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0-1-1-1 恒星と災害

こちら本日二話目となっております。

 神界の最東端。

 芝生の続いた世界はいきなり噴煙と溶岩に包まれた灼熱の空間となっており、二柱の神が“精巧細緻な分け身”で作られた“ⅱ”を待っていた。


「此処に来るとは一言も言ってないんだがな」


 その言葉に炎を纏った女性が答える。


「効率が好きな貴方だもの。最端に来ることは容易に予測できるわ。それに、カルハリアスから異常を知らされた時点で私達は此処を目指していた」


 彼女は太陽と炎の女神フレア。

 太陽と獄炎を意のままに操る最強の神の一柱。


「それに本体が神域を展開しただろう。神界の全てを覆いたいその補助としてなら最も端からが効率的だ」


 そう語るのは火山と隕石の女神マグネア。

 神界における瞬間最大火力を誇る最強の神の一柱。


「最強と云われる神が二柱も揃っているとは、壮観だな」


 最強と呼ばれる神は五柱。その中の火力に関する最強の神が二柱ともなると“完成した存在”であっても、壮観であると感嘆する。


「早速で悪いけどこっちは準備万端なのよ。貴方のこと、壊してみせるわ」

「融合型神域ヴォルカノン。其方を壊す為だけに私ら二人の神域を融合させた私らの得意を押し付けるだけの神域」


 フレアが天に手を掲げると、遠くで輝いていた太陽が徐々に迫ってくる。


「其方の“魔法”は強力だが、それは十全に扱えた時であろう? それをさせぬのが私の役目よ。『隕石招来』」


 “ⅱ”を本気で止めるべく用意された最強と称される神の最後の切り札とも呼ぶべき入念な準備による覚悟の一撃。それが切られても尚、分け身でありながらも、“ⅱ”は笑ってみせた。


「“拒絶”」


 次々と降り注ぐ隕石がその場で止められる。何かしらの力によって阻まれて止まったのではなく、突如としてその速度を失いその場に停止する。


「“零”も便利な力を持っているのに使わないのは勿体無いな全く。“一”ももっと“命名”すればいいのにな」


 “一”と“零”はそれぞれ“創造”と“破壊”に“完成した存在”だが、別のものにも“完成”している。それが“命名”と“拒絶”。

 世界創世期には頻繁に使われていた力だが、現行世界に近づくにつれ使われる事のなくなっていった力である。特に“命名”はもうほぼ全ての事柄に適応されているためそのままの使用では意味を成さない。


「さて、得意を押し付けられては困るなぁ」


 魔力圧縮の臨界点に辿り着くと魔力は白く輝きを放つ。しかし臨界を超えた“奇跡”が起こると圧縮の限界点へと辿り着く。

 その輝きは失われ、深い闇を現すように黒く光り、魔力は黒に染まる。“ⅱ”は自らの“奇跡”を消費してこの現象を自在に引き起こす。本来ソレは窮地に立たされ乍も運命に微笑まれた者のみに許された特権。“ⅱ”はそれを嘲笑うかの様に自在に操れる。


 白き魔力の爆発力は圧縮量の二倍。しかし黒き魔力の爆発力は累乗を超えている。掌に乗るサイズの圧縮塊であっても、周囲を更地に変えるだけの破壊力が黒き魔力には秘められている。


 “ⅱ”は“奇跡”を起こせる“完成した存在”。故に黒き魔力を更に圧縮膨張させ、一つの“魔法”を、圧縮した魔力の放出というだけの、しかし全てを消し去る“魔法”を生み出した。

 神殺しとして知られる“ⅱ”の代名詞。世界諸共破壊し、強制的に一件落着させる恐怖の咆哮。


「“恒星破壊砲”」


 黒い砲撃が迫る太陽を打ち砕き二柱も飲み込む。元々準備されていた最高の太陽だった為に二柱は形を留めているが、余りの規格外に理解が追いつかず、その場で静止してしまう。

 元々理解していた。“完成した存在”はそうであると。柔和な“一”であっても己の力は届かずやられてしまうと。しかし、こんなにもあっさりとやられるとは想定していなかった。

 フレアはそんな事実を前に心が折れかける。


「そん、な……」

「諦めるなフレア。まだ敗けた訳じゃあない」

「そうね、そうよ。私達は敗けた訳じゃないものね」

「てっきり心が折れてくれると思ったが、奮起するとは思わなかったよ」


 “ⅱ”は二柱の神が意気込む様子を見て笑みを深める。本体からの早く決着をつけろという指令を無視し、“ⅱ”は立ち向かってくる二柱を好戦的に見つめる。


「「連なる恒星!」」


 マグネアの連続する隕石をフレアの恒星に置き換えた二人の合わせ技。

 初めに仕掛けておいた恒星ほどではないがハンドボール大のサイズの恒星が十数個発射される。その速度は凄まじく目で追うのがやっとであるが、“ⅱ”は余裕の笑みでそれに応える。


