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これは“世界”を救う物語。  作者: 高平めめこ
初代クローディアの偉業
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0-4-3 手合わせ

 目を覚ましたハイエルフは今の自分の姿と“ⅱ”との姿に大きな違いがある事を今更知り、一つ願い事を頼んだ。


「先生、服が欲しいです」

「そうか」


 “ⅱ”は適当に黒い布を“創造”してそのまま適当に“縫合”する事で服の様な物を創り手渡す。ハイエルフは嬉しいのか顔を綻ばせ、年相応の喜び方をしてその服を着る。

 “ⅱ”としては未だ文明に触れさせる予定はなく、これからも成長する身体に合わせて服を作ると考えると面倒ではあるが、ハイエルフの永き時の僅か百年しか関わらないと思うと()()も悪くないと思わされる。


「先生、今日は何をすれば良いんですか?」

「『魔術』を磨きなさい。十三冊の魔導書を活用してもいいし、独自に発展させてもいい。好きな様にしなさい」


 好きな様にしなさい、この言葉でこの知識を得た生後二日目の小娘はどう答えてくれるのか、“ⅱ”はそれを楽しみにしている。いずれ自分を越えるかもしれない可能性を持った人類種というだけで、“ⅱ”は期待を込めてしまう。


「なら、先生と戦いたいです」


 予想を超える答え。

 そして“ⅱ”の好みに沿った答え。

 断る理由など一つもなく、分け身よりも上手くこのハイエルフを鍛えてみせようと“ⅱ”は内心で笑う。自らの予想を良い意味で裏切るこの小娘をどう仕立てあげようかと、“ⅱ”は魔力を立ち昇らせる。


「よろしい。ならば私が、自ら、相手をしてやろう」

「はいっ!」


 “ⅱ”の魔力量は亜人の死体の持っていた魔力に加えて、“ⅱ”の魂が有する魔力を持っている。その量はただ魔力を解き放つだけで周囲の森の木々が圧されて曲がる程であり、対するハイエルフは地面の砂を散らす程度。

 本来魔力だけで物理的な介入は出来ないにも関わらず、この二人は()()を成し遂げている。それだけで、ハイエルフの方も世界規模で見ても稀有な魔力量であると分かる。


「『大いなる魔力の矢』」

「『光の盾』」


 “ⅱ”がある程度手加減した攻撃魔術を放ち、ハイエルフは魔導書から得た知識で防御魔術を構築してそれを防ぐ。だが“ⅱ”は手加減がとても下手であり、そして『魔術』であっても人の蘇生はこの死体の種族なら出来ない事もないと考えて、ハイエルフの防御魔術を易々と貫通させる。

 破られそうになった瞬間にその場から回避を選択したハイエルフは大事には至ってないが、“ⅱ”の容赦の無い追撃がその身を襲い、意識が飛ぶ。しかし痛みで再び覚醒する。埒が開かないと悟ったハイエルフは魔力を噴出させ、空間に干渉する。魔力を散らすという空間干渉は神域の発想に近い。


「ほぉ」


 そんな知識を“ⅱ”は与えていない。

 独自の考えと、今置かれている状況からそれを導き出せたのだ。流石の“ⅱ”も感嘆の声が漏れる。普通であれば何にも成らない魔力の解放で周囲に干渉する。“ⅱ”が手を加えていなかったら出来ない芸当だろう。


「名付けるなら『退魔の領域』でしょうか」

「……面白い。領域はどこまで広げられる?」

「百と少しだと思います」

「この身体の射程より広いか……ふむ、全力で広げて維持していなさい」


 “ⅱ”の身体となっている死体は魔術に対する適正こそ高いが、射程は驚く程に短い。“ⅱ”の力で無理矢理伸ばしてはいるが、それでもハイエルフの領域の方が広い。

 難題を解決するのも悪くない。そう考える“ⅱ”は今後自身の様な者が現れた時の為に今此処でその解決策を模索する。魔力は練れても射程が伸びない存在の為に、そして魔力が散らされる空間において『魔術』を発動出来る様にする為。


(体外に魔力を出した瞬間に散らされる。退魔というだけはある。だが体内では問題無く魔力を練れる。であれば、自らを対象にしてしまえばいい)


