0-2-47 いざ行かんダンジョン
「という訳でダンジョンを調査してきます」
「まてまて、話が飛んでるよ。一から説明しておくれ」
「人工的な魔術的物体によって齎された魔力溜まりだった様で、ダンジョンは既に出来ていました。入り口は転移魔術による物、出入りは自由なのか確かめる為にダンジョンを調査してきます」
この人はクローディアさんと違って素直に納得してくれるタイプの人類種ではないらしい。あの人が異様に話が早いだけなのかもしれないが。
「あー、わかった。追加報酬の準備をしておけば良いんだな」
「どのくらい掛かるか分からないので、数日分の食料を用意してから向かいます。では」
言いたい事だけ言って足早に部屋を退室する。あのダンジョンが凶悪なモノであっては困る。「黒の魔人」に関わる全ては絶ってあげねば、あの子が可哀想だ。
万に一つ、あの子による物だとはバレないだろうが、俺が許せないだけだ。自己満足だが、人間の行動なんてそんなもんで良いと思ってる。
いずれ戦うとしても、だ。
魔術協会の売店で携帯食を買ってポーチに詰める。ポーチは空間拡張のみが施された魔道具だから重さは入れた分だけ重くなるが、『無重力』をかけてやればポーチ一つ分の重さになる。
これで食糧用のポーチと野外用のポーチを付けても重くならない。この発見はクローディアさんにも伝わっており、『穏やかな時間の流れ』もきちんと作用している事が証明された。
必要な物を一式揃えてから猫と再びダンジョンの前まで転移で飛ぶ。
ダンジョンの周りを魔術協会で販売している立ち入りを禁止する杭と貼り紙で調査中である事を分かる様にしてからダンジョンの入り口であろう刻印の前に立つ。
「さて、入りますかね」
「にゃはは、何が出るかなぁ」
別々の場所に飛ばされる事を危惧し、猫と離れない様に手を繋いでおき、転移魔術が発動した感覚を味わう。
「いきなりだな」
中に入ると大きめの泥竜三体がいた。ダンジョンが飽和状態とも思ったが、捕食者に捕まりたくないから溢れ出たってだけか。立ち入り禁止は立てなくても良かったかもしれないな。
「にゃー、クローディアが見せた泥の竜のちょっと大きい感じかな? 数は三体で、他に罠とかもなさそうだね」
「一体は足止め、残る二体を各個撃破、最後は共闘でどうだ」
「にゃはは、いいね、それ」
泥竜三体が咆哮をあげるが、最近聞いた所為か怯む事なく動ける。『跳躍』で真ん中の一体に『雷の杭』を打ち込み身動きを封じる。
これが成功したのは単に向こうが気付いていないから。この攻撃の所為で気付かれたから隙の大きい『雷の杭』で足止めは成功しにくいだろうな。
『雷の杭』は打ち込んでしまえば俺がどれだけ離れても消える事はない。
「さて、これで一対一だな」
「グォオオオオ!!!」
迫る泥竜は機敏な動きで此方に迫るが、身体に着く泥の重さに負けてフラフラとしている。
「欲張りは良くないってな」
サイズは確かにあの時の泥竜と比べたら一回りはデカい。それだけ破壊力もあるのかもしれない。
だが――
「無意味だ」
正面から『強い捻れた魔力砲』で泥竜の身体を抉りながら30メートル分の肉体を消し飛ばす。すると泥竜は自身に着いた泥を吸収して再生する。
減った泥の量は三分の一程度。泥の濁流を吐き出して来たから『跳躍』で躱す。この泥竜は、明らかにあの時の竜より強い。
『飛翔』で周囲を飛び回りながら『魔力の矢』で泥を落とすが、吐き出された泥が纏わり付いて、補充される。
体内の泥を吐き尽くすまでは持久戦になるかもしれないな。
横目に『雷の杭』を打ち込んだ泥竜を見るが、上手く魔力が作用したのか泥が変質して固まっていた。あれなら暫くは動けないだろうな。
「『雷の槍』」
猫が居眠りしてる間に思いついた武器の形をした魔術。使ってる人はいるのかもしれないが、魔術協会の教本にはなかった魔術の一つだ。『雷の杭』の方が威力はあるが、杭は遠距離不適正云々の前に零距離魔術とも言える魔術だから今回は槍を投げ飛ばしていく。
『雷の魔力の矢』でも構わないが、魔術はイメージも大事だからより貫通力のありそうな槍を想像しただけの話。
「グォオオ……」
撃ち込まれた場所の泥が固まる異変に気付いたのか泥竜は『雷の槍』を避けようとするが、その図体のデカさ故に外す方が難しい。
この泥竜はあの時の個体とは違い無限に泥を生み出せるのかブレスの威力が落ちる事はない。一人で来ていたら間違いなく詰んでいたな。
「先ずはその泥をどうにかしないとだな」
泥を生み出す器官があるはずだ。『測量』による目測ではこの個体は50と数メートル。真っ直ぐ撃ち抜いていれば破壊できただろうか。
