0-2-24 調べ物
新入生代表の挨拶を終え、全校生徒から拍手が起こる。念のため猫に確認させたが、魂を二つ持っているのはロイド・マクスウェルだけであり、この場にいる職員も魂は一つだそうだ。
しかし解せない。何故ロイド・マクスウェルは魂を抜き取れたのか。クローディアさんの資料では死体はあったとある。魂と肉体を分離させるにはクローディアさんクラスの実力がないと出来ないのではないのか? 少なくとも俺は魂を抜き取るなんて真似は出来ない。
魂に関してはソレに関して深い造詣がなくては何も出来ない。俺は魂なんてどうでもいいから学んでいないが、魔術学園にいながら魂の勉学が出来るとは到底思えない。
考えたくはないが、魂をどうにか出来る人類種でもない限りこの年齢で魂をどうこう出来るとは思えない。エルフ探しとか転移魔術の訓練で碌にこの世界の人類種について調べてはいないが、ロイド・マクスウェルは人間としてこの学園に登録されている。
考え事をして教室を出ようとした時に偶然アーサー先生と出会う。この後は何もないから教室に用は無いと思ったが、学校の先生の行動は読めないな。
「ヤクロくん、お疲れ様。今日はもう学校終わりだからこのまま帰るのかい?」
「図書室に行こうと思ってたんですが」
「何か調べものかな? ヤクロくんの役に立つ情報があるとはあまり思えないけど」
「少し気になった事があるので」
「そっか、あんまり遅くならないようにね」
失礼しますと一言かけて図書室に向かう。
魔術学園高等部の図書室は広い。様々な魔術に関する本が置かれているが、歴史上の伝記や神話なんかも置かれている。その中にこの世界の人類種についての本があれば良いんだが。
無かったらクローディアさんに聞くだけだ。魂を扱える人類種がこの世にいるのかどうか、聞くだけなら問題無いだろう。
図書館は教室棟とは別の棟にあり、職員室とかがある建物にある。本当なら真っ直ぐ向かいたかったが、ロイド・マクスウェルが教室に一人残る形になる。
これで誰かが来て狙われては到着に時間がかかる。マメネコに見張らせているが、転移魔術のマーキングをしようにも魔術の行使を見られる。流石にそれは怪しまれる。
ふむ、少し誘導するか。
「マクスウェルさんは帰らないのか?」
「ぼ、僕? 僕は――そ、そうだね、帰ろうかな。ヒトトセくんも、今日はお、お疲れ様」
よし、これでロイド・マクスウェルを帰せたと思う。猫に逐次報告を頼むとどうやら寮に帰ったらしい。
流石に寮には防衛魔術が幾つも掛けられており、マメネコの通信も良くないそうだ。その辺はこの猫に調整を任せるしかない。
その前にこいつにも一応聞いとくか。
『魂を扱える人類種とかいるのか?』
『にゃ? うーん、聞いた事ないなぁ』
この猫は知らないらしい。魂を見れるのは猫人なら当たり前らしいが、魂をどうこうするのはまた違う話だそうだ。
ふーむ、とりあえず魂関連は本当に情報が無さすぎて手が出せない。そもそも魂をどうにか出来る人類種が居たら魔術協会が抑えてるか。
「とりあえず図書室に来たが……人類種図鑑とかあるのかね」
「にゃー、そんな変な本誰も作らないよ」
「ま、探すだけ探してみるさ」
幸い今日の学校は終わってる。
時間は沢山あるが、流石に図書室の本を全て見るのは不可能だ。魔術関係が多すぎて見逃す可能性もあるが、見ないよりはマシだろう。
本棚の一番端から手を当てて適当に見ていく。本当に魔術関係が多いな。魔術史は人気があるのか沢山入っている。人類種図鑑は無さそうだな。
魔術を使う魔物図鑑を見つけた。
人類種図鑑はなかったが、こういうのはあるのか。
既に昼時となっており、カウンターには早めに昼食を終えた職員さんが一人座っていた。
図書室の職員さんが暇そうにしてるタイミングがあったから適当に話しかけてみる。
「人類種の図鑑とかありますかね」
「……人類種の図鑑ですか? 古いので良ければ奥の書架にあった気がしますよ。案内しますか?」
「お願いします」
奥にあったのか。
聞いといて良かったな。
奥の棚は薄暗く魔術協会の禁書管理室みたいな雰囲気を醸し出している。これは一人だと中々近寄り難い場所だな。そして此処に普通に来れるこの職員さんも肝が据わってるな。
学園七不思議とか、絶対此処にあるだろ。そんな適当な事を考えていたら職員さんが上の方の本を魔術で引き寄せる。
「此方になります」
「ありがとうございます」
さて、早速読まさせて頂きますかね。
前書きを読むにこの本は実際の人類種に併せて架空の人類種、絶滅した人類種を書いているそうだ。その見た目の特徴やら得意な事などが書かれたファンタジー物の設定資料みたいな作りだ。
えーと、魂に関連しそうな種族はいないかな。
目次を読むと色々な種族の名前が並んでいる。その中で目を引いたのは「吸魂鬼」。ページは173。捲るとそこには一見すると普通の人間の様な見た目のイラストが描かれていた。
吸魂鬼。
魂を吸い取り己の寿命や力を伸ばす種族。これに該当する種族はこの本が書かれた時点で絶滅していたらしく、なんと初代クローディアがそうなのではないかと書かれている。
他には魂を取らなくても人間と同じ寿命は生きられる事、毒に対して大きな耐性を持っている事、人間との区別は自己申告でもないと付かない事など中々面白い情報が手に入った。
「にゃー、こんな種族聞いたことないなぁ」
「そもそも初代クローディアは大体二万五千年前の存在だし、お前はいないんじゃないか?」
「にゃはは、何歳かなんて数えてないよー」
それだけこいつも長生きなんだな。
しかし吸魂鬼、中々面白い可能性だ。
ロイド・マクスウェルが最後の吸魂鬼という可能性。これはクローディアさんに報告してみるか? だけどクローディアさんならその線もきちんと考えてそうなんだよな。
あの人の知識は正に生き字引。長年のクローディアの知識も受け継いでいるらしく、既存の知識にはめっぽう強い。
読み終わった本はカウンター脇の本入れに入れとけば職員さんが片付けるそうだ。
有益というか、面白い可能性を手に入れた。やはり知識は大事だ。敵が人間でない可能性も出てきたし、なにより人間と姿が変わらないなら偽って生きる事など容易だろう。
「さて、帰ろうかな」
「お、ヤクロくん。調べものは終わったのかい?」
「アーサー先生。ええ、丁度帰ろうと思いまして」
「まだ暗くないとはいえ、帰り道には気をつける様に。先生もさっき学外に出たけど、何が起こるか分からないからね」
「わかりました。失礼します」
なんだか違和感を感じたが、なんだ?
『にゃー、あの先生、魂が減ってる』
『なに?』
『にゃ、これは見張り強化しないとかな』
アーサー先生の魂が減っている。
流石に寮の各部屋にマメネコは置けないからロイド・マクスウェルの動向は探れないが、不安だな。
とりあえず即死ではないなら問題ない。そう思って魔術協会支部に転移して帰宅した。
翌日、アーサー先生は病欠で欠勤した。
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