0-2-45 ヘレナ王国辺境の魔術協会
移動はスムーズに済み、フランさんが魔術を見たいと言うから時折戦闘に加わって魔力量に物を言わせた強引な基礎魔術で蹴散らしたりしながら進み、ヴィルさんとフランさんとの別れが来た。
「あの時の新人さんが魔術協会のお偉いさんになるとはなぁ。異世界人てのは本当に面白いんだな」
「……貴方の魔術、もっと見たかった」
「フランの奴がここまで気に入るのも珍しいな。プライベートでも会えたら宜しく頼むよ」
「お二人のお陰で無事にここまでこれました。戻る時もお気をつけてくださいね」
「その硬い口調は直らなかったな! 子供はもっと大人に甘えろ。お前さんはまだ、俺達からしたら子供なんだ。見た目とかじゃない。この世界に染まってないお前さんは、頼る事を覚えろ。それじゃあな」
アテナ王国での最後の昼休憩で彼等とは本当にお別れとなった。引き継ぎの冒険者は未だ若い新人らしいが、その実力は高いと太鼓判の押された期待のホープらしい。
挨拶がなく無口のソロ冒険者ということで此方から話題を振らなければ終始無口だった。ヴィルさんみたいなフランクな人はやっぱり少数派なんだろうな、と思った。
徹夜しても問題がないらしく彼による護衛もつつがなく終わり、やはり彼は無口なままギルドへと去っていった。
ヘレナ王国。
アテナ王国の隣国にして同盟国。というよりこの世界は所謂「平和な世界」で世界大戦などは起こらないそうだ。魔物の被害もあり、初代クローディアが起こした奇跡で全ての人類と呼べる存在はアテナ王国出身だから、らしい。
本当に初代は何をしたのか謎だが、その頃から西大陸とは連絡が取れなくなり、魔力濃度の高い領域が出来上がったそうだ。絶対初代がなんかやらかしたとしか思えない。あの青白い奴なら本当に世界をどうにか出来てもおかしくない。
話は戻してヘレナ王国辺境の都市には立派な魔術協会が建っている。本部と比べるとグレードは落ちるが、辺境にしてはかなり立派な造りだ。
「貴方がクローディア様の代わり……ヤクロ様ですね?」
「初めまして、ヤクロ・ヒトトセです。今回は凍結案件を解決すべくやってきました」
「にゃー、僕はシュレディンガーまたはケット・シーあるいはバステトやリンクス、まぁ好きに呼んでよ」
「お聞きしております。シュレディンガー様も優秀なお方でおると」
「にゃはは、おだてても何もでないよー?」
魔術協会の扉を開けてもらい中に入ると、やはり造りはどこも同じなのか一階の入り口には受付嬢が待機していた。ここは外から見ただけでも広い三階建てだが、空間拡張の魔術が使われているのか中はもっと広く感じる。
「ヤクロ様のお部屋は此方になります。シュレディンガー様も同じ部屋で構わないとお達しがありましたが、よろしければ別部屋も用意できますよ」
「にゃー、僕はクロと同じ部屋でいいよ」
「かしこまりました」
案内人が退室すると猫はそのままベッドにダイブしていた。二人で寝るには大きなベッドだ。布団は再びあるが、猫と寝床を本当の意味で同じにするのは初めてだな。
「にゃ、もしかして、これ、クロと寝るの?」
「部屋変えようか?」
「にゃむ、いいよ、クロなら大丈夫かな」
この前も同じ寝床にしようとしたら抵抗感あったから猫人は寝床を共にするっていうのは何か特別な意味があったりするのだろうか。
「とりあえず荷物整理するから適当にしててくれ」
「にゃー、りょーかーいー」
今回は国を跨ぐと聞いて魔術協会本部にしか置いてない様な品を色々買い込んでそれぞれポーチに詰めてある。見た目は少ないが、かなり持ってきている。
魔術協会職員は年会費を支払うが職員である事を提示すれば食堂などの様々なサービスを無料で利用可能できる。俺の場合も適応されており、年会費は給料から引かれている。
荷物の整理も出来た事だし、ベッドでゴロゴロしている猫の首根っこを掴んで立たせる。
「にゃー、ゴロゴロがー」
「仕事、行くぞ」
「にゃいー」
まったく。
一応クローディアさんにお鉢が回る案件なんだからしっかりしてくれないかねぇ。
「とりあえず支部長室に行くぞ」
思いの外ベッドを気に入ったのか未練まみれの猫を連れてヘレナ王国辺境都市の魔術協会を散策しながら支部長室を探す。
やはりというか、三階の真ん中にあった。受付から真上に『魔力砲』撃てば危険な位置な気がするが、本部もそんな造りだから長の部屋はそんなもんなのかね。
支部会室の扉を3回ノックすると中から「入れ」という女性の声が聞こえた。
「失礼します」
「にゃー、入るよー」
其処にはアンさんが居た。
「アンさん……?」
「私はカン・レベリアだ。アン姉を知ってるなら間違うのも無理はないな。私達は双子だからな」
「そっくりですね」
「紛らわしいからお互い国を変えて生活してるんだ。さて、早速だが凍結案件の受領、有り難く思う」
カンさんはそう言うと資料を渡してくる。
だがその多くは死亡届。まともな資料は全体の五分の一といったところか。やはり穏やかな依頼ではないらしいな。
「資料に目を通せば分かるとおもうが、魔力溜まりには何かがいる。感知しようにも魔力が濃いから視認できない。このままでは新たなダンジョンが出来るのも時間の問題でな」
「……確か魔力密度の高い自然にダンジョンは出来ると聞きましたが」
「もう出来ててもおかしくない。追加報酬の条件はダンジョンについてだ」
「了解しました」
資料を受け取り部屋から出ようとした時に一本のポーションをのせられる。
「疲労回復と魔力回復のポーションを混ぜた私オリジナルだ。受け取っておけ」
「あ、あはは。ありがとうございます」
この姉妹は薬品を混ぜなくては気が済まない呪いでも受けているんだろうか。飲むのは怖いから後で適正に処分させてもらおう。
部屋に戻ると猫は資料に興味がないのかベッドにダイブしていた。それ好きだな、本当に。
資料に目を通して大凡の内容を把握する。
死亡届けも立派な資料で、死因は胸部への大きな刺突。カマキリみたいな傷跡が特徴と書かれているが、コレ、もしかしてあの子がやってたんじゃないか? だとしたらもう何も居なそうだが、油断は禁物だ。他に目立った情報がないか確認を進めていく。此処最近の死亡例は魔物による攻撃らしい。あの子が此処を去ったから魔物に被害が移り変わったのだろうか。
一番考えたくないのはこの魔力溜まりが変質しているって事だな。変に力を得た自然の魔力は恐ろしい。
ふと顔を上げて窓を見ると既に夜となっていた。
ベッドを見ると一枚の布団に埋もれて猫が寝ているし、この部屋に転移魔術のマーキングを済ませてから、俺も寝るかな。
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