どこに何があるかは覚えていない。
というよりクローディアさんの解体は眺めてただけだし、もう何年も前の記憶だ。俺の持ち合わせている知識で言えば、竜のそういう器官は食道に沿う様に胃の近くにある。
真っ直ぐでもギリギリかな。
「『雷の槍』二丁」
両手に『雷の槍』を発生させ、『飛翔』で地面スレスレを滑空して竜の腹に突き刺す。
魔力を先程よりも多く内包させたから直ぐに泥は硬直し、ヒビが入る。
欲をかいては痛い目にあう。一旦その場を離れて竜の背に乗る。振り落とそうと身体を揺らす竜に対して此方は半分浮いているから態勢を崩される事なく乗り続ける。
鬱陶しく思ったのか泥竜は周囲に撒き散った泥を回収するのも兼ねて身体を地面に擦る様に仰向けになる。
それを待っていた。
「『大いなる雷撃』」
ただの雷撃であれば30メートルを越せば威力が無くなるが、この魔術は周囲の雷系統の魔力に応じて威力が上下する。
辺りには黄色の魔力が充満している。
俺は無駄に雷を使っていた訳ではない。この泥竜を確実に仕留める為に周囲に雷が満ちるのを待っていた。
全身を穿ち、焼かれた泥竜は再生することなく地面に吸収された。その際魔力が真ん中の一体へと向かった行くのが魔眼で見えた。
書物でダンジョンの魔物についても学んだが本当に死体はダンジョンに吸収されるんだな。しかし、魔力の移動が気なる。
だが今は、猫の方は終わったかな。
「グォオオオオ!!!」
「おっと」
雷の杭が切れたのか自由になった一体が此方へその口を開きながら接近してくる。
「『強い魔力砲』」
真正面から迎撃し、その肉体を粉砕しようとしたが、固まった泥に雷が阻まれる。
固めすぎたか。
泥から土の竜となったソレから離れ、猫の下へ飛ぶ。
「にゃー、クロも終わったんだね」
「待たせたか」
「にゃん、全然」
「後はあれだけだな」
最早変質した土の竜。
魔力だけ見ればさっきの個体の三倍。倒された個体の魔力が分け与えられる仕組みが施されたいたのだろう。
土の鱗を貫くのも、勿論雷でいけるが、雷を吸って土に変質したとあれば話は変わってくる。
「二人でってのは初めてだな」
「にゃはは、そうだね」
『飛翔』して近寄り身体強化かつ魔力を巡らせたナイフで斬りかかるが、弾かれてしまう。
中々厄介だ。そもそも三体分の魔力の時点でかなり厄介だが、撃ち抜けない程ではない。
だが、この後もダンジョンが続くと考えると魔力は温存しておきたい。
「遊撃任せていいか」
「にゃー、もちろん!」
猫は地を、竜の周囲を撹乱する様に駆ける。
その間に魔力を練って、無駄なく一撃で仕留められる魔術を構築していく。使う魔術は決めてある。
魔力の塊を幾つか密集させて白い輝きを強く発生させる。
これで足りなかったら猫に後始末をやってもらうだけだ。
「離れとけ」
「にゃいー、りょうかーい」
猫が離れた。
こちら側に向かって離れたのは俺の性質を理解しているからだろう。初めての共闘にしては上手く行ったほうじゃないだろうか。
「『獄炎の牢』」
紅の炎が竜を包む。
この魔術の利点は射程限界の30メートル以内に標的がいればどれだけ巨大であろうと、魔力が尽きなければ包み込めるという事。
「グォオオオオ!!!」
体感した事のない熱に焼かれる苦しみから先程までとは違う、苦痛に満ちた咆哮の様に感じられる。
土を溶かす獄炎に焼かれた竜はダンジョンに死体を還す事なく全てが焼き溶ける。
前衛がいればこんなにも戦闘は楽なのかと感じた。
ダンジョンはこのボス部屋のみで、竜を斬滅させたからなのか次の転移用の魔術印が部屋の真ん中に現れる。ダンジョン入り口の刻印と同じである事からこのダンジョンは終始そういう感じなんだろうと悟る。
因みに戻る方法はないから、攻略しないと出れない一方通行なダンジョンだという事も分かる。
「にゃー、次いこっか」
「そうだな、と言いたいが少し休ませてくれ。俺はお前達みたいな戦闘に慣れた人類種じゃあないからな」
「にゃはは、僕も戦闘タイプじゃないけどねぇ」
カンさんから貰った疲労と魔力を回復する明らかに規格外なポーションを飲む。
すると魔力は満タンまで回復し、疲労も完全に抜けきる。アンさんと違って出来るタイプの人だったか。残念美人ではないらしい。
「飲むか?」
「にゃはは、僕は対して消費してないからね」
「なら、行くか」
「うん」
猫と手を繋ぎ、次の部屋に転移した。
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