0-2-14 大まかな歴史など
仮眠室を出てクローディアさんの執務室へ向かう。地球の電気を用いるタイプのエレベーターではなく浮遊石なるものを使ったエレベーターだ。
この辺の仕組みもちょっと気になるけど、クローディアさんが一生懸命解説してるのを見るとなんだか微笑ましくて、どうでもよくなってくる。
娘を持つってこんな気分なのかねぇ。庇護欲に駆られる見た目をしているのが悪い。
そういえば冬美は元気にしてるだろうか。一応彼氏彼女の関係だが、俺達は親の一存で決められた関係だが、ちゃんと想い合っていたと思う。まぁ、俺だけそう思ってるのかもしれないが。
此処で新たに女を作る気はない。下手に子供を残して責任が伴うのは勘弁願いたい。冬美となら、そういうのも我慢出来たんだろうが、今となっては会えないからなぁ。
なんて思っている内に最上階に着いた。クローディアさんは俺が話をまともに聞いてないことを少し咎めたが、故郷について想いを馳せてたんだから仕方ないだろうと思った。
変に一言入れると面倒になる、そんな気がした。これも回避の力が働いているのか、日本人らしさの空気を読む力なのか、疑問である。
「さて、少しお話ししましょうか」
「なんか色々あった気がするが、何から? というよりなんで俺にこんなに親密にしてくれるのか、そこから聞いてもいいか?」
「そうですね、いきなり友達とまではいかずとも私が貴方に此処までする理由を話しますか」
クローディアさんは手慣れた様に魔術で紅茶を入れる。当然それが差し出されるが、残念ながら俺は紅茶を飲めない。
色の付いた水は飲まないが、これはなんだか良い香りがするし、一応口に含む。
……なんだこれ。
美味い。紅茶ってこんなに美味いもんだったか?
「夜黒さんと親密にする理由はまだ誰の手にも染まってない異世界人だからです。どこぞの間者かもしれないぞと貴方は言うかもしれませんが、私の魔眼――蓄積解読でこの世界に来たばかりという事は読み取れました。それより前は読み取れませんでしたけどね」
何とか魔眼ってならないケースもあるのか。
蓄積解読。文字通りならその人間の過去を洗えるって感じでいいだろうか。それより前ってのは神との対話含む以前の記憶と見て良さそうだな。
あの神は人前に出たがらないだろうから助かっただろう。それか、そういう小細工をしていたか。都市に入った時みたいなやつ。
「さて、そんな貴方が私の情報を抜き取る間者でしょうか」
「クローディアさんの魔眼が正確なら間者の線は消えるな。そして異世界人なら何かしらのメリットがあるのか?」
「そうです。異世界人は私達よりも発想が豊かです。この前見せて頂いた踵からの魔術は面白かったですし、夜黒さんなら他にも魔術の使い方を考えられるのでは、と思っています」
「そこまでの価値があるかは分からないだろう? 第一踵からの魔術だってその場の思いつきだ」
「私達ではその場の思いつきでそこに到達しません。クローディアである私の責務は自己研鑽と魔術の発展。何代かは異世界人の手助けで力を大きく増したと聞きます。それに貴方には初代様の因子がある」
なるほどね。
つまり初代クローディアの因子を持つ俺は絶好の観察対象って訳だ。こっちは命救って貰ってるし提供できるもんはなんでもするが、果たしてこの世界の魔術発展に寄与できるかね。
「次は、えーと、そう。先ずはクローディアについて簡単にお話しします」
現在23代目が目の前に座る小柄な少女。そして彼女はこの世界で最も魔術に秀でた世界最強の一角。
俺はそのくらいしか知らないな。
「クローディアとは初代様の名です。二代目は名無しの幼いエルフがその名を継ぎ、以来名無しの幼いエルフかつ魔力が異常に多い者を選出しています。そう該当する存在もいないので、名前を捨てた方もいらっしゃるそうで。そして先代は文字通り全てを次代に託します。この辺は前に軽く話ましたね。そうやって力を繋いできた存在がクローディアです」
「エルフってのは長生きするイメージがあるな」
「その通りです。エルフの寿命は短くても千年、長い人なら万年生きます」
「そんな生きて今23代目? 一体どれだけ月日が流れてるんだか想像できないな」
「この世界では初代様が起こした秘術からを新世暦零年として数えてますので、今は新世暦二万五千と八十年です」
「秘術ってのは?」
「魔法と呼ばれる魔術を越えた技だそうです」
魔法? 確かだれか限定の技ってあの神が言ってたが、初代はそれにたどり着いた。23代重ねて初代と後年の二代目のみならどれだけ初代が規格外なのか分かるな。
