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6話 新しい仲間たち


「ということで、新しい仲間です」

「どういうことですか?」


 唐突に白髪の少女を連れてきた俺にナタリアは疑問符を繰り出した。


「パーティを抜けたのは昨日では?」

「追放な」

「どっちでもいいですよ!」


 ナタリアが大きな音を立てて受付を叩く。その音に反応した冒険者たちの視線が集まった。


「あ、すみません。大丈夫ですから」


 ナタリアは笑って誤魔化す。

 そして今度は少し小声で俺に話しかけてきた。


「追放される前からこの子と関係が?」

「ない。今日の朝パーティを結成した。申請もしたぞ」


 何を疑っているか知らないが、何もやましいことは無いし考えても、ないことはないが、俺は無法者じゃない。

 ナタリアは大量の書類をひっくり返さんばかりの勢いで確認していく。


「あかさたなはま、ま、まー、あった。え、本当ですね」

「信じてなかったのか。悲しいなぁ、泣いちゃうよ俺」

「パーティ追放からの翌日にはパーティ結成なんて滅多に見ない事例だからです!」

「そりゃそうか」


 俺は運が良かった、くらいにしか思っていなかったがギルドの受付嬢としては色々と考えるところがあるのだろう。


「マークルスさんはすぐ変な女に引っかかってお金全部使っちゃうんですから」

「待て、俺はそんなに信用がないのか?」

「娼館行きすぎて追放されたって知ってますからね?」

「はい、すいません」


 ケイロンの奴が流したに違いない。ナタリアもあいつに聞けば俺の情報を流してくれると知っているから、ナタリアも悪いが。


「相方のお名前は?」

「ノノだ」

「ノノさん、こちらに来てもらえますか?」


 ナタリアに手招きをされてノノが受付の中に入っていく。そのまま連れ立って2階に上がって行こうとするナタリアを一瞬止めた。


「何するんだ?」

「奴隷じゃないかとか傷つけられてないかとか調べてくるんです。大人しく待っていてください」

「あ、はい」


 そうして、ノノはナタリアに連れて行かれてしまった。

 1人残されてしまった俺だが、やることが無いわけでもない。

 盾の修理だか新調だかはノノが戻ってきてからの方がいいだろう。鬼喰いの爪の報酬も貰ってないから貰わないといけないが、ナタリアが2階に行ってしまった。娼館に行く金なんてもちろん無いし、酒を飲んで待っている金も無い。

 どれくらいで戻ってくるかわからないが、手軽に済ませられる用事はないだろうか。

 そんなことを思考していると、宿の引き払いが済んでいないと思い至った。


 受付の中に手を伸ばし勝手にメモとペンを拝借すると、「用を足してくる」とだけ書いて冒険者ギルドを後にした。


 宿の引き払いをしないといけない訳だが、あいつらに会うのが気まずい以上に自分1人では宿泊費を払い続けられないという点にある。

 俺の冒険者ギルドは4、それに対してケイロンとナルカが5、スカルスとヘンリーに至っては6なのだ。

 あのパーティはヘンリーとスカルスのランクに合わせて依頼が受けられるために報酬がその分高い。

 これまで何度か強いモンスターとは戦ったが、今のパーティでそれを出来るともしようとも思わない。

 鬼喰いにリベンジもいいが、難易度4くらいのモンスターを安定的に倒せるようになっておきたかった。


 何を目標にするのがいいだろうかと思案しているうちに宿屋に着いていた。

 豪華な鉄の装飾が施された扉を開けて中に入っていく。

 入ってすぐの受付では看板娘のヤィナちゃんが父親に代わって店番をしていた。


「いらっしゃいませ。あっ、マークルスさん。おかえりなさい」

「ただいま。とは言いたいんだけど、ちょっと事情があってね。チェックアウトをお願いできる?」

「はい、大丈夫ですが、皆さんのですか?」

「いや、俺の部屋だけ」

「わかりました」


 首を傾げながらもヤィナちゃんは帳簿と書類を書き上げていく。

 その時だった。カラカラン、とドアのベルが鳴る。職業病というのは怖いもので、俺は音の鳴る方へと振り返った。後悔なんてすることの少ない人生だったが、この時ばかりは自分の聴力を恨んだ。

