!」


 竜の瞳が此方を向いたタイミングで『夢現』をかけ、反対方向に駆け出した俺という夢を見せる。

 その間に猫と合流して作戦を練る。


「ありゃあ物量の塊だ。搦手じゃあ倒せない」

「にゃー、魔術で削る持久戦かなぁ」

「そうなるな……」

「にゃはは、やってやろ――ッ!?」

「嘘だろ!」


 『夢現』を自力で解除したのか正確に此方を攻撃してきた竜に二人して別れる様に回避する。その際カウンターで『魔力砲』を振り下ろされた手に撃ち込み消し飛ばすが、即座に再生される。

 攻撃自体は通るが、こいつの魔術に対する適応が高すぎる。メルリヌスが「適応する」と言ってただけあって、この竜は永続系の攻撃には適応してしまうのだろう。


「『侵影』」


 太陽を背にした竜の影に侵入し、その動きを阻害する。

 本体と影の繋がりは強く、本体が動けば影が動く様に、影が動けば本体が動く。そんな性質を利用したこの魔術は影に入る事で本体の動きを止める魔術だが、相手の質量が大き過ぎて完全止めるには至らない。


 そして適応したのだろう。

 中に入った俺が無理矢理押し出される。


 猫がかなり削ったが、一向に再生が弱まる気配は見せない。

 影から排出された事で竜の正面にうつ伏せになっているが、猫に回収されその場を撤退する。


「ォオオオオオオォォォ――」


 先程までとは違う遠吠えの様なソレには魔力が込められており、波動が生じる。

 周囲の地面がささくれ立ち、聞いている此方の衣服や肌が若干切れる。どんな魔術なのかも分からない。


「にゃー、とにかく攻撃するしかないね」

「そうだな」


 猫はマメネコを召喚しまくり基礎魔術の連発で竜の表面を削り、自身の魔力でその肉体とも呼べる土を掻き出させる。

 俺はそれを見ながら『飛翔』し、空から頭部を攻撃する。頭部は比較的硬い素材が用いられていないのか魔力が薄くて助かるが、何発か入れたら魔力の多く込められた煉瓦が顔を出した。


 厄介だ。


 だが幸いなのは攻撃に適応した姿を見せない事。

 此方の攻撃に適応されたら打つ手がなくなる。そへがないだけまだ勝機はある。


 猫と入れ替わり今度は猫が空から絨毯攻撃を開始する。基礎能力に浮遊があるマメネコは浮いた状態で真下の竜に魔術を展開し、その物量で無理矢理押し潰す。

 腹這いの状態になった竜に『強い捻れた魔力砲』を放ちその鱗を出来る限り撤去する。立ちあがろうとした瞬間は『強いから魔力砲』で支点を崩して再びダウンさせる。


 この攻撃が型に嵌ったのかそれからは一方的に竜の事を攻撃できたが、やがて資源のなくなった竜はその姿を小さくしていく。

 猫もマメネコを増やして攻撃の手数を増やし、地上で召喚されたマメネコ達も援護射撃で基礎魔術を精一杯放っている。魔力の尽きた個体から消えていくが、上で無限に召喚しているから余り気にならない。


 煉瓦も尽き、土もなくなり、鉄柵も折れた。


 もうこの竜に勝ち目はない。

 無限にも思えた再生に底が見え始める。

 このまま押し切ろうと魔術を放とうとした時だった。


「“散逸した圧縮再生”および“龍化”」


 メルリヌスの声が辺りに響き、竜が再び再生する。だが魔力は殆ど込められておらず、これが最後の再生だと悟る。

 息を吹き返した竜は、先程よりも小柄だが、人の様な形をしていた。

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