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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-39 少女との邂逅

「にゃー、消しとばしたら、分かんないねぇ」

「魔力の流れが分からないから消しとばしたかも分からんがな」


 俺と猫はその場で茫然としていた。

 二人とも出せるモノは全て出し切った。猫に至っては座り込んでいるが、こういう状態を立ち尽くすって言うんだろうな。

 先程まで猫が流していた漆黒の魔力はすっかり収まっており、髪の色も元の藍色に戻っている。なんとなく頭を撫でてやった。びっくりしたみたいだが、受け入れている。仕方ないだろ、丁度良い位置にあるんだから。


 痕跡が残らないのが難点だが、あの子には申し訳ないな。漆黒の魔力については猫からも聞けるし、当分は研究出来そうだな。


 なんて思っていた時だった。


「……まさか分け身が破られるなんてな」

「――ッ!?」


 ぶっきらぼうな喋り方、声は女性らしさが増していたが、あの時の声に近いものを感じる。

 大きくなった。だが成人しているかと問われれば微妙な所で、中学生になったくらいの身長だ。まともな栄養が取れていないのか痩せているから、実際の年齢は推測し難いが、あの時を小一と思えば納得の成長具合だ。


「分身とは思わなかったな」

(一応『録画』させてもらおうかね)

「にゃはは、二回戦かぁ」

「……いや、あんたらとはまだ戦わない。このコートの礼もあるしな」


 どうやら彼女には対話する意思があるらしい。

 それに、まだ、か。いずれ闘う様な口ぶりだが、ソレは勘弁願いたい所だ。


「あんたらが来るとは思わなかったから森に放ってある意思のない分け身で対応させて貰ったが、ちゃんと話しておこうと思ってな」


 分け身とやらには意思がないらしい。

 魔術でも分け身――分身体を生み出すのは困難、というよりそんな魔術はないが、この子はソレを編み出したのか。

 魂なんて分野がある世界だからなのか意思はないのか、それともこの子が未熟だからなのか。とにかくあれが分身ならこの子にはアレと同じく力があると見ていいだろう。


 「黒の魔人」。


 言い得て妙だ。

 漆黒の物体で人類種を殺す彼女に与えられて然るべきとも言える忌み名だ。

 だが俺との対話でこの子の危険度を減らす事はできる。この子には理性がある。コートの礼なんて、野生には存在しない。


「名前を言ってなかったな俺は――」

「夜黒だろ? そっちはシュレディンガー」

「……どこでそれを?」

「言えないな」


 数秒目を合わせてみるが、この子は頑なに言おうとしない。ならば仕方ない。


「詮索はしないでおくよ。こっちは話したい事があるんだ」

「人類種を殺した事について? ああそれか」


 まるで誰かと対話している様な。

 報告書にあった通りだな。間違いなく彼女の近く(・・)には何かいる。それも魔力によらない大きな存在だ。彼女程の力を持ってしても大人しく従う程の存在。


「話が早くて助かるな。よければ情報源を――話し相手を明かしてくれると助かるんだかな」

「……無理だ。あんたはいずれ知れるよ」

「そうか」


 タイムラグがあるのは何かと対話してると見ていいか? 俺には何故かそれが薄く分かるが、明確には捉えられない。魔力もエスなんたらみたいに取り込まれている訳でもない、と思いたい。

 この子の魔力は余りにも多すぎる。脳の防衛機構なのか眼を灼く魔力は見えない。眼を灼くのは、俺よりも魔力が多い証。猫なんかもそうだな。


「……あんたに話したいのは、私には手を出すなって伝えてほしいこと。暫くしたら西大陸に行くからそれまでは放っておいてほしい」

「子供が西に行くのは引き止めたいが」

「分け身に手間取ったあんたらに言われたくないね」

「見てたのか」

「……大陸には移動する。忌み名ってのもそれでいつか薄れるだろうから。私にはやるべき事がある」


 そう言ったこの子の瞳は憎悪に溢れていた。空気を読める日本人を辞めたつもりはないから分かるが、この子は何かに復讐しようとしてる。それも、まだ力は足りてないと自覚して。

