0-2-3 小屋からの脱出
異世界にはちゃんと来てます
目が覚める。見慣れぬ木造の作りの建物で、窓が一つしかなく、太陽が反対にあるせいかうっすらと暗い。
魔力の限界はわからないが暗くいるよりも明るく、ということで昨日に引き続き光る球を生み出す。
「不思議な現象だよなぁ」
目下の目標の一つは魔力の十全な把握。
何が出来て何が出来ないのかを探るのは大事な事で、もしも魔物蔓延る世界であろう物なら、魔術の威力を上げることはもう一つの目標である生きることに直結する。
そう、生きること。
俺は死にたくない。幼い頃に乗用車に轢かれ生死を彷徨ってから発現した三種の回避能力を使って死なないことを優先してきた。これがなければ何度死んでいたことか。
「うむむ」
唸るしかない。特にやるべき事もなく、そこそこの食料があって寝床がある。これも一つの幸せではなかろうか。
そういえば余り確認していなかった、というよりも確認したくなかった事実としてこの小屋出口がない。窓こそあれど出入り口がない。
視認できる範囲では内部の造りが木造の小屋で、多分西の方向に小さな窓が一つあるだけ。
どうやって出たものか。
そもそもここから出て街なり何なりに行かねばこの食糧が尽きた時点で生きるという目標が達成されない。それはいけない。
素手で立派な木造の壁を破壊出来るかと問われれば否と答えよう。生憎俺に壁をぶち破るパワーはない。
「魔術で壊せというあの神なりの試練……か?」
であれば魔術を独学で身に付けねばならない。確か魔術適正だか何だかは日本人は高いとか言ってたし、多分どうにかなるはずだ。ならなかったらそのうち飢え死にしてしまう。
壁を壊すにしても先ずは自分の属性を知るのは大事じゃないだろうか。ゲームでは基本一人一属性。最近のゲームでは二属性もあるが、基本的な属性を試さない事にはこの壁の破壊もままならない。
○
「なんということでしょう……」
自身の知る属性は全て試せた。試せてしまった。もしこれが普通でないのなら魔術協会的な場所で実験台の様な生活を余儀なくされる。
これが普通である事を切に願おう。
そして属性を試して分かったが、この壁には修復機能が付いている。うっかり雷撃を放ったところ焼け焦げた壁が自然と直った。
つまり、破壊して直ぐに出ないとこの小屋からは出られないという事だ。再生速度はまあまあといった所だから完全に壁を破壊できればなんとかなりそうではある。
「さて、何属性で破壊をしたものか」
修復機能がある事に加え自身が内部にいることから炎系統は避けたい。水も水圧を上げて物を切り裂けるが、人を通す穴には程遠い。風は多分室内の物が散乱するだけだけら避けたいし、土は除去が面倒だ。今も部屋の隅に作り出した土が山を作っている。
やはり雷か、空間か、か。
雷撃であれば音が凄まじいが、大木を切り裂く威力が見込める。勿論火災の心配もあるが直接火で焼くよりはいいだろう。
空間は空間の圧縮を利用した反動砲。圧縮された空間が元に戻る力を利用して周囲を破壊させるという方法。ただしこれは指向性を持たせられず、自身も巻き込まれる可能性がある。
「雷、かな」
そうと決まれば雷属性の強化。
細かい理論は全然知らないが、魔力のお陰で壁を焦がす程度の雷を既に扱える。
「単純に考えれば、魔力濃度を上げての使用だよな」
一番最初の光でもそうだった様に魔力濃度を上げれば強い現象が起こる。それは多分どの属性にも当てはまる理論であって間違いはないはずだ。
しかし雷撃の強化。ふーむ、イメージが湧かないぞ。生憎物理は苦手でボルトだアンペアだは全く知らないから本当に魔力頼りになる。とりあえず全部上げればいい。多分。
よーし、やったるぞ。
○
結論から言おう。
ダメでした。
「あーー勉強はいやじゃーー」
魔力濃度を限界まで上げて雷撃を放ったのはいいが、魔力の外に出た途端威力がほとんどなくなった。手元では強い雷が発生してるけど、手元から外れると本当に弱っちくなる。
「もしかして魔術って高度な技術?」
それとも単に放出する才能がないのか。
「爆破属性も適正はあるからそっちにシフト変えますかーー?」
もーやだ。神様お外に出して。
うだうだ言っても仕方ないのは分かる。とにかく魔術を放出する訓練をしないとどうにもならなそうだ。でもなぁ、体から離れた魔力って途端に弱るんだよな。
こうなったら遠距離の可能性は捨てて、零距離キャラクターになりますかね。幸い回避には自身がある。時間を固定するとかいう馬鹿げた技がなければ俺に対する攻撃はその全てをなかった事にできる。
「よーし、いっちょやったりますか」
そう意気込んだのはいいが、時間がかかった。
食って、寝て、魔力を圧縮して、食って、寝て。
食って、寝て。
そうして一週間が経った日。
今日も先ずは魔力の濃度を高める。魔力を右手に集めて圧縮。それを繰り返す事十回。薄紫だった魔力は紫紺の魔力になり、右手を壁に添える。
「必殺! 零距離スーパースタンガン!」
バチィィィという音共に壁に穴が空く。
「おー空いた。でも出るには狭――もう直ってるー!」
直るの速くない? え、これ外に出るなって事?
ははっ。
この時俺は久しぶりに怒りの感情に飲まれた。あの神に対して、この家に対して。だからだろうか、記憶はないが、魔力を周囲に円の様に広げ濃度を極限まで高め、爆破の魔術を唱えた、らしい。
らしいというのは、自分の記憶が本当にないから。この程度で怒るほど短気だったかと不思議に思い、最早再生し無くなった小屋跡地を見て、自分がこうしたのだと推論した。
「なんか知らんが出れた」
若干の虚脱感を感じる。
食糧を失ったのは痛いが、遠くに微かに見える都市を目指そう。
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