0-2-30 年月が進んで巨躯と出会う
エスなんたらの討滅から数日が経った後、クローディアさんから正式に魔術学園を退学したという通知を受けた俺は六年もの間エルフ探しに邁進していた。
神域展開なる技術はクローディアさんをもってしても終ぞ判明しなかったそうで、俺としては残念だ。
退学にはクローディアさんが壇上に立ち魔術と併せて黄泉比良坂の巫女としての力で記憶を改竄して俺と関わったという記憶を全て抹消したらしい。仮初の記憶は脆いが、クローディアさんがやった事なら崩れる事はないだろう。その後は適当な魔術に関する演説で拍手のハッピーエンド。
その間に身体能力や魔力量とかも増えて、等級に適した強さを得られたと思う。魔術も色々覚えたし、これから使っていければいいなと思う。クローディアさんにも直々に手合わせしてもらったりして魔術戦闘の質も上がった筈だ。
だがエルフ探しの方は相変わらず得られるのは其処に居たという痕跡だけで、肝心のエルフの住処には擦りもしない。今は生まれたばかりのエルフとか集落から置いていかれたエルフとかではなく、エルフの中でクローディアになってもいい子供を探している。
半端な覚悟でクローディアは、きっと務まらない。それに猫に誘拐と変わらないと言われてから俺は捜索方針を改めている。一つの事を考えすぎる、俺の悪い癖だな。
「にゃはは、今日も収穫ゼロだね〜」
「色々魔術の痕跡は見える様になってきたから、そろそろ隠れ里も見つけられそうなんだがな」
「にゃー、案外使い回しの可能性もあるよー? 僕ら猫人はそうだしねぇ」
「これだけバラけてるんだ、エルフに限ってそれはないだろうし、それならこんなに新しい場所で痕跡を見つけるなんておかしいだろうよ」
「にゃはは、それもそうかー」
まったくこの猫は。
あの神との戦いの時の様に絶妙なアシストをしてくれれば良いというのに、白詰草みたいなので冠を作ったり、キノコを焼いて食べたり、魚を感電させて捕獲して食べるなど自由そのものだ。
そんな俺は猫の得た食料を分けて貰ったり、魔術協会で販売しそこなった規格外の保存食を食べて生活していた。
得たものは幾つかあるが、その内大きなモノといったら、エルフの集落は幾つかあり、それぞれに特徴があること。一口にエルフと言っても集落毎に特色があるらしく、残していく物や魔力に特色が出ている。
今回当たったエルフの元集落は自然から全てを受け入れるタイプ。たまに人間の手で作られた物を忘れていくタイプと似ているが、これは本物の自然愛好家というか、自然と共に生きているタイプだ。あと、里の境界に僅かな術式が残されており、それからもある程度推測が立てられる。
ここの集落が自然と共に生きるタイプと思ったのは、皿の代わりに大きな植物の葉を利用していたり、子供が捨てたであろう木のフォークは集落の中央にあるでかい切り株の欠片だろう。それ以外に木を活用した形跡は見られない。そういった様子からの推測。
そんな感じでエルフの集落の特徴を掴める様になった。これが何に繋がるかは分からないが、きっと役立つ時が来るかもしれないと思って切り上げようとした時に、猫が誰か来るのを察知したらしい。
悪者特有の気配はなく、まるで自然と評するその存在が気になり、しかし迎撃できる様に魔力を展開する。
「おや、同業者かな?」
「……奴隷商人って話なら生憎違うな」
「そうか、では私と同じエルフの集落を探す者かな?」
魔力が眼に集まってる所を見るに魔眼――蓄積解読系統の魔眼かもしれない。見た目は修験者みたいで、左手には鉄製の杖を持っている。顔は笠で見えないが、声から男性だと推測する。
「はは、そう警戒なさるな。なに、私は――そう、修行僧の様なものだよ」
そう言う手にはこのエルフの集落の物であろう木の器が持たれており、僧を名乗るには些か疑問がある。
「僧侶が物取りでもするのかい」
「いやいやそうではない。私はエルフの居る地を探しているだけ、彼等に危害は加えないと誓おう。それにこれは邪魔だから手に持っていただけで、ほら、此処の」
此方に近寄って来ると男はその手に持っていた木の器を丁寧に置く。
『にゃー、この人すっごく澄んでるよ。本当に人間なのかな』
