0-2-15 猫を拾う
猫って、いいですよね。
漸くクローディアさんの執務室にいつでも行ける様になったぞ。転移魔術自体はその場で会得出来たが、クローディアさんの防衛魔術をすり抜けるのに一ヶ月もかかってしまった。
純白適正でこの難易度とかクローディアさんが本気出したら絶対勝てないわ。戦う予定は全くないけど。
さて、そんなこんなで転移魔術完全習得からまた一月たった俺は今、魔術協会特別推薦枠で職員となっている。お仕事内容は魔術適正の高いエルフの子供探し。
その際エルフを探すに当たって絶対にいないし、近寄りたくない場所もピックアップした。
竜の絶壁、底なしの毒沼、極東の鬼ヶ島、最南端の噴煙地帯などなど。名前だけで物騒な場所だ。
そういった場所以外を魔眼で調べれば一発楽勝とか思ってたけどそもそもエルフがいない。
そんな事をクローディアさんに念話の魔術で愚痴ったらエルフ自体の人口はかなり少なく、また隠れ里に住んでいるから普通にしてたら見つからない。その上隠れ里は定期的に移動するモノが多いらしい。
魔力の痕跡で住んでいた場所を見つけるには至ったが、取り残された子供なんて当然いないし、次の目的地への手掛かりは一切ない。
こりゃあ相当厄介な仕事を押し付けられた気がするってのは最近思った事だが、給料はかなり良いから続ける予定だ。
「しっかしこう、人生は劇的じゃないもんだ。確かに神との出会いは劇的だし、あの泥竜も劇的だったが、エルフの幼な子を見つけるのは簡単じゃない」
元隠れ里をこれでもかと観察し、何やら祠らしいものまで出てくるから触らぬ神に祟りなしでスルー予定だったが、何やら物音がする。
「これで忌み子の放置とかだったら楽なんだがなぁ」
魔力を見ると何もない。野良猫か?
「ほーら出ておい――」
魔力がないなら安全だと思っていた。
扉が飛んで来るまでは。
「にゃはは! 僕、爆誕!!」
とんでもないのが出て来やがった。
「おにーさん中々強いね? まさか避けるとはおもわなかったよ」
黒――いや藍色の髪を短く切り揃えた少年然とした見た目だが、性別までは分からないな。それに猫耳に尻尾、猫耳の間の頭には小さな赤の王冠、肩からは深緑のマント、手には先端が玉葱みたいになってる純白な短杖、腰には剥き出しでサファイアみたいな青のサーベルが提げられている。貴族かなんかか?
「何者だ」
「僕? 僕のことはシュレディンガーまたはケット・シーあるいはバステトやリンクス、好きな様に呼んでよ。とりあえず猫人って事を覚えてくれればいいかな」
シュレディンガー、ケット・シー、バステト、リンクス。リンクスは知らないが地球では有名な猫を関係させる言葉だな。リンクスもきっとそうなんだろう。
「僕のご主人様はもう死んじゃってね。魂が似てる君にこうして会いに来たって訳」
「……まさか初代クローディアか?」
「んー? そんな名前じゃなかったよーな。でもおにーさん魂見れるの? そんな力無さそうだけど」
「詳しくは言えないが、魂に精通してる人に診てもらっててな。それで知ってるだけだ」
こいつ、魔力が一切ない。
あらゆる生物に魔力は存在し、相当時間の経った死体でも無い限り魔力はあるとされている。それなのにこいつには色も輝きもない。
「にゃはは、おにーさんの魔眼には少し刺激的かな? それとも何もないかも」
「もう一度問おう、何者だ」
魔力を幾つか集中させ、空中に圧縮した魔力の塊を浮かす。この猫との距離は十メートルもない。いつでも打ち抜ける。
「にゃー、そんな臨戦態勢にならないでよ。言った通り会いに来ただけ。あとおにーさんは面白そうだから暫くついてくよー」
「……ついて来ても面白くないぞ」
「にゃはは、それは僕が決めるよ。飽きたらどっか行くしね。おにーさんの名前は? 僕の事は自由に呼んで良いよ」
「春夏秋冬夜黒だ。夜黒が名前」
「じゃあクロだね! よろしく!」
勝手によろしくされたが、エルフの子供探しの大変さをこいつにも知ってもらおうじゃないか。
「俺は今エルフの子供を探しててな。隠れ里を見つけないと始まらないんだ」
「んにゃー、子供? なんかの生贄にするの?」
「いや次のクローディアになってもらう為だ」
「それを生贄って言うんだよー」
「そうか?」
疑問を口に出したが、言われてみればそうかもしれないな。
いきなり現れた人間に「お前は次のクローディア候補だ」なんて言われたら誰だって怪しむし、クローディアについて知らなかったら生贄みたいなもんか。
その辺全く考えてなかった。本当に奴隷市場の捜索でも始めた方が良さそうだな。少なくとも、奴隷よりは良い生活ができるさ。きっとな。
なんだかこの猫に見下されてる様な気がしてきた。そんな事もかんがえなかったのー? 的な。身長がクローディアさんと同じくらいだから許してやろう。
「クロの目的はエルフの子供を見つけてクローディアにすることなんだね」
「そう思ってたが、お前に言われてなんだか普通のエルフを勧誘するのもどうかと思い始めてな」
「にゃはは、悩め悩め。まだ二十も生きてない子供は悩みながら育つといいよー」
「明らかに小学生みたいなお前に言われたくないな」
「しょーがくせーってなに?」
「ああ、こっちにはないか。小さい子の通う学校の生徒のことだ」
「むにゃ! 小さくないよー!」
「小さいだろ」
「んにゃー! 猫人としては僕は一番大きいんだからねっ!」
「先ず猫人ってなんだ」
「説明しよう! 猫人とは――」
どうやら亜人に位置する人類種らしく、猫人はその見た目からお貴族様の奴隷にされる事が多々あるらしい。
ていうかやっぱり奴隷あるのか。
そしてこの猫は猫人の王であり、自由に暮らす為に生きているそうだ。魂も複数個持っており、一度死んだくらいじゃ死なないんだとか。前のご主人様なら一発で殺されてるとも。
猫人はその特異性から隠れ里、というか国を持っており、エルフ同様見つけるのは困難だそう。外に居る場合は基本的にマメネコという手のひらサイズの猫で生きているらしいが、こいつはそれが出来ないそうだ。
因みにマメネコというのは魔物にも存在しており、この猫はソレを無限に召喚できるそうだ。無から有を作るとかちょっとヤバい奴かもしれないと思ったのは内緒だ。
「――ていう感じだよ」
「なるほどよく分かった」
さっき、人生は劇的じゃないって言ったが訂正しよう。こいつは劇的だ。良い意味なのか悪い意味なのかは定かじゃないが、確実に劇的な出会いと言えるだろう。
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猫人族はエルフより希少というどうでもいい設定をここに投げておきます。




