0-2-34 精霊のお告げ
目を覚ましていつも通りのルーティンをこなしてから精霊の悪戯を受けた森に再びやってきた。
今回は猫とメンヒさんはお留守番、というより書き置きだけ残して朝早くに森にやってきた。
寒い。
今は日本で言うところの秋のはずなんだが、この異様な寒さ、辺りに広がる水色の魔力。
存在するのであれば氷の妖精の仕業だろう。メンヒさんが居れば何の妖精の仕業か分かったかもしれないが、とある仮設を基にこうして一人で来てる訳で。
とりあえず色んな属性魔力を辺りに撒き散らし精霊を呼び寄せる。土の魔力だけは意図的に出さない様にしている。
これが餌になるかは分からないが、やらない損よりやる損だ。この程度の魔力消費は痒くもないし。
「お兄さん私の魔力はくれないの?」
「あんたは……土の精霊か?」
「そう、私は土の精霊。精霊に個別の名前はないけど人類種さんからはノームと呼ばれてるわ」
なんと土の精霊が出てきてくれた。美味しいキノコを出してくれたし友好的な存在と思っていたが、まさかこんなにも早く出会えるとは思ってなかった。
見た目は少女、茶髪に茶色の瞳。喋り方は大人びているが、その見た目とは合致しない。その何処かアンバランスさが神秘性を齎しているとも言えるが。
「精霊に会ってみたくてな。ほら、土の魔力」
「わぁ、お兄さんは何でも出せるのね」
「今のところ思いつく限りの属性は出せてるからな」
精霊は魔力をその身に吸収していく。口で吸うもんだと思っていたが、全身を使って吸収するらしい。
俺の手元を離れた魔力を操って全身に行き渡る様にしている。
精霊は外部魔力に変換された魔力を自在に操れるのか。これは驚きだな。クローディアさんはこの事知ってるのか……二万五千年もの積み上げがあれば流石に知ってるか。
「お兄さんは、色んな精霊に好かれてるね」
「え? ノームだけしかいないけど」
「ふふっ、ちょっと屈んで」
ふむ、屈むくらいなら。
「精霊の祝福を」
そう言ってノームの手が俺の瞳に当てられた。
ゆっくりとした動作だから避けるのは簡単だが、悪意は籠ってないし、なにより祝福と言われたら貰いたくなるのが人間の性分てもんだ。
冷たく冷やされた手が離れると、魔眼では見えなかった精霊の姿が見える様になる。
「よーやく見えるようになったか!」
「昨日は面白かったね」
赤髪の女の子と金髪の女の子が話しかけてくる。推測通りなら火の精霊と雷の精霊だろう。
「なんでノームは見えたんだ?」
「だって私の魔力だけ出さないんだもの。あんなに沢山だしてるから可視化して貰いに来たのよ」
「なるほどね」
可視化。
精霊はその姿を普段見せないのは、可視化していないからなのか。もし魔力の濃い所があれば其処には精霊が居たのかもしれないな。
輝色魔眼はあくまでも魔力の色と輝きを見る魔眼だ。精霊の不可視化を見破る魔眼ではない。
今思えば、エルフの住処探しで沢山の魔力溜まりとも言える不自然な箇所を何個も見てきた。そこには精霊が居たんだろうな。
「私は火の精霊! 人類種からはサラマンダーって呼ばれてる!」
「僕は雷の精霊、人類種はヴォルトって呼んでるね。よろしくね」
「俺はヤクロ・ヒトトセ、三人とも好きに呼んでくれ」
精霊三人と挨拶が出来て俺としては充分な成果なんだが、この子供達は見た目通り子供。遊ばなくては満足しないらしく、さよならしようとしたら引き止められてしまった。
「ノーム! フィールド作ってくれよ!」
サラマンダーが炎を纏う。頭髪が炎に変わり、その身体も所々から炎が上がっている。
「あたしだけしょぼい恩恵しか与えらんないからな! こうやって遊べる相手がいるなら楽しまなきゃ損だろ!」
どうやら炎の精霊様は軽い戦闘をご所望らしい。
ヴォルトは昨日ので満足したのか観戦の態勢を取っている。ノームは辺りの大地を操作して軽い戦いの場を整える。
どうやら他にも精霊がいるらしく、臆病な子――植物の精霊は辺りの木々を動かしてくれたそうだ。
その子の魔力の色は緑らしいから、緑の魔力を適当に飛ばしておいた。
場を整える間にノームが教えてくれたが、精霊は可視化――顕現出来るのは世界に一人だけらしく、不可視化している間はその意識を世界中に散らしているそうだ。
故に精霊は面白そうな人類種の情報は手にしているそうで、ノームの言葉を噛み砕くと全属性を満遍なく扱える俺は面白い玩具だそうだ。
「ヤクロ! お前には縛りがあるみたいだからな! 先手は譲ってやるよ!」
「なら、遠慮なく」
サラマンダーが両手を広げて受けの姿勢を取るのに対して俺は魔力を展開して属性を指定する。勿論炎が相手だから遠慮なんてせずに水の魔力を使用する。その髪の毛が消火されたら禿げるのだろうか。
放つ魔術は『水の魔力砲』。基礎的な魔術の応用が故に効率良く魔力を使えて威力も消防車の放水を超えるんだから魔術は凄いとしか言い様がない。
こいつを真正面から受けて退け反らなかったら、精霊はそれだけ規格外という事だ。
放水が終わり白い煙が辺りに広がる。サラマンダーからは声が聞こえないが魔眼ではしっかりとその赤く強い輝きが見える。
これは、予想外だ。
「あはは! 強いなヤクロ! 今度はこっちの番だ!」
やばい。
クローディアさんよりも瞬間で展開出来る魔力が多過ぎる。俺の魔力は確かに多いが、展開出来る魔力には限度がある。
急いで魔力を展開し、幾つもの『魔力障壁』を展開してサラマンダーの一撃を防ぐ準備をする。
両手が突き出された形。
空間をなぞる様な手つき。
赤く輝く炎の塊がサラマンダーの掌に現れる。
「火力こそ! パワー!」
頭悪そうな掛け声で放たれた一撃は想像以上の火力を伴って此方へ迫る。展開した『魔力障壁』全てを打ち抜かれ焼死すると思ったらノームが大地を操り炎を遮断する。
「サラマンダー、貴方やり過ぎよ?」
「あはは! 人間には少し辛かったか!」
少しどころではない。
久しぶりに死を覚悟した。それ程の魔術だった。
「ヤクロ、僕達が君の前に現れたのには王様がいるからっていうのもあるけど、少しだけ未来が見えたからなんだ」
「ん?」
「君は近い未来炎雷に穿たれる。その時大地があれば君は助かる。未来と今は繋がってるから、君は何となくノームの魔力を外したと思ってるかもしれないけど、それは君の回避する力が齎した未来への警鐘なんだよ」
俺の回避する力? 俺は確かに未来固定と過去回避を持ってるが、未来を見通してどうこう出来る訳ではない。
「そうね、お兄さんは今起きた事をちゃんと覚えてないといけないわ。じゃないと、死んじゃうもの。その時私達は手が出せないから」
さらっと凄い事を言われているが、要は大地を大切に炎雷を得意とする魔術師とは極力戦闘するなって事だろうな。
精霊が未来を感じ取れるという事には驚きだが、永い年月を生きる彼女達だからこその芸当なのかもしれないな。忠告はしっかりと受け取っておくが、それよりも気になった言葉がある。
「王様って誰の事だ?」
「王様は王様だよ」
「おーさまはあたし達精霊の王! とっても凄いお方だぞ!」
「貴方も毎日見てる筈ですよ」
益々分からん。
だがなんとなくあの人なんじゃないかなと思うが、それならあの反応は些か疑問が残る。全てを知ってる訳ではないのだろうか。
「あら、来ちゃった」
「なに! 隠れないとだな!」
「さよならヤクロ。僕達は余り人前に出たくないんだ」
そう言って彼女達は不可視化した。魔力の塊が其処にあるだけで、一切見えず、手を伸ばしても空を切るだけ。
もしかしたら留まっていたから魔力が集まっているだけなのかもしれない。
「にゃー、クロ! 置いてくなんてひどいよ!」
振り返ると猫が腰に手を当てて怒ってますと言わんばかりに頬を膨らまして立っていた。
今日はもうやる事をないと告げ、二人で森を散策した。やはりヴォルトは悪戯が好きなのか何度も静電気を浴びせてきたし、サラマンダーに至っては炎を吹き付けて来た。
猫が上手く対処してくれたから何とかなったが、普通に迷惑だ。精霊に好かれるってのもかんがえものだと思ったら、林檎みたいなものが木から降ってきた。
猫がキャッチし、俺の為だと言うから一口食べたら凄く美味しかった。『切断』で猫にも分けて二人で食べた。
今日の収穫は満足のいくもので、エルフ飯にもありつけて満足いく一日となり、眠りについた。
今日は声は聞こえなかった。
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