それよりも大体二万五千年たってこの程度の文化レベルってのはちょいと気がかりだ。何かしらが発展しそうだが、あの都市が外れにあったからだろうか。
「ざっくり二万五千年が経っててこれなのか。あまり発展してない様に見えるが、魔術と人類種は発展してきたのか?」
「夜黒さんのいた世界は発展してたんですか?」
「そうだな……他の世界を知らないから何とも言えないが魔物なんて存在はいなかったし、鉄の塊が高速で行き交ったり、電気をエネルギーに色々してたが、昨日いた都市よりは発展してたかな」
その言葉にクローディアさんはやっぱりこの世界は発展レベルが低いと語る。鉄の塊が行き交うってのは以前の別世界線の日本人もそうやって伝えたそうだ。
何代か前の話ならこの世界と地球の時間の進み具合に差がありそうだな。
そしてここ王都では魔導車が走っており、国境付近のあの都市にはまだ届いてないそうだ。
どうやら魔物が邪魔で人類種の生活圏は限られるらしい。魔物の発生も輪廻を巡っての事だから止められず、竜なんかが大量発生して国の面積が小さくなることなんてザラにあるらしい。
「私達は様々な手で魔物根絶を掲げていますが、魔物も生物。生き残る術を見出してきます」
「いたちごっこなんだな」
「そうですね、まったく困った話です」
それにしても約二万五千年か。初代はその時何をしたんだ? そしてその因子を持つ俺は何が出来る? 考えても分からないが、西暦みたいなやつは何かとんでもなく特別な事が起こらないと纏まらない。地球で言えばキリストの誕生だ。
つまりそれに匹敵する何かを起こした。クローディアの誕生ではなく秘術から数えてるって事は、人類種の選別で大量虐殺とか? ないな。
それにしても発展が遅れすぎな気もする。いや、紀元前の事を考えればそのくらいあっても不思議ではないのかもしれない。
新世暦零年とか最早神話クラスなんじゃないか? 公的な文書が残ってるとは到底思えないが、今はそこはどうでもいいな。
「初代クローディアのおかげで人類種は方向性を見つけたって解釈でいいか?」
「はい。そして初代様は魔術協会を立ち上げます」
そういえば魔術協会と冒険者ギルドについて話すってこの前言ってたな。これを知れば魔術協会の信用性も上がるかもしれんな。
と、言ってもクローディアさんのおかげで魔術協会に関しては信頼してるし、冒険者ギルドも良い人達がいたから信頼はしてる。
「立ち上げられた魔術協会は長い時を経て、西大陸開拓部署と依頼を受ける部署を切り離します。それが今の冒険者ギルドです」
「魔術協会から出来た組織なのか」
「そして冒険者という名は西大陸を探索する者に向けられた名だったのですが、時が経つにつれてギルドに所属する全てが冒険者と呼ばれる様になったのです」
「西大陸はどのくらい開拓が進んだんだ?」
「新世暦以前の記録を参照すると三分の一も開拓できていません。彼方の大陸は魔力濃度が高く、鍛えられたエルフくらいしかまともに息ができませんからね」
初代クローディアは東大陸の魔力を薄めたとか、かね。いやそれなら新世暦以前の記録がおかしい。以前からの記録があるなら新世暦になってから魔力濃度が高くなったとも見れる。
初代は何をしたんだ? 歴史家になるつもりはないが一切が謎に包まれた存在を暴きたいと思うのは男のロマンだろうか。
「ざっくり言えば、魔術協会と冒険者ギルドは西大陸への人類種生活圏の獲得、魔物根絶を目標としてるんですよ」
「なるほどね。地道に開拓してくってのが今の方針な訳だ」
これで聞きたい事は聞けたかな。
黄泉比良坂の巫女については流石に聞けないが、概ね歴史的な事は聞けた。
「それでですね、夜黒さんにはやって貰いたい事があるんですよ」
「俺に出来ることなら引き受けますよ。クローディアさんは命の恩人だし」
「名無しのエルフ、それもとびきり魔術適正の高い子供を探して欲しいのです。勿論此方でも探しますが、この世界を見て回るついでに、というやつです」
それくらいなら別に引き受けてもいいかな。
奴隷市場とかあるんだろうか。
「いいですよ、引き受けます」
「やった! ありがとうございます。実は困ってたんですよ〜。そういう子って中々いなくて、別に名前は有ってもいいですから、見つけたら此処に連れて来てください。あ、転移の魔術教えますね」
そんなこんなで、クローディアさんの魔術教室が始まった。因みに転移魔術は会得するのに一ヶ月くらいかかったけど、これはもっと簡易化できそうだなとも思った。
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簡潔な文面ですけどかなり感想とか欲しいです。、