『こいつの方が神らしさはあるな』
『にゃはは、言えてる』
いつぞやの神よりなんだか神聖さを感じるこの男について知りたいが、魔力には敵意の欠片が無い事から少しだけ気を緩める。
この男もそれが分かったのかその場に座り、座る様に促して来る。距離的には俺の魔術が届くギリギリだから、もし仮にこいつが敵だったら躊躇いなく撃ち抜こう。
「はじめましてご両人。私はメンヒ。姓は捨てたただのメンヒ。遥か昔極東にて悟りを開いたというお方に惚れ込み、似た様な行いをしている――酒や快楽に身を委ねない放蕩者とでも思ってくれれば構わない」
この世界で名前の一部を捨てるって相当な何かがないと起こらないってのはこの一年弱で学んだ。理由は話せないだろうし、聞きもしないが、犯罪で剥奪されたって線は薄いな。
なんだかこの人は世俗と離れてるというか、清らかなオーラを感じる。こんな人が罪を犯すわけないって考えると後が怖いからまだ信用はしないが。それに、メンヒと名乗った時魔力が揺らいだ。嘘の兆候だ。この人には、何か訳があるな。
「やりたい事をやるってのがメンヒさんの生き方なんだな」
「そう捉えて貰えると嬉しいよ。私はまだ修行中の身でね。彼のお方はエルフに会って一つの答えを得たとおっしゃる。私もそれにあやかってみようと思ってね」
「そうなのか――っと、俺はヤクロ・ヒトトセ。こっちは――」
「にゃ! 僕はシュレディンガーまたはケット・シーあるいはバステトやリンクス、好きな様に呼んでよ」
さて、この長い名乗りにメンヒさんはどう受けるか。俺なんて久しぶりに聞かなきゃ忘れてたよ。
「ヤクロ殿とシュレディンガー殿だな。同じ目的を有する者として、よろしく頼むよ」
クローディアさんと同じタイプか。
それに今、何て言った?
「よろしくったって、まさか行動を共にするのか?」
「おや、駄目だったかい?」
「にゃー、僕は全然オッケー!」
「まぁ、こいつが良いならいいか」
歩く危険探査機みたいなこの猫からの好感度が高い時点でこの人の悪人説は消えたわけだが、どうするかね。各国の重鎮を抑えてるクローディアさんでも、その辺の修行僧の名前までは知らないだろうし、成果もないから転移魔術は今回は見送っていいかな。
それに、一つ試してみたい魔術がある。これを使えば多分だが、エルフの隠れ里は一発で見つけられる。その時に本性を見せたら対処すればいいよな。
「今日はもう夜だ。二人は寝床を確保しているのかい?」
「にゃはは、それがまだなんだよね〜。今日は遊び過ぎたなぁ」
「俺はやりたい事があるから、お前はメンヒさんと二人で使えそうな寝床探すか?」
「にゃー、クロに着いてくよ」
「私も見物させてもらおうかな。ヤクロ殿は魔術を使うつもりだろう? 一人間として興味がある」
人間、ね。
そんな清らかな魔力した人間なんて見た事ないから、神だって言われた方が納得するよ。
実際の神様は随分と人間らしい魔力だったがな。
「そんな大層な魔術じゃないが――『闇夜の眼』」
辺り一体の夜を集めて一つの大きな眼を作り出す。夜が奪われた範囲は闇が支配し、より深い黒に染まる。夜と闇は似ている様で別物、というのは属性魔術から分かるし、闇は物理的な力を有している。
この魔術はそんな夜を世界中から集めて何処に何があるのかを見つける探知用の魔術。念話と同じく距離に制限のない魔術の一つで、エルフの残した術式を繋げて解読した事で最近ようやく完成した魔術でもある。
「これは……」
「あんまり動かない方が良いですよ。それに、見つけた」
「にゃ? なんかあった?」
「ああ、エルフの隠れ里があったぞ」
その言葉に猫とメンヒさんが瞠目する。
そりゃあ、そんな反応もするだろうな。本来エルフの隠れ里は魔術では絶対に見つけられない。それだけ防衛魔術が発展しており、エルフという種族が魔術に長けている事を表す。
それを訳の分からん魔術で見つけたとなれば、驚くのも無理はない。
「さて、行こうか。このまま北に三十キロって所かな」
この世界で良かったと思うのは、単位とかが地球とそう変わらない点だな。
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