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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-37 森の散策

 準備を整えて飛行魔術で昼前には西の森の入り口に着いた。念のためここにも転移魔術のマーキングをしておく。

 転移魔術のマーキング数には制限はないが魔術学園のマーキングは解除しておいた。あそこに行くのに飛行魔術使えばそこまで時間はかからないからな。無駄な物は断捨離が大事だ。


「にゃー、いつもみたいに探す?」

「それしかないな。俺の魔眼も通じないだろうから残滓を上手く見つけないと発見出来ないだろうしな」


 だが今まで調査に出た冒険者は直ぐに見つけてるって事は、魔力を垂れ流してれば案外すぐ見つかったりしてな。その言葉は出さなかった。出したら延々と見つからないのでは、と思ったから。

 俺個人としては見つからないのがベストだ。彼女が炎雷の使い手なら間違いなく俺は此処で死ぬ、可能性が極めて高い。大地に触れておけば炎は防げた、それは見ているが雷は結局悪戯に抗えなかったしなぁ。


 とりあえず不安はあるが探索だ。


 依頼を受けた以上は遂行しなくてはならない。それが例え嫌な予感が最初からするモノであっても、一度受けたからには自分の出来うる限りを尽くすのが魔術協会職員としてのプライドみたいなもんだ。

 特別推薦で所属させて貰ってるからってのもあるけどな。本当なら俺は地道にランクを上げる一般人だった。それをいきなりCランク相当の待遇になったんだから、やるべき事はやろうと思う。


「にゃー、あんまり人の匂いはしないなぁ」

「そうか? 大分人の手が入ってると思うが」

「にゃー……あの子の匂いがしないってこと。人の匂いはあるけど、あの独特な香りはしないなって」


 匂いまで独特だったのか。

 普通の人間としては、あの時覚えてる限りでは血生臭いって印象しかないけどな。オーガの子供とか殺してたし。

 俺も獣人に生まれてれば何か感じられたのかもしれないが、残念ながら俺は日本人的感性しか持っていない。匂いとか近くにいないと分からない。


 兎に角今はあの子と思われる存在を探さなくてはならないが、森の入り口にはまるで切れ味の悪い刃物で斬りつけた様な傷が多くある。

 標的なりの警告なのだろうか。足を踏み入れた瞬間から感じ取れる程の感知能力があるのだろうか。


 まるで野生動物みたいな縄張り表示だな。


 恐らく人間的な教育は受けてない。あの子がそのまま野生児として育っていれば、こうなるのだろうか。いや、そんな粗雑な子には見えなかったが、野生に身を任すとこうなるのだろうか。、


「にゃー、明確にこの森を縄張りにしてるね」

「足を入れるのが怖いな」

「にゃはは、クロにもそういうのあるんだ」

「当たり前だろ? 俺は俺の命が可愛いんだ」


 さて、足を踏み入れますかね。


 特に何もないな。


 それが逆に怖いんだかな。


 とりあえず縄張り表示もとい警告を魔眼で見ると、切り口が漆黒に染まっている。標的が付けた表示と見ていいだろう。

 野生動物の生態系に影響を与えていなければ良いんだが、この調子だと森の魔物ごと鏖殺なんて事もあるかもしれない。


 森の様子は入り口を除けば至って普通の森だった。この世界に来てから最早森にいる時間の長い俺が言うんだからそりゃあもう森って感じの森だ。

 縄張り表示は入り口だけなのか少し進んだ所には何もない。それもそうか。野生動物もそんな近くに縄張り表示はしない。もう少し潜ればまた警告があるかもしれない。


 木々が生い茂っているが、植物は少なく歩きやすい。落ち葉もそこそこで、足場はしっかりとしている。この森は循環が上手くいっているのだろう。

 自然破壊していたら流石にこちらからも警告を入れるが、やはりあの子は常識を弁えていると見ていいだろう。一体どれだけの期間オーガに囚われていたのかは知らないが。出来るなら彼女から忌み名を取り除いて普通の幸せをすごして欲しい。


 幸せがなんなのかは分からないし、もしかすると今が幸せなのかもしれないが。

 あの時近くに都市や集落はなかった。徒歩で森に入ってオーガにワザと捕まった可能性すらある。

 あの時の光景を思い出せばオーガ如きにあっさりと捕まるとは思えない。あの最中で力に覚醒したとかだろうか。漫画じゃないんだ、そんな奇跡、あるだろうか。


「にゃー、なんともないね」

「入ってすぐに襲われると思ったんだがな」

「にゃはは、案外こっちの事観察してたり」


 魔力を目一杯――といっても30メートルだが――広げた範囲の中に生物はいない。猫もまだ何も感じていないのかお散歩感覚といった調子で歩いている。

 良く辺りを見れば木々には所々木の実を取られた痕跡がある。この世界の栄養価は知らないが俺がこの世界に来た時は果物一つで満足できたんだから、地球とは違うのかもしれない。某美食漫画みたいな感じかな。


「にゃー、川の流れる音だ」

「行ってみるか」


 こういう森の探索で猫の五感は大変助かる。

 今までもお世話になってきてその正確さは有難い。

 川の音だけという事はそこに標的は居ない、加えて魔術で俺達を狙撃できる距離にも敵がいない事を確認してから猫は休憩を提案する。


 この依頼、俺の緊張が伝わったのか猫は早くも、まだ三十分も経たないというのに休憩を提案してきた。


 気を遣わせたな。


 とりあえず川までいって食料の確保と拠点を作って休憩しよう。まだ標的には遭遇しないし、その気配もない。俺の勘でもまだ襲われないと思っている。

 こういう時の勘は良く当たるモノで、三つ目の能力なんじゃないかと思う程だ。


 休憩中に未来固定をしてもいいんだが、この依頼では時間操作は余りお勧めしないっていう勘もある。


 何が起こるか分からないから襲われた際は持てる限りの手段で迎え撃つとしよう。だが忘れてはならないのが、依頼の内容は「『黒の魔人』の調査」ということ。標的が世界の敵なのかを見極めるのが今回の依頼だ。

 俺が積極的に戦う必要はない。


 猫が川の魚を取ってきたようだ。

 火起こしは基本的に俺の仕事、というより猫は細かな魔術を得意としていない。大雑把だから食料が焦げの塊に変わったのは良い思い出だ。


「ほら、焼けたぞ」

「にゃはは、クロは相変わらず上手だね」

「お前が下手なだけだ」

「にゃー、僕はそういう仕事はしないのっ」


 猫と魚を食べている時、背後から猛烈な死の気配を感じて猫を抱えるようにその場から緊急回避する。

 猫も気付いていなかったのか何が起きたのか把握していないが、俺たちが居た所には鋭い黒色の何かが突き刺さっている。

 それは木の裏から伸びており、姿は見えないが、間違いなくあの子の攻撃だと確信する。


 相変わらず魔力は感じられないが、あの時より輝きを増した漆黒の魔力が地面に刺さる物体から漏れて見える。

 猫の感知すらもすり抜けるとは、野生による気配を消す英才教育とでもいうべきか。


 なんにせよ、とんでもないタイミングで遭遇してしまった様だ。

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