0-2-25 残念美人再び
アーサー先生の代わりには臨時講師としてアンさんがやってきた。一応この学園のある都市と南の湿地帯の近い都市はかなり離れている筈なんだが、最高ランクの冒険者ってのは移動速度に何か仕掛けがあるんだろうか。
そういえば南の湿地帯の情報もかなり知ってるみたいだし、自己強化系統の魔術でも発動してるのかね。魔力が隠されてて見えないから、その可能性は高いな。あれ、でもアンさんって魔力ないんだっけ? じゃあ魔力が見えないのも仕方ないってなると、身体能力高すぎる気もするが。
兎に角今は黒板にグラウンド集合と書かれていたのを確認してグラウンドに向かう。この学園に制服はないからいつもの黒コートを羽織って行く。
グラウンドにはアンさんがおり、軽く会釈をしておく。向こうも覚えてたみたいで笑顔で手を振ってくれた。
「臨時講師のアンだ。魔力はないが、魔術は一通り使える。今日だけ君達を見る事になった。アーサーなら明日にでも復活するだろう。何か質問は?」
「魔力がないのに魔術を使うなんて、出来るんですか?」
良い質問だ。
俺もそれを聞きたかった。
「あたしは外部魔力を使って魔術を発動してる。それだけさ」
その言葉にクラス内が騒然とする。そりゃあそうだ。外部魔力は世界に漂う無限の魔力。クローディアさんも使えて『魔力の矢』を放つ程度だ。それをこの人は事もなさげに言い切った。
アーサー先生も若そうだが、アンさんは当然もっと若い。その年で外部魔力を扱えるなんて、それこそクローディアに名を連ねてもおかしくない。
「一応言っておくが、あたしはそこまで魔術を信用してない。万能な力だが、全能な力じゃない。だからあたしは基本的に自己強化系統しか使わないよ」
それでも凄いんだがな。この世界で魔術の勉強をしてきてそれなりだが、外部魔力を扱えるかはそれこそ才能がモノを言う。魔術を信じないが故の自己鍛錬に、外部魔力による自己強化。なるほど最高ランクに到達する訳だ。
ポーションに他の薬さえまぜてなかったらなんでも出来る美人さんとして認識してたんだろうなぁ。
「それじゃあ今日の講義だが、『魔力の矢』の属性派生だ。各々得意な属性があると思う。得意を伸ばすも良し、苦手を学ぶも良しの自由訓練だ。始め!」
『魔力の矢』の属性派生か。一通り出来るが、爆裂と掛け合わせたのは試した事が無かったな。既に何人かは的に向かってぞくせした『魔力の矢』を放っており、アリスなんかは軌道も凍りついている。
それぞれの魔術を見てみるとあのギャルっ子も中々強いモノを放っていた。雷を乗せた魔術は的を焦がしていた。
それ以外は特筆すべきものでもなかったが、ロイド・マクスウェルはいつもと威力が違うからか何人かの生徒からコツをせがまれていた。
そいつは人を食って強くなった。コツなんてありもしない。困惑しているのが見て分かる。
「ぼ、僕なんかより、ヒトトセくんの方が教えるの、きっと、上手だよ……」
『にゃー、先生の魂も感じるから、ゆっくり吸い取るタイプなのかな?』
『いつの間に吸ったんだか』
とりあえずロイド・マクスウェルから流れてきた生徒――と言っても三人程だが。その子達にまず『魔力の矢』という魔術についてどれだけ理解があるのかを問いた。
その結果、基礎的な魔術と二人が答え、残る一人は矢の形にして魔力を飛ばす魔術と答えた。間違ってないし正しいが、少しだけ属性派生をしやすくなる様に一言加えた。
「基礎的な魔術だからこそ、応用が効きやすい。この魔術にはまだ可能性が沢山残ってるんだよ」
何言ってんだこいつ、みたいな顔をされたが俺が的に向かって魔術を放つ。その前にロイド・マクスウェルに『夢現』の魔術を掛けて俺の応用性を誤認させる。
放つ魔術は『強く太い魔力の矢』。
応用を二つ盛り込んだ難易度の高い魔術。だが魔力の矢や魔力砲であればこの程度の応用は案外簡単に出来る。
そしてロイド・マクスウェルには『太い魔力の矢』を見せる。勿論今から言う説明も誤認させる。
「今の魔力に属性を加えれば三種類の応用を詰めた事になる。そういうのは、基礎的な魔術じゃないと難しいんだよ」
「すごいねー!」
「ヤクロくんはすごいなぁ」
「なるほど……」
なんとなく通じたのであれば、それで構わない。さて、ロイド・マクスウェルはちゃんと誤認したかな?
