0-2-33 精霊との触れ合い
宴から数日経ち、エルフの里には異変が起きていた。異変と言っても俺達によって齎された悪い異変ではなく、良い異変であるらしいが。
それは精霊の活性化。あらゆる属性の精霊がこの地へとやってきているらしく、自然と共に生きるエルフにとっては軽いお祭り状態である。
「嗚呼、火の精霊様ぁ……」
「見てくれよ! 土の精霊様がこんなにお恵みを!」
「最近天気に恵まれてるのはどの精霊様のお陰かしら」
集落に建てられているそれぞれの精霊を祀る祠には献上品に溢れている。ギルバートさんもこれにはびっくりしていたみたいで「四千年生きてるが初めてだ」と呟いていた。そんなに生きてるとかエルフ凄いな。
ちなみにエルフは幼年期、成人期、老年期に分けられ、幼年期は身体の小さな百年間、成人期は人間の成人した姿の数千年間、老年期は死の直前一週間らしい。どうりで年老いたエルフに会わない訳だ。だがそのどれもが急激な変化ではなく、徐々に移ろい変わるらしく、エルフが年で寝込むのは本当に死の直前らしい。
精霊異変とも呼べるこの現象を解明するのも楽しそうだとギルバートさんに許可を貰って周辺地域を、もし出会えたら精霊にも会ってみたいという欲を抱えつつ散策している。勿論猫も同席しており、メンヒさんも何故か加わっている。
俺的にはメンヒさんが原因の一つなんじゃないかと疑っているが、本人に聞こうにも話のネタがないから振ろうにも振れない。もどかしい。
「魔眼で見るに、確かに魔力が活性化してるなぁ」
「にゃー、精霊さんには会えるかなぁ」
「ヤクロ殿は魔眼を持っていたのか」
「あれ? 言ってませんでしたっけ。俺には輝色魔眼ってのがあって、魔力の輝きとか色を見れるんですよ」
ふむふむと頷くメンヒさんだが、何も知らずにこの光景だけ見たら品定めみたいで怖いな。無駄にこの人タッパがあるから、修験者というか、僧兵みたいな感じだ。線は細いからなんとか兵要素は抜けてるが、持ってる錫杖とかで殴られたら痛そう。
その後何も言って来なくなったメンヒさんを放置してあたりの魔力の痕跡から精霊の足跡と思われるモノを発見した。だが途中で途切れているから空でも飛んだのだろうか。いや、それならなんでここだけ歩いたのか疑問が残るが、答えは直ぐに分かった。
地面からキノコが生えてきた。
足跡は地球で言う松の木みたいな周りに茶色く付いており、それに沿ってキノコが生えた。仮称松茸のコレは精霊のお恵みと見ていいのだろうか。
仮にカエンタケみたいな触れたらアウト的なキノコだったら困るが、精霊の魔力を感じる為に採取したいと悩んでいるとメンヒさんが声を上げた。
「おお、土の精霊はこうやってキノコを生やすのだな。ヤクロ殿、これはエルフの村に持ち帰っておこうか」
「触れても大丈夫なのか?」
「精霊は悪しき者には罰を与えたりもするが、悪戯に悪意を振り撒いたりはしないよ」
「ならこれはお土産だな」
メンヒさんは精霊に詳しいんだな。でもお恵みの仕方は初めて見たのか本当に驚いているのが魔眼越しに分かる。こういう澄んだ人の反応は見てて楽しい。是非このままでいて欲しい人だ。
メンヒさんが言うんだからと猫が率先してキノコを採取し、俺のポーチに押し込んで来た。こいつもこいつでなんだか愛着が湧いてきてるから、変わってほしくはないが、勝手に人のポーチを使うのは辞めて欲しい。
「にゃはは、この辺は土の精霊がいっぱいなんだね」
「そうか? 魔眼だと今のキノコ現象だけな気がするが」
「にゃー、お空にいっぱい匂いが残ってるよ」
空、確かに茶色く染まっているな。
精霊ってどんな存在なんだろうか。魔力の集合体が意思を持つとは思えないし、人々の信仰で成り立ってる不思議生命体なんだろうか。だとすると人類種は信仰するだけで大きな力を謎の存在に手渡してる事になるが。この辺、どっかの国は疑問視しないのかね。
人類種の集落として最も繁栄してるアテナ王国が精霊信仰を許してるから何も言わないって感じなのかな。
色々この世界についても考えなくてはな、とか思っていたら泉に辿り着いた。ギルバートさんが近くに泉があるって言ってたのはコレか。
綺麗な水だし、青色の魔力が濃い。飲み水としても使えそうだが、流石にこういう水を飲むのは未だに憚られる。猫は手で掬ってのんでるし、メンヒさんも器を取り出して飲んでるけど。
「にゃー、美味しい!」
「うむ、まるで優しい蜜の様な味わいだ」
えぇ……。
これ、俺も飲まなきゃダメか?
むーん、ま、飲むか。
「あ、美味い」
「にゃはは、でしょー」
口当たりが軽くて、でも甘味があるというか。
これは確かに当たりだな。精霊信仰が捗るのも頷けるし、活性化してればこんな恩恵があるなら都市も賑わうだろう。
だが四千年生きてるギルバートさんでも初めての規模なら、人里で起こるとは思えないな。人間は余りに、欲に溺れている。清貧なエルフでコレなんだから、人間には興味無さそうだな。それか人間に興味はあるが勝手に発展してくから恩恵が少ないとかかね。
他にも精霊の痕跡が無いかを探っていたが、赤色は余り多くなかった。そりゃこの辺で発火されても困るからいいんだけど、火の精霊は洗濯物の乾きを良くする程度が一番良いと思う。
しかし黄色が所々にあるのが気になる。黄色はその色の通り雷なんだが、何が起きるのだろうか。
「にゃ、クロ!」
これは触れちゃいけないタイプらしい。猫の静止も間に合わず黄色の魔力に意図的に触れた俺はそこそこ大きな静電気を空中で喰らう。これ、雷撃って言った方が良いかもしれない。
「うぉおお……」
「雷の精霊は悪戯好きでな。ヤクロ殿の様に見える人間には悪戯すると聞いた事がある」
「先に言ってくれぇ」
こんな調子で精霊足跡探索を行って一日を過ごした。他にも様々な精霊の悪戯にあったが、そのどれもが見える俺専用らしく精霊達とは仲良くなれた気がする。というか途中から木々の騒めきに乗せて笑い声が聞こえたから絶対楽しんでやがる。
精霊に会えたら意趣返しをしてやろうかなとも思ったが、魔術的に向かうのが格上だから大人しくしておこうと思った。子供の遊びに付き合った気分だ。
集落に帰って収穫したキノコを渡したら大変珍しい物だったのか長寿のエルフでも中々食べられない物だったらしく、串にさして炙ってからみんなで食べた。土の精霊とは仲良く出来そうだ。
腹も満たされた。
お陰で、今日も良く眠れた。眠る直前、おやすみと、声が聞こえた気がした。
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