0-2-35 隠しきれてなかった王様
エルフの隠れ里に来てから一週間程が経った。その間目的もないし帰ろうかと考えていたが、精霊の活性化は収まらず、寧ろより活発となっていた。
また、この前精霊に会ったと話したら何か言っていたかと問われたから「王様がいるらしい」と答えておいた。その言葉に驚きを隠せないギルバートさんだったが、次には笑っていた。
それで、ギルバートさんからこれも何かの縁だと言われ、滞在を引き延ばして借りている小屋で休憩していた時だった。
『夜黒さん、今大丈夫ですか?』
おや、珍しい。
普段は俺からしか掛けないし、雑談も多いから最近掛けなくなったクローディアさんから『念話』が届くなんて、何か問題起こしちゃってたか?
『クローディアさんから掛けてくるなんて、珍しいな』
『少し気になる依頼が届きまして……』
『エルフの里長にまだ居ていいって言われたばっかりなんですけど、緊急ですか?』
『いえ! エルフに気に入られたのですね。この依頼は夜黒さん用にとっておきますので――そうですね、一年以内に帰ってきて頂ければ』
一年……そういえばこの人もエルフだったな。
時間感覚狂ってるから出てくる言葉だな。それに、そんなにこの里に留まる予定はない。早くてもあと一月したら帰還予定だ。
『あと少ししたら帰りますよ』
『いえいえ、それじゃあまた』
はてさてどんな依頼が待ってるのやら。
次は何をしようか考えていたら、メンヒさんから話しかけられる。佇まいを正しており、なんだか圧倒される。この人がそういう仕草をするだけで、顔は見えないけど様になるんだから不思議だ。
「ヤクロ殿はこの精霊の活性化をどう見る?」
「どう、とは?」
まさかあんたからこんな質問をされるなんてな。悪いが精霊との会話と、これまでの振り返りで俺は大まかな答えを一つ持っている。
この前猫にも言ったら、それなら納得が行くと頷いていたし間違いない、と見ていいだろう。
「例を見ない活性化、何かありそうとは思わないのか、と」
「正直言っていいなら話すけど」
「忌憚のない意見を聞きたい」
「なら、あんたが怪しいよ、メンヒさん」
「私?」
全くの予想外なのかメンヒさんは面食らった様な態度を見せる。相変わらず笠やら護符やらで顔こそ伺えないが、きっと驚いた顔をしているに違いない。
「メンヒさんから漏れてる魔力は淀みのない澄んだ透明な魔力。何色にも染まってない純白よりも珍しい透明な魔力なんて、人間では考えられない」
「ふむ」
「そしてこの前王様が来てる、俺は会った事があると精霊は語った。ここらの出会いでそんな特別――特異性を持ってるのはあんたしかいない」
「なるほど」
「だからあんたが原因だと思ってるよ、精霊王」
メンヒさんは改めて居住まいを正すと、笠と護符を取り初めて素顔を晒す。近くに居た猫もびっくりしており、何より俺もびっくりした。
純白に輝く睫毛、眉毛、頭髪、瞳。
この世ならざる存在としか思えない姿に唖然とする。精霊の王ってくらいだから何かしら見た目にインパクトはあると思っていたが、こんな見た目ならそりゃあ笠やら護符やらで隠すわな。
それにそれらには魔力を抑える力が有ったのかいきなり膨大な魔力が発生し、しかし魔眼で見ても透明なその魔力は俺の瞳を灼く事は無かった。
ただ無色透明。
この人は枷を解いて尚その真髄は澄み切っていた。
そして、膨れ上がる際は感じた魔力を一切感じない。
「騙した様で申し訳ないが、ヤクロ殿、私は貴方の言う通り精霊王。改めて真の名を語ろう。私はユグドラシル。今まで通りメンヒでも構わないし、ユグドラシルでも構わないよ」
「あんたが一箇所に留まるとこうなるのか?」
「姿は隠しているが、子供達は敏感でね。どうしてもバレてしまう。特殊な属性の子達は集まらないけどね」
内に溜めていたものをスッキリさせた様子のメンヒさんは再び護符やら笠やらで顔を覆い隠す。
「エルフにも見せてやればいいのに」
「困惑するだろう? いきなり信仰の王が現れては」
「俺達も困惑するんだがな」
「にゃー、精霊王なんて初めて見たよー」
メンヒさんはエルフには内緒にしてくれと言って立ち上がる。魔術で荷造りも終えたのかいつでも出発できる格好だ。
ああ、この人は一所に固まれない。だからエルフから時の人の話を聞き出すのも急いでいたのか。
そして、これがお別れだ。
メンヒさんは俺達に深く頭を下げると、不可視化する。精霊の子供が出来た技術をメンヒさんが使えない訳がない。クローディアさんに紹介したかったが、それは叶わなかったな。
彼女も会えば良い刺激を受けられただろうに。消える前に引き留めれば良かっただろうか。いや、メンヒさんはきっと仕事を終えたんだ。これでよかったのかもしれない。
突如膨れ上がった魔力は完全に消せず、膨れ上がりの中途半端な魔力に反応してギルバートさんがノックもせずに入ってくる。
「無事か!?」
「ああ、ギルバートさん。ええ、大丈夫です。それと、このお祭りも次期に終わりますよ」
「というと?」
「精霊王が帰還しました。此処には精霊王が居たんですよ。それが理由で辺りの魔力が活性化して、精霊も活性化したんだ」
「そうだったのか、なら問題はないな。二人ともまだ朝食には時間がある。休んでていいぞ」
二人。
ギルバートさんの記憶にメンヒさんはもう居ないんだろう。猫も不思議そうにしていた。
「メンヒさんの記憶は無くなってるみたいだな」
「にゃはは、覚えさせとけばいいのにね」
深く頭を下げたのは謝罪の意味か、それとも精霊の子供達が言っていた俺の未来での死についてなのか。とりあえず身体エルフの里に留まる理由は本当に消えたな。
里の子供達にクローディアになる気のある子はいなかったし、魔術の適正も人間よりちょっと高い程度だ。強力な力を受け継ぐにはそれに見合った器が無くてはならない。
「さて、俺達もここから去りますかね」
「にゃー? ご飯は?」
「適当に保存食で済ました」
「にゃはは、じゃあ僕らも消えよっか」
猫と手を繋ぎ『忘却』の魔術を発動する。俺だけでは30メートルという限界があるが、こうやって猫と共同発動なら距離制限は無くなる。
魔術が発動された事を確認し、俺達が居たという痕跡そのものを『抹消』させ、転移魔術でクローディアさんの執務室へと飛んだ。
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