「こんな感じで良かったかな」
「う、うん。ヤ、ヤクロくんの『太い魔力の矢』は凄い威力だね」
「応用魔術には魔力を込めればそれだけ結果が変わる。あれが今の俺の限界だよ。マクスウェルさんとあんまり変わんないかな」
「ロ、ロイドでいいよ」
悪党と仲良くする理由はないが、今後こいつの事はロイドと呼ぶ様にしよう。マクスウェルさん、だなんて些か距離がある。仲良くならない理由は、ただの編入生の俺にはない。
それに今はいつ、どうやってアーサー先生の魂を吸ったのか、それが気掛かりでしょうがない。マメネコは可能な範囲に置いて貰ってるから見逃しは無いと思いたいが、それを掻い潜れるだけの能力がロイドに有っては困る。
『マメネコは『隠匿』した奴の姿も見れるのか?』
『にゃはは、その質問を待ってたよ。勿論見えない。だけど魔力の流れは見えるから隠れてるかは分かる』
『学外で起きたと見た方が良さそうか?』
『にゃー、そうなるね』
後は適当に魔力の矢を回転させたりして時間を潰した。こういう基礎を磨ける時間は大切だから、手は抜かなかったけど。
「今日の授業はここまでだ。各自、自由に帰れ。あとヤクロは残る様に」
ロイドに『夢現』を掛けたのがバレたか? その場合は適当に誤魔化すが、この魔術は完全オリジナルだからいくらアンさんでも見極めるのは難しいだろう。
「久しぶりだね」
「ええ、南の湿地帯の時はお世話になりました」
「ギルドで聞いたら魔術協会の特別枠になってるからびっくりしたよ」
「俺もこんな人生を歩むとはびっくりです」
「それでだな、アーサーの事なんだが……」
アンさんは一呼吸置く。
「アーサーには昨日数時間の記憶がない。何者かに襲われたと見てる。学内に不審な影はなかったか?」
これは、正直に答えて良いのだろうか。
今はクローディアさんと秘密裏に進めてる案件だ。今ここでアンさんに伝えたら悪即斬しそうで怖い。
だったらクローディアさんの所にアンさんを連れて行くのがベストだな。ロイドには悪いが、使える戦力は使うタイプなんだよ、俺は。
「アンさん、手を借りますね」
「ん? 構わないが」
「それじゃあ飛びますよ」
グラウンドから誰もいないこと、窓から見てる人が居ない事を猫から確認してクローディアさんの執務室に飛ぶ。
あ、アンさん普通の人間だ。呼んでよかっただろうか。まあダメだったら記憶の改竄でもして学園に返すだけだが。
「おや、夜黒さんと、アンさんじゃないですか」
「ひさしぶりだね、クローディア」
「お二人は知り合いで?」
「何度か竜の討伐に参加してもらってるんですよ。それに、レベリア家とは長い付き合いですから」
知り合いなら良かった。
「実はアンさんのお兄さんが魂を少し取られたみたいで。それに伴って昨日の数時間分の記憶がないそうなんですよ」
「犯行現場は……抑えられませんでしたか」
「残念ながら」
魂という言葉にアンさんが反応する。どうやらクローディアさんとも付き合いがあるから魂の事も少しは知っていたみたいだ。
「学園に魂を取れる奴がいるのか」
「アンさんは色々無視してそいつをとっちめそうだから敢えて誰かは言いませんが……クローディアさん、誰か話してもいいかな」
「うーん、まだ誰かは教えない方向で」
「ま、あたしなら斬って殺す可能性もあるしな」
この日はアンさんに学内に魂を取れる奴がいる、という事だけ伝えた。その後は転移魔術でお馴染みの用務員小屋裏に転移して、アンさんを職員室に返した後、自分も魔術協会支部に借りてる部屋へ帰った。
クラスメイト達は何人か集まって行動しており、ロイドは部屋に帰ったと猫から報告があったから、その日は魔術協会の書庫で色々な本を読んで過ごした。
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