 “魔法”の中でも体内でしか魔力を練れない状況を考えて作られたモノを『魔術』に流用する。


「『黒い棺』」

「それは――」

「話していていいのか?」


 “ⅱ”は棺の中に入り、その蓋が閉まる。

 ハイエルフが『退魔の領域』を維持したまま魔術を放つ。自身の魔術は散らさない様に作られている辺り、一瞬の閃きは相当なモノであると推測出来る。普通であれば、対象を取る事なく全ての魔力を散らす様に最初は作るモノだが、ハイエルフはそれを無意識の内に避けていた。

 魔術を打ち込むハイエルフは召喚された棺に魔術を打ち込んでいくと、どうやって出たのか“ⅱ”が棺の裏から出てくる。


「破壊目的で魔術を放つのは良い。だが、それを利用された場合はどうする?」

「え――」

「『白い献花』」


 棺の中から無数の白い花が漏れ出す。

 そのどれもがハイエルフには慣れ親しんだ気配を放っており、辺り一面が白い花に埋め尽くされる。ハイエルフは魔力を感じる事で“ⅱ”が何をしたのかを察知するも、手遅れだった。


「『赤い葬送』」


 花の一部が燃える。

 属性についても知識があるハイエルフは『水の薄膜』を用いて炎を遠ざけるが、“ⅱ”の狙いは炎ではない。


「この花にはお前の魔力が込められている。そして、この空間でも『魔術』の扱い方は分かった。全力で防ぎなさい」


 “ⅱ”を起点として風が巻き起こり、花が一箇所に集められる。

 そしてそれら纏めた“ⅱ”は一つの魔術を発動させる。ハイエルフ由来の魔力であるため『退魔の領域』は通用しない。『黒い棺』に放たれた魔術は三十程度だが、そのどれもが棺を壊そうとして高い魔力量が込められていた。

 魔力を爆発させるには充分な量。そして、“ⅱ”自らの魔力も込める事で爆発の威力が大幅に増大する。


「『魔力の爆発』」


 自身の射程に限界があるのならば相手の力を使えば良いという“ⅱ”の考え方は、無慈悲な爆発となって周囲を破壊した。


 ハイエルフは大地を利用した『畳返し』と結界魔術の二つで防いでおり、無傷ではあるが、魔力を常に使用した領域の維持などで大幅に魔力を消費しており、慣れない感覚に息を切らしている。

 “ⅱ”は自身を対象とすれば『退魔の領域』内でも問題無く魔術を扱える事を知れて満足する反面、自らの射程を伸ばせない事に納得が行っていなかった。


「はぁ……はぁ……私は、まだやれます……」

「そうか。なら身体の訓練と行こう」


 問答無用で距離を詰めた“ⅱ”はそのままハイエルフの腹部に蹴りを叩き込む。身体強化と攻撃部位から骨も内臓もあまり傷付けない位置を上手く蹴り抜き、ハイエルフを蹴り飛ばす。

 “ⅱ”の体格は成人男性並みであるのに対してハイエルフは小学生低学年くらいしかない。勿論強制的に成長させた際に筋力も増強させた“ⅱ”は魔力の消費に疲れるハイエルフがこの程度でくたばるとは思っておらず、追撃を入れようとしたが吹き荒れる魔力にその歩みを止める。


 属性による身体強化。

 ハイエルフは風が好きなのかその魔力を風に変換させて身体能力を向上させたが、“ⅱ”は全身に魔力を行き渡らせるだけに留める。未だ身体強化をしてはいけない。此処で一度殺すのは早計だと、“ⅱ”はハイエルフの魔力を読み解く事に専念する。


「はぁ!!」


 ハイエルフから放たれた一撃は風の援護も有って強烈な一撃となるが、“ⅱ”はその拳を片手で受け止める。その手を利用してその場で飛んだハイエルフは左脚で“ⅱ”の身体を蹴ろうとしたが、空いている片方の腕を使ってその蹴りを受け止める。

 そのままハイエルフは掴まれた拳を利用して関節技を決めようとしたが、“ⅱ”はあっさりと離してしまいハイエルフの連撃は防がれる。そして再び殴りかかった時、その拳に沿う様に差し出された手がハイエルフの魔力を散らし、風が消える。


