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8話 火花散る大通り


 新しい希望の朝が来た。小鳥が歌い心地よい風が吹き、少し遠くから大通りの喧騒が聞こえてくる。

 とても冒険日和である。

 鉱山に行くのは若干冒険者っぽくない気がするが、この街の鉱山は魔物と冒険者とちょこっとの山賊の巣窟になっている。冒険日和に行くには適した場所だ。

 背伸びによって鳴る背中を押さえて、俺を抱き枕にして寝るノノを叩き起こす。


「あと5分」

「あと5分だけな」


 ノノの拘束だけは解いて立ち上がり、俺は窓を開け放った。

 早朝の冷たい空気が一気に押し寄せ俺たちの体を強制的に叩き起こしに掛かる。

 ノノがベッドの上で震え毛布をかぶって丸まった。

 昨日もらった冷たくなってしまったお湯で顔を拭き出発の準備をしていく。

 ある程度準備ができた頃、未だに起きないノノを再度叩き起こした。


「起きろノノ、仕事だぞー」

「んー」


 嫌々といった感じで伸びをしてからノノは起き上がる。寝ぼけ眼で差し出す彼女の手足にポイントガードをはめていった。

 盾がない今、ノノには少しでも防御を固めてもらわなくてはいけない。俺を守るまでやってもらう必要はないが自分の身は守ってもらわないと。

 そうしてノノの支度を俺が終える頃には彼女も覚醒を果たしたようで、いつもの無表情で俺から荷物を受け取った。


「よし、じゃあ行くか」


 いざ2人で宿を出る。鉱山は北門を出てすぐだが、俺は街を歩いている内に何か違和感を感じ取った。

 視線を感じるとかそういった事ではない。

 むしろ自分の視界に何か違和感がある。見回しても特異なものは見当たらず、何かと思い自分の横を歩くノノを見てそれに気が付いた。


「盾破壊されたんだもん、そりゃ持ってこないよね」


 昨日より少し小さいノノは俺の顔を見る。何言ってんだこいつは、とでも言いたげな目をしていた。


「なんか適当な盾ないと困るよな。よし、やっぱり鍛冶屋が先だ。あの盾の残骸も持ってくるか」


 俺たちは急遽宿へと舞い戻り、ひしゃげた盾を担いで鉱山行きを保留にして鍛冶屋へと向かった。

 もちろん、宿屋がたくさんあればこの広い王都の中には鍛冶屋もそれなりに数がある。

 大通りに面した鍛冶屋なんかは、1階で匠が鉄を打つのが外から見学できて外階段で上がった2階の店舗部分で予約注文現物購入ができるようになっていたりする。

 路地を奥に行っても老舗や隠れた名工がいたりもするから大通りに面してる店舗だけが正義ではないのが面白い。

 今回の俺たちは、その大通りに面した見学のできる鍛冶屋にやってきている。

 実はこの店は高いもので俺たち低ランクの数年分の給料を吸い尽くすものから、安いもので今の俺たちでも買える様なものまであるのだ。

 それはこの店が繁盛していて従業員数、ひいては鍛治師の数が多いということに起因している。

 何十年とやっている名工の剣は高く、最近就職した者の未熟な装備は脆いため安く売られる。

 予約や注文はそれとは違い消費者、主に冒険者が指名する形で素材を渡して作ってもらったり次に作るものを予約する。

 もちろん俺たちは今回、若手の作った安いものを買いに来た。

 大通りに面している上店構えが大きい故にひっきりなしに客が行き交う鍛冶屋に人の流れに乗る様に2階へと上がる。

 冒険者はもちろん商人や主婦層、貴族階級の方々まで色んな人が商品を見て回る店内。

 俺ははぐれないようにノノの手を取った。


「あまり高いのは買えないが、好きなのを選んでくれ。盾は修理と新調、どっちがいいか聞いておこう」

「ん」


 人の多さに少し気圧され気味のノノを連れてカウンターへと向かう。鍛冶屋ということもあり男受付が多いが、1人女性を見つけてそこに歩み寄った。


「こんにちはお姉さん」

「いらっしゃいませ、今日は……修理ですね!」


 ひしゃげて切り裂かれた大盾を見て受付嬢は若干引きながら言う。


「修理と新調、どっちがいいですかね?」

「そうですね、たしかにここまで消耗してしまうと新調の方が早いかもしれません。職人さんに聞いてみましょうか」

「お願いします」

「盾をお借りしていいですか?」

「はい、ノノ、借りていいか?」

「ん」


 ノノは軽々と大盾を持ち上げ受付に置く。しかし、それを持ち上げようとした受付嬢はその重さにまた引いていた。


「こんな重さの盾が曲がるってどんなことしたんですか……」


 呟きか質問かわからない言葉を発しながら引きずって奥へと入っていく受付嬢。

 少しして戻ってくると彼女は盾を持っていなかった。


「結論を言いますと、正直新調の方が早いし安全だそうです。ただ、あれだけの大きな盾ですから注文してくれれば溶かして鉄継ぎ足して新しい物を作れないことはないとのことです。盾は重すぎるので置いてきました。返事だけ先にください」