 入ってきたのは、見知った剣士と槍使いと治癒術師と魔法使い。見知らぬのは、最後列に立つ筋骨隆々の大男のみ。

 俺なんかよりよほど冷酷そうな顔の、フルアーマー男子。こちらも背の高いスカルスと腕を組んでお似合いだった。


「もう仕事は終わりか?」

「あぁ、今日は早く終わったよ」


 ヘンリーが答える。今日は手並みの確認だけだから、という言外の意思も聞こえた気がした。


「新しい仲間か?」

「あぁ、大盾持ちの前衛だ」


 奇しくもノノと同じ役になる。

 新メンバー補充が早いな、という言葉は押し殺した。

 隠そうともしないスカルスと大男の態度でわかる。スカルスが自分の彼氏をパーティに入れたかったのだ。

 俺たち冒険者には避けるべき数字みたいなものがある。いくつかあるが、今回は恐らく6。悪魔の数字だとも言われるそれを避けるために、俺を追放したのだろう。

 金をくすねておいて文句も言えたものでは無いが、スカルスもそれはそれで酷い。

 いいさ、盾持ちが入ったパーティ同士どっちが上まで行けるか勝負と行こうじゃ無いか。


「兄さん?」

「おぅ、お疲れ。またな」

「うん、また?」


 こんな純真無垢なナルカを巻き込むことになってしまったのは少し心苦しいが、大人の汚さを知って成長してほしい。


「ヘンリー、リンゴは?」

「買ってある」

「そうか、じゃあいい」


 俺とヘンリーしかわからない言葉を交わして、その場では何も言うことなく立ち去ることにした。

 元々目つきの悪そうな大男は別として、終始俺をモンスターでも見るかのような目で睨んでくるスカルスに疑問符を浮かべながらも、そそくさと荷物をまとめて彼女の視界から消え去った。


 荷物の少ない男の荷物整理などすぐに終わったが、いかんせんノノがいつ返してもらえるのか分からない。

 彼女の年齢は知らないが、なんとなく1人にはしたくないと思えてしまうのだ。


 俺はちょっとした荷物を担いで冒険者ギルドへと戻る。

 戻った俺を迎えたのは熱烈なノノのタックルだった。

 まるで化け物猪でもぶつかってきたのかと思うほどの衝撃と、反比例するように小鳥の羽みたいな重さのノノが飛びついてくる。

 そして、すぐに俺の背中に隠れると恨めしそうにナタリアを見ていた。


「何したんだ?」

「身体検査です。女の子用の」

「あー、あれかー」


 俺はいまだ腰に引っ付いているノノの頭を撫でてやった。


「お疲れさん」

「でももう検査は全部終わりましたから大丈夫ですよ」

「それはよかった。で、素材の売り上げは計算してくれるの?それないと俺たちこれから野宿だよ。俺はいいけど」


 親父狩りとかいうのが大通りにはたまに出るらしいが、腐っても冒険者で鍛えてるおっさん狩ろうとする奴はあまり居ないだろう。


「すぐに計算しますから待っていてください。それと、ちゃんと宿は取ってくださいね」


 俺の目を見つめて念を押してくるナタリア。


「俺だって女の子連れて野宿するほど腐ってねぇよ」

「わかってますけども」


 実は酔い潰れたナタリアを宿まで介抱してやったこともあるからナタリアこそ俺の優しさがわかっているはずだ。

 その時は俺も酔っていて自分の宿に帰るのが面倒でそのまま同衾してやったが。少しの役得くらい許してくれ。ちゃんと朝起きてからぶん殴られたから。


「はい、銀貨80枚です。用意出来ましたから早く宿を探しに行ってください」

「了解。じゃあまた来るよ」

「はい、