 反魔術。


 相手の魔術に対して同質同量の魔術を展開し、尚且つ逆回転の魔力の流れで魔術を完全相殺する魔術。相手より魔力が多いとそのまま魔術を貫き、少ないと減衰する魔力コントロールの極致の一つ。

 余程の力量差があるか、相当魔力コントロールが上手いかでないと完全相殺は出来ず、今回の場合、“ⅱ”が魔力を多く入れていた場合、ハイエルフの腕は弾け飛んでいた。


「――ッ!」

「遅い」


 そのまま頭を鷲掴みにされたハイエルフは流し込まれる魔力に反応して反魔術を行うも、頭痛が襲い、地面に倒れ込む。“ⅱ”は頭に残る魔力を振り払おうとするハイエルフを見て一撃を加える。


「相手が待ってくれると思うのか?」


 容赦の無い蹴り上げがハイエルフの鳩尾に入り、発達途中のハイエルフはそのまま宙に浮き、ベシャリと地面に落ちる。

 “ⅱ”はその姿を見て『鎮痛』を掛けて首を掴んで無理矢理立たせる。

 百年もある。

 しかし百年しか無い。

 自らを継ぐに相応しい器とすべく“ⅱ”は少女を鍛え上げる。そこに優しさは要らない。有ってはならない。


「はぁっ、はぁっ」

「下手に属性なぞ付けるから反魔術を喰らう。魔力運用の原点は無属性。それを忘れるな。だが今は、属性による魔力強化を認めよう」

「分かり、ました……!」


 “ⅱ”が虚空から剣を取り出す。

 使い込まれた剣は刃毀れが酷く、切れ味は期待出来そうに無い。

 ハイエルフは先生が無駄な物を取り出す訳が無いと、先程言われた属性による身体強化を再び展開して次の一手に備える。


 そこで気付く。

 何故私は受け身なのか、と。


 遥か格上の先生相手に何故受け身の姿勢なのか。無意識の内に相手を知ろうとする余り陥った失敗に気が付いたハイエルフは先生から蛮勇と謗られても良いと判断して愚直に拳を放つ。


「良い攻撃だ」


 両手で構えられた剣でしっかりと受け止められた攻撃だが、その反動を利用してその場で回転したハイエルフは蹴りを放ち、“ⅱ”を防御に回らせる。その蹴りの勢いを殺さずに掌打をして“ⅱ”の態勢を崩そうとしたが、そこまで甘い相手ではない。


「私の予想を越えてくる」


 “ⅱ”が剣を振り下ろす。紙一重で避けたソレはその圧だけで木々を斬り裂いていく。再び振り上げられた剣をバク転で避けたハイエルフは僅かに見えた一瞬の天を見て驚愕する。

 天が割れていた。

 比喩でもなんでもなく、文字通り天に剣筋が残されていた。まともに当たっていれば死んでいたかもしれない一撃に肌が粟立つのを感じて次の一撃に備える。今は、攻撃の時ではないと察して。


「だが、まだ弱い」


 “ⅱ”が剣を横薙ぎに振り、ハイエルフはその攻撃に合わせて逸らそうとしたが、その威力の高さに身体が付いていけず、吹き飛ぶ。


「魔力コントロール、身体能力、磨くべきものは多い」


 吹き飛んだハイエルフの前に立った“ⅱ”は剣を地面に突き刺して少女の首を掴んで、立たせる。ハイエルフは体に鞭を打って魔力を激らせるが、“ⅱ”は魔力を抑えて訓練の終わりを告げる。良く見れば陽は傾いており、夜になろうとしている。


「気づき、学べ。そうすればお前はより良くなる」


 “ⅱ”がハイエルフの頭を撫でる。


「夜は自主的に磨きなさい。私は今日の記録を魔導書に書いておこう」

「……はい!」


 地面を隆起させて造られたテーブルに魔導書を広げ、『仄かな照明』で照らし、椅子に座った“ⅱ”は魔導書の一冊を手に取り今日の事を書き記していく。この文字をハイエルフ以外が解き明かせたら、“魔法”にも至れると信じて“ⅱ”は魔力をコントロールするハイエルフを見ながら今日の事を纏めていった。

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