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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
ヒトトセヤクロトイフモノ
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0-2-26 釣り出し作戦決行

 魂を奪うという行為は再発せず、何人かの魂が少しずつ取られているという事態が続いた。寮生活ではない俺から魂は取れていないから、寮内部で事は起きてるだろう。

 故に犯行現場を抑えられていないからロイドの事を摘発できないし、取っている魂の量が余りにも微量過ぎてなんともいえない毎日が続いている。

 どうやら魂は時間が経てば回復するらしく、ロイドは着実に力を得ていたが、クローディアさんには遠く及ばない。だからこのペースなら俺でも問題なく対処できそうだ。


 それに、多分だがロイドは『隠匿』の上位互換を使える。臆病な性格から生まれたオリジナル魔術、そして魂の吸収。

 次第に魂を感じ取れる様になったのか、吸収するのも上手くなってきている。猫は狡猾と評価していた。


「ふむ、手がないな」

「にゃー、面倒なやつ。一気に魂取ったのは加減が分からなかったからかー」

「だろうな」


 猫もその結論に至っていたらしい。賢い猫は非常に好ましい。このまま解決策を出してくれてもいいんだが、欠伸をするだけでのほほんとしている。まぁ、そうだよね。知ってた。


 とりあえず今日は学園から戻らずに張り込みをしてみようと思った。帰る姿はロイドにだけ『夢現』を掛ければどうにかなるだろうが、果たして魂が微増している彼奴に効果はあるのか微妙な所だ。

 なんせこの魔術は魂の総数で影響があるかもしれないからだ。猫に『夢現』は効かない。一人分なら騙されていたと語るが、生まれながらに魂を複数持つこの猫には効かなかった。

 そしてロイドは魂の数は二つのまま、その容量が上がっているそうだ。完全に魂を取れていないからだろうか。兎に角そろそろ決着が望ましい。


「さて、いっちょやりますか」

「にゃはは、最初からやれば良かったんだよ」

「まさか制御出来るとは思わなかったんでな」


 兎に角今日で悪行はお終いだ。

 暴走すると厄介だからクローディアさんには念話で、此方から仕掛ける旨を伝えた。その瞬間俺の真横に転移してきた。

 結構びっくりして、その顔を見たクローディアさんは悪戯が成功した子供みたいにケラケラと笑う。


「俺にマーキングしてたんですか?」

「この案件を渡した時に、念のためにですよ」

「全然気付かなかったな」

「あはは、私、これでも世界最強なんですよ」

「それは知ってます」


 まさか念話したら来るとは思わなかったし、まだ時間はかかる。今は昼休みにあたる時間で、午後には勿論授業がある。かなり暇になると思うんだが、この人は考えてないのか?


「実はシュレディンガーさんの身体を調べてる内に私も変化出来る様になりましてね。猫ではないですけど、それなりに可愛くなりました」


 そう言ったクローディアさんは胴長のモフモフした謎の生命体になる。なんでもこの世界ではマメネコに次いで幸運の証とされる「ヒウ」という動物らしい。

 マメネコは象徴で、ヒウは証。マメネコの方が沢山居そうだけどな。


『それで、どういう風に仕掛けるんですか?』

『寮に潜り込む。防衛魔術のすり抜けはクローディアさんとの転移魔術習得でたくさんやったし、ここの魔術はもう覚えた』

『今日魂が取られないかもしれませんよ?』

『あいつは魂が回復するのを待ってる。そして毎日摂取は欠かさない。今日狙われるのは魂が完全に回復したユフィ・サザランドで間違いない。夢現で俺とユフィ・サザランドを誤認させてそこを叩く』

『その時は私も手伝いますね。襲われた子の魂に罪はないので、私が黄泉にきちんと送ります』


 なんて話をしている内に今日の午後の授業が始まる。今日は復帰したらアーサー先生が担当している。内容は如何にして効率良く魔術を使役するか。体内の魔力操作を極めれば良いだけだと思っていたが、アーサー先生は外部魔力を少しだけ取り込む方法を教えてくれた。

 レベリア兄妹はこの世界でもトップクラスの実力なんじゃないか? 普通その思考に至っても、実践は出来ない。それを学生でも出来る様に噛み砕いて教えられるとは、この国の将来も安泰だろう。


『外部魔力の使役についてここまで進んでるとは思いませんでしたね』

『クローディアさんはあくまで自己研鑽だから、外部の情報はあまり取り入れないのか?』

『そういうクローディアも居たそうですが、やはり外の情報は大事なので私なりに取り込んでいましたけど、この人は中々面白いですね』


 そりゃああんたら二万五千年の積み上げには敵わないだろうが人間もやれば出来るんですよ、とは言わなかった。クローディアさんはアーサー先生の事を覚えたらしく、魔術協会に引き込もうとか思念が漏れていた。


「それでは今日はここまで。みんな気をつけて寮まで向かう様に」


 皆が立ち上がり一塊になるこのタイミングでユフィ・サザランドと俺を『夢現』で誤認させる。ロイドにはしっかりと効いているみたいで、その視線は此方に向く。

 今やロイドの全ては俺が握っている。この声も、匂いも、魂の形さえもユフィ・サザランドに見えている事だろう。


 今何か魔術を付けられたな。転移魔術のマーキングに似た何かだが、詳細は探れない。こういう時はクローディアさんに丸投げだ。


『今何かされました。何か、が分からないので解析任せたいのだが』

『一般的なマーキングですね。魂に何かされた形跡はありません』

『なら、無視の方向で』

『そうですね。気付くのは不自然ですね』


 本物のユフィ・サザランドには『隠匿』と『催眠』を掛けて魔術協会の支部に飛ばす。これで彼女の今日一日は終わりを迎えた訳だ。

 魔術の発動の流麗さをクローディアさんが褒めてくれたが、気は抜けない。『足跡』の魔術でユフィ・サザランドの足跡を辿り、彼女の部屋へと向かう。


 その時にロイドから声を掛けられた。


「あ、あの、ユフィさん、少し、ほんの少し時間、いいかな」


 その言葉に無言で頷く。

 今頃ロイドには彼女が笑顔でいいよと応えた姿が映っている筈だ。


 クローディアさんは魔力を溜めていつでも迎撃出来る様に構えているし、猫も臨戦態勢だ。加えて寮の中という事もあり、逃げ場はない。

 俺に声を掛けた時点でお前の負けは決まっていた。だが気は緩めない。最後まで俺はお前の事を警戒しよう。

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