 よほど重かったのか心底疲れたような表情で俺たちの顔を見た。


「どうする?正直今は応急的に安い小盾を買って金が貯まり次第になるが、新しいのを買うか?」

「ん!」


 ノノは首を横に振った。


「鉱山にも行くし、改造してもらうか」

「うん!」

「じゃあ、そういうことにしたいんだけど、鍛治師に会えたりしません?」

「はい、そう言うって分かってみたいで待ってますから奥へどうぞ」

「そうか、ありがとう」


 ノノを連れてカウンターの奥の部屋へと入っていく。

 奥には下へと続く階段と廊下があり階段からは熱気と金属を打つ音が響いてきていた。


「下かな?」


 そう呟くと廊下の方から声が掛けられた。


「こっちだ、大物狩り」

「え?」


 声を掛けられた方を向くと、1人の男性が立っていた。

 今部屋から出てきたようで扉から半身を出している。その彼の腰には鉄のハンマーが掛けられていた。


「こんにちは、盾の具合見てくれた人ですか?」

「敬語はいらねぇ。だいたい同い年だ。入れ」


 言われるがまま部屋へと入る。部屋は一般的な応接間だった。


「ドアノブを右に2回回してくれ」

「2回?」


 またも言われた通りにドアノブを回す。すると、扉に魔法陣が浮き出て商談中と表示された。大通り沿いの店は違う。


「2人とも座ってくれ」

「ありがとう、ノノ座って」


 改めて男を見る。

 オレンジ色の逆立った髪の毛に吊り目に目立った犬歯、今まで鍛治仕事をしていたのか上がタンクトップでいい汗をかいている。

 恐らく暑苦しい鍛冶師なのにモテるタイプの男子だ。


「俺はマークルス。冒険者だ、よろしく。こっちはパーティのノノだ。さっきの盾はこの子のものだ」

「大丈夫だ。だいたいわかってる。で、あれは何につけられた傷だ?」

「鬼喰いだ」

「……正面衝突でもしたのか?」

「その通りだ」


 かなり訝しむような表情でこちらを見る男だったが、俺が頷くと何かに納得をしたようだった。


「あんたは、名前を教えてくれないか?」

「あぁすまん。シリウスだ。そうだな、商談中なんだ、これも先に言っておこう。俺の鍛冶師歴はまだ4年だ」

「何年で一人前なんだ?」

「親方たちは10年って言うな」

「そんなものか」


 冒険者も5年で一人前と言われることがある。その計算で行くと俺も一人前ということになる。1人では何も出来ないのに。


「それはなんでもいいや」

「言い訳がないだろ。いや、この言葉は客から出るべきだ」

「自信があって俺らに声を掛けたんじゃないのか?」

「その通りだが」


 少し歯切れが悪くなるシリウス。しかし、自信はあるらしい。


「シリウス、俺たちは今日から何日かは裏の鉱山で修行をするつもりだ。そこの鉱石を持ってきたら安くはしてくれないか?」

「そうだよ、それだよ。客はもっと上手い奴、もっと安くって言うもんだよ」


 シリウスは少し嬉しそうに言う。


「で、どんな鉱石を持ってくるんだ?」

「なんでそんなやけに楽しそうなんだ?あの鉱山に何があるのかわからないから答えられない」

「噂じゃ鉄や金銀に始まりダイヤモンドプラチナ、アダマンタイトやオリハルコン、ミスリルまであるらしいぞ」

「鉄でいい。採取難易度いくつなんだよ、後半の鉱石たちは」

「ミスリルは10だぜ」

「最高難易度じゃねえか。あそこの難易度は4じゃないのか」

「噂だよ。一部の人が見つけたとか見つけてないとか」

「俺らは適当な鉄でいいよ」

「本当に?」


 シリウスは妖しげに笑う。


「無駄な危険は犯さない」

「無駄なものか。オリハルコンやミスリルで盾を作ってみろ、ドラゴンのブレスだって防げるぜ」


 ドラゴンの討伐は夢ではあるが、叶わないのが夢だったりするのだ。


「魅力的だが、時間と労力を考えればコスパが悪い。偶然見つけたら持ってくるさ」

「言ったな?見つけたら俺に打たせてくれよ?」

「あぁ、約束してやろう」


 半ば無理矢理約束をさせられる。

 しかし、これはフラグでもなんでもない。

 そもそも採取難易度10は討伐難易度10とは認識がかなり違う。

 討伐難易度10は勇者パーティが苦戦するレベルだと考えていい。

 それに対して、採取難易度10は勇者パーティが苦戦する環境に生成される物を示す。

 毒や魅了が効かないこともある勇者が苦戦する環境となるともはや永久凍土やマグマの下とかのレベルになる。常人では採取ができないということである。


「で、シリウス。あの大きさだといくらでやれる?」

「そうだな、注文生産ともなれば金貨5枚で受けよう」

「相場は知らんがそれでいい。で、今使うための盾を買いたいんだが」

「だから言い値で承諾するなよ。まぁいいや、俺ので良ければ売れ残りをいくらでもやろう。待ってろ」


 そう言ってシリウスは応接間を出て行った。

 それと同時くらいにノノが俺の腕を引っ張る。どこか不安そうなノノがそこにいた。


「金貨5枚は高そうか?」

「うん」

「これから稼ぐんだ。稼げなかったら買えないだけ。気負うな」

「ん」


 なんだかんだ納得してくれたようでノノは出されていたお菓子の最後の一個に手を付けた。


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