0-2-9 上位者
吐かれたブレスを回避し、竜から見て斜め前方に位置を移す。泥の濁流は先程と比べて弱い。恐らく体内に溜めた泥が減っているのだろう。泥を発生させる器官がない可能性が高い。
しかしこいつも学んでいるのか中々内側に入らせてはくれない。姿勢を低くし、犬が戯れるみたいに身体ごと回転をする事で泥の補充をしている。
だが、頸周りにはあまりついてない。付いてるのは身体ばかり。狙いは一つ。
後はこいつをぶち込むだけだ。
簡単に一言でまとめたが、難しい。こいつも生き物。学べば当然厄介になる。初めから尻尾ではなく頸を狙えば良かったと今更乍ら後悔する。
しかし、そうも言ってられない。やる事が決まれば後は成すだけ。
泥も鱗の薄い腹側――下に回れば一発で頸を飛ばせる。
先ずは踵から『爆裂』させる事でその辺の石を文字通り爆速で蹴りぬき、眼球に刺す。コントロールが要求されるが、周りを円を描く様に動いて何度かやれば刺さった。
貫通させる勢いで蹴ったが、刺さるだけって事は眼球周りになんか膜でもあるんだろうか。泥に混じって石もあるからついでにもう一発反対の目に捩じ込み視界を塞ぐ。
頭を振って視界を確保しようとするが、突き刺さった石が取れる事はなかった。瞬きを繰り返すが、より深く刺さる一方らしい。
訪れた絶好のチャンス。
逃す訳がない。
身体強化を強め一息に詰め寄り右の掌を翳す。
「『爆裂』!!」
辺りに爆破音が響き、竜の頸が吹き飛ぶ。頭部を失った竜は倒れる事なく血を噴出させるが、魔眼で見て不思議に思った。
魔力が減らない。寧ろ高まっている。
『爆裂』で吹き飛ばした頸は塞がり、そこから窮屈そうに新たな頭部が出てくる。
「おいおい……だが――」
硬直している竜に再び『爆裂』を浴びせるが傷一つ付かない。
こいつ、進化してやがる。
再臨を示す咆哮が上げられ、それだけで身体が吹き飛ぶ。音に魔力が大量に乗っている。幸いにも鼓膜は破れなかったが、音に乗せられた魔力で吹き飛んだ。
「こりゃあ、死んだかね」
一度殺した相手を視界に収めた竜は確実に殺そうとその口を開き俺を噛み殺そうとした。
無論反抗はする。噛みつきと同時に全身から『雷撃』を放ちせめて一矢報いる。
そう思っていた。
「『太い魔力砲』」
凛とした声だった。
そして圧倒的な魔力量が込められた一撃だった。
竜は風穴を開けており、再生する兆候は見せない。ここまでしないと死なないのか、三度目はないのか。
どうやら俺は生き残ったらしい。
声をした方向へ振り返ると見覚えのある法衣と顔。冒険者ギルドまで案内してくれた、そしてこの世界で最も魔術に秀でた亜人の少女。
「あ、貴方はこの前の」
どうやら覚えているらしい。
こんな人に覚えていて貰えるとは光栄だが、最近の出来事だし異世界人というインパクトで覚えていてくれたのだろう。
ま、時間が経てば忘れられてしまうだろうが。
「クローディアさんですよね? 助かりました」
「突然竜の魔力を感じたので駆け付けたのですが、もしかして無用でしたか? えぇと――」
「春夏秋冬夜黒です。こちら風にいうならヤクロ・ヒトトセでしょうか。それにそんな事ないですよ。死ぬ寸前でした」
異世界人なら誰しもが初依頼で竜を倒せる訳ではない。俺のしていた事は死ぬならばと一矢報いる為の準備だ。
いつか、この借りを返す事はできるだろうか。
「魔力の流れで大体分かりますが――諦めちゃだめですよ」
「竜なんて雲上の化け物相手にはイタチの最後っ屁しかできませんよ。それに俺は魔術を遠くに飛ばせない」
「遠距離不適正だったんですねぇ」
なるほど俺は遠距離不適正というのに分類されるのか。
「魔術は便利ですけど、一定数、数は少ないですけど魔術を遠くに飛ばす事が出来ない人がいるんですよ。だから普及に手間が掛かりましたが何代ものクローディアが成し遂げてきました」
クローディアさんが竜の残りを解体していく。どうやらなにか引っかかるらしい。
「……この竜は魔術若しくはそれに近い技で作られた魔術生命体とも言える存在ですね。長年ここで黄金の魔力草が取れたのはこの竜が原因でしたか」
となると運悪く俺の時に目覚めたって訳だ。
「それにしても不可解ですね。ここの採取は異世界人も行っていたはずです。夜黒さんが何か影響しているのでしょうか」
簡易的かつ精密な検査をしていいかと聞いてくるから勿論許可した。今後こういう展開があっては困るし、何より力を付ける前にこんな場面に二度と立ち合いたくない。
検査の結果原因不明。
魔力に不思議な所もなければ人体に何もなし。なにかの呪いもかかっておらず寧ろ今後が楽しみな魔力量だと言われる始末。
「何にもなかったですね」
「そうですね」
「これは運が悪かったと思うしかないのでしょうけど、うーん、私的にはもっと深く調べれば分かるような気もするんですよねぇ」
何やら興味津々といった様子である。
「夜黒さんさえ良ければ暫く私と行動しませんか? 今後こういった事がないとも言えませんし」
願ってもない話だ。
世界最強の魔術使いと過ごせる。どんなに恵まれた環境だろうか。それに深く調べれば何かが掴めそうなら是非ご一緒したい。
だが……。
「こんな新人を連れて足手まといでは?」
「異世界人の魂とかすっごく興味あるんですよ! ダメでしょうか……?」
何故あんたがそんな悲しげなんだ。
普通逆だろう。
「いえ、ダメという訳では――」
「なら一緒に行動しましょう! 魔術についても教えますから、あ、数年単位で一緒ですよ」
「……まあする事もないんで、此方としては有り難いです」
(やったーー! 異世界人の魂、肉体、それに魔術を理解してる人が手に入りました!!)
なにかヤバい気もするがとりあえずクローディアさんと行動する事になった。これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、間違いなくこの世界最強の一角と行動できるんだ。暫く死ぬ事はなさそうだな。
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クローディアさんは強いんです。