「“一”も“零”もまだ馴染みきってないからなぁ。“魔力障壁”」

「たかが魔力の一枚板! この質量は防ぎきれないでしょ!」


 フレアの怒号にも祈りにも聞こえるソレは実現し、“ⅱ”の“魔力障壁”は三つの恒星を受け止めただけで砕ける。

 続くように巨来する全ての恒星を回避し、“ⅱ”は体勢を整える。


「“一”が言っていたな、質の向上による可能性。私も検討せねばな」


 “ⅱ”が“魔力障壁”の強度を即座に修正する。その隙を見逃さないのが最強の五柱。


「極星剣!」


 フレアはマグネアの力を借りて、即座に複数の星のエネルギーを一つに纏めた剣を作り出し“ⅱ”に斬りかかる。


(“神刀”は本体と他の分け身が出してるか……仕方ない)

「偽“神刀”」


 “神刀”はこの世に二振りしかない“ⅱ”が創り上げた“完成”した物質。それは“魔法”でもあり、魔力を練り上げる事で顕現させられるが、二振り以降は本来の“神刀”ではなくなる。

 故に偽“神刀”。本来の性能を発揮する事はないただ頑丈なだけの魔力を押し固めただけの力技の“魔法”。


 極星剣と偽“神刀”がぶつかり硬質な音が辺りに響き渡る。地面に立って上から振り下ろされる一撃を迎えた“ⅱ”の足元は陥没している。

 しかし拮抗した時間は長くない。“ⅱ”は“完成した存在”。その力は最強の五柱と云われる存在でも到底敵わない力。それは腕力であり、握力であり、膂力であり。およそ存在に付随する力と呼ばれる全てが“完成”している。

 偽“神刀”を振り払いフレアを彼方へ弾き飛ばす。


「波濤溶岩流!」


 マグネアが辺りの溶岩を操り飛沫をあげさせる。粘度の高い溶岩はさながら“ⅱ”を飲み込まんとする軟体生物の様相であったが、“ⅱ”はソレに冷静な対処を下す。

 最も簡単な、しかし防御性能の高い、“ⅱ”の得意とする“魔法”。それで“ⅱ”は防ぐ。


「“水の薄膜”」


 巻き上げられた溶岩は“水の薄膜”に当たると冷え固まり石となる。溶岩に囲まれた“ⅱ”はそのまま閉じ込められるが素手で石を砕き中から出てくる。


「諦めたらどうだ?」

「諦められるとでも?」


 マグネアは肉薄し“ⅱ”に拳を突き立てる。


「加速噴煙!」


 関節から噴煙を上げ、拳の速度を上げる加速噴煙。その速度と熱量は普通の人類種であれば容易に溶け崩れる一撃だが、“ⅱ”は左手を添え、マグネアの拳を握るだけで防ぐ。

 防いだ左手は白く染まり輝いており、“ⅱ”は呟く。


白色纏装(はくしょくてんそう)を使わされるとはな」

(掴まれた手が動かせない!)


 動かせないと悟るとマグネアは自身の拳を切り落とし、再生させる。信仰を糧に生きる神の多くはその身を再生させる事は慣れている。

 故に陥った。


「再生しない!?」

「“魔法”は“完成”した技術だ。その結果は不可逆となり、お前は自切した手を再生できなくなる」

「なら、溶岩で形を作ればいい」


 手の形に溶岩を押し固め、義手を作る。

 その手を伸ばし“ⅱ”に触れ、“ⅱ”の顔面を焼く。本来であればその触れるという行為さえ阻まれるが、今の“ⅱ”は分け身であり“奇跡”が限られていた為、普段から展開している一つの“魔法”を切っていた。だからこそ“ⅱ”は溶岩に焼かれた。最強の五柱によるソレは流石の“ⅱ”にも届いたのか溶けていく。


 “完成した存在”は神同様に再生能力を有しているが、“ⅱ”だけは“再生”の“魔法”を使わなくては再生しない。それは“ⅱ”の成り立ちに由来しているが、“ⅱ”はそれでもソレを苦とは思わなかった。

 顔の半分が溶け消えた“ⅱ”は落ち着いた様子で“再生”し、マグネアに反撃しようとしたが、後方から迫る恒星を内包した熱量の光線に気付きその場を離れる。


「完っ全に不意をついたつもりだったんだけどね」

「“魔力球”がなかったら食らっていたな」


 “ⅱ”が常時展開している“魔法”の一つ“魔力球”。

 自身を起点に魔力を球状に広げ、その中に魔力の素である魔素を散らす事で視覚よりも鋭敏に物事を捉えられる“魔法”。

 “魔力球”の外郭に光線が触れた瞬間に“ⅱ”にはそれがどの様なモノなのか情報が伝わる。その結果、回避に繋がったのである。


「分かってても、避けられない攻撃ってあるのよ!」

「ほぅ」


 目を細める“ⅱ”に対してフレアは両手でボールを持つ様な姿勢を取る。そこには白色に輝くバスケットボール大の光が生み出される。


「これは臨界を迎えた惑星」

「まさか……!」

「超新星爆発ってね!」


 自爆特攻。それがフレアの取った攻撃。

 神の身であれば再生はできる。分け身であり、“魔法”を使わなくては再生できない“ⅱ”は死を迎える。そう踏んでの一撃。


「さよなら、分身体さん」

「それは、どうかな」


 爆発のトリガーを引いたフレアを補助するようにマグネアが溶岩の手で“ⅱ”を縦半分に割る。


 爆発が起こり、辺りが破壊される。


 そうなるはずだった。


「“無量の一”」


 半分になった状態で“ⅱ”は“魔力球”と同じく普段自身に展開されている“魔法”を発動し、広げる。これが無かった為に“ⅱ”は先程のマグネアの溶岩による攻撃を受けた。


 それは全ての一への到達を無限遠にする“魔法”。


 距離、時間、感覚、その他多くの全てを無限遠に引き延ばす事で爆破の進行を抑え込む。勿論マグネアやフレアも感覚が無限に引き延ばされているため、“ⅱ”が動いているとは思ってもいない。


 “無量の一”が発動されている場合、その範囲内で自由に動けるのは“ⅱ”ただ一人。余りにも自分本位な“魔法”であるため“奇跡”の消耗が激しく、大きく展開された為に“ⅱ”の髪はその多くが漆黒に染まる。


「“暴食”」


 爆発を開始した惑星を捕食し爆発を無かった事にする。

 そして“無量の一”の解除。本体とは違い“奇跡”の総量が少ない分け身では“無量の一”の様な絶大な“魔法”は常時広範囲に展開はできない。故に髪が黒く染まる。

 発動中にフレア、マグネアを葬る事もできるが、“ⅱ”はソレをしない。神の殺し方はその神が納得しない限り信仰の力で無限に蘇るから。だから分からせなくてはならない。“ⅱ”はソレを永遠とも思える年月に渡って繰り返している。


「爆発が、起きない……?」

「止めさせてもらった。流石に神界への影響が大きすぎるんでな。私は神界を壊したい訳ではない」


 周囲の溶岩や火山、浮いていた惑星が消えていく。これはフレアとマグネアの神域が解除され、元の芝生が広がる世界に戻る事を意味している。

 それはつまり、二人が敗北を認めた事。

 神域の解除は任意か、支点の崩壊、敗北の認知など様々。しかし任意以外は基本的に敗北を意味する。


「そんな……」

「これほど、とはな」


 本来であればこの程度でこの二柱が敗北を認めることはない。

 だが敗北を認めた。

 その理由は“ⅱ”がとある“魔法”を使ったから。それは“無意識領域の支配”という“魔法”。無意識の内に、という思い込みを支配して強制的に敗北を認めさせる“魔法”。そうするには隔絶した力量がなくてはならないが、“ⅱ”はソレを可能としている。


 “ⅱ”は“完成した存在”最強。

 その噂は神界でも信じられており、また自身の最高の技を知らぬ間に止められた事から、またこれまでの戦闘から、フレアとマグネアは敗北を認めた。


「両手でやるのは初めてなんだがな」


 無限の思考時間で得てしまった絶対の敗北。奥の手を出しても勝てないという無意識での理解。

 二柱は膝をつき、地に臥している。


「“魂の簒奪”」


 信仰で成り立つ二柱を完全に飲み込み、“ⅱ”はそれらの力を得る。


「まぁ、お前らのは別に要らないんだがな」


 二柱の力を融合し、“ⅱ”は自身に星の力を宿す。

 “ⅱ”は奪った魂を理解してその力を拡大解釈して使用することが出来る。それは“奇跡”であり、“魔法”でもある。

 フレアとマグネアから得た力は“星”として“ⅱ”の中に宿り、“ⅱ”は星の力を吸収し始める。そういった“魔法”が無い訳ではないが、“星”の力はより簡便に力を吸収できる。“星”の力は大きく、人間による信仰よりも遥かに効率よく力を蓄えられ、星が枯渇しない限りはどれだけ吸い取っても瞬く間に回復する。

 本体に合流する前に可能な限り星の力を取り込んでカルハリアスとの戦いを有利に進めようと分け身は考える。


「他の所はまだ終わってないのか。のんびり神域の拡大でも進めてから本体の所に戻りますかね」

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