 引き止めるべきだろうか。俺の勘はこの子には関わるなと云っているが、止めなくては取り返しの付かない事態になりそうだとも思ってる。


「にゃー、その存在は“ⅱ”かな」

「……シュレディンガー、この場で殺すか? 私が殺せば死ぬだろう?」


 彼女が黒い魔力を噴出させると空に一人の存在が投影される。どことなく俺に似てる気もするが、青白いその姿は今にも消えてしまいそうだった。


「やめておけ」


 たった一言。

 それだけでこの場にいる全ては諦めた。猫も問い詰める方を諦め、彼女も猫を殺す事を諦めた。俺も、猫に加勢する事を諦めた。

 圧倒的な格の違いとはこの事を言うのだと体現した様なソレが、彼女の近くに潜む何者かだと分かり、鼓動が早まる。早く離れたいと警鐘が鳴り響く。


 その一言だけ言うと青白い長髪の存在は霧の様に消え去った。


 未だ鼓動は早鐘を打つが、表面に余り出ないのが幸いし誰にも動揺を悟られていない。彼女はバツの悪そうな顔をしているし、猫は固まっている。


「君が西の大陸に行く事は告げよう。それでいいかな」

「……話が早くて助かる。私も、無駄な殺しはしたくないんだ。勝手に死なれて忌み名が付くなんて最悪だろう?」


 彼女はそうだ、と言って美しく輝く光の球を此方に差し出してくる。それは何処か魂に似ていて、でも魂にしては硬質で。どういう物なのか見当も付かない。だが悪い気は放っていない。

 呪いの類なら如何に魔力が濃くても漏れ出る悪意で分かる。それが無いってことはこれは見た目通り良さそうな物なのだろう。


「コートの礼だ。神の一品てだけあって長持ちしてるよ」

「……さっきの人の入れ知恵かな」

「それは言えない」


 この子には悪いがもう少し会話を続けさせて貰おう。さっきから余計な一言(・・・・・)があると感じられる。恐らくさっきの青白いのも完璧にはコントロール出来ていないんだろう。

 魂というモノが明確に存在するのであれば自意識も付随して間違いない。アレはソレを掌握出来てない今しか話を聞くタイミングはない。西の大陸に行かれては探すのは困難を極める。


 ならば聞ける事は聞く。


 悪く思わないで欲しいし、今のこの子の調子なら俺とは突然戦闘にはならない。猫には黙っている様にアイコンタクトをし、会話に移る。


「黒い魔力について聞きたいんだがいいかな。君の危険度を下げるには知っておかないといけない」

「……魔術適正が進歩すれば分かる」

「今の君の所感を聞かなくては上は納得しなくてね」

「……あんたの相棒も使ってただろ。同じだよ、同じ」

「魔力は人によって千差万別。君のを知りたいんだ」

「ふぅーー、そうか。なら、そうだな」


 そう言うと彼女は球状の黒い物質を背中に幾つか展開して森の木々を切って見せる。切断面はやはり腐食しており、攻撃生の高さを改めて魅せられるが、分身よりも切れ味が遥かに高い。無駄な破壊はなく、綺麗に切れている。

 そうなると森の入り口も分身によるモノと見て良いだろう。本体の方が遥かに技量が高い。


「見て分かったか?」

「切断能力に腐食効果、後は自在性くらいなら」

「それだけ分かれば充分ていうか、それが全てだ」

「最後に一ついいかな」


 彼女は黒い物質を消して此方に向き直る。


「変な事じゃなければ」

「なら西の大陸にはいつ行く? この森とて君の物じゃない。此処でしか取れない物もある。だから君に忌み名が付いたとも言えるが」

「あんたが望むなら今すぐにでもいくよ」

「なら早めに行ってくれるか? 冒険者に襲われるのは面倒だろ?」

「なら、もう行くかな」


 これ以上聞く事はない。

 俺としても彼女が即座に行ってくれるなら助かる。


「西は未開拓だから、気をつけろよ。あと分身はちゃんと消してくれよ?」

「……西には詳しくてね。心配はいらない」


 そう言うと彼女は飛んで行ってしまった。


 張り詰めていた空気が緩み、猫は再び座り込む。俺も立っているのが疲れたから地面にへたり込む。


「にゃはは、生き残れたね」

「全くだ。クローディアさんに報告する事を纏めないとだ」

「クロ、今日は此処で寝てかない? 近くにあの子の寝床があるみたいだし」

「そうだな、期限は言われてないし、許されるかな」


 あの子――名前を聞きそびれたが――の寝床と思わしき岩場までなんとか歩いて辿り着き、結界魔術を適当に張って猫と二人で眠りについた。

 魔物の気配も無いから、きっとあの子が全て殺し尽くしたのだろう。結界はいらなかったかとも思ったが念の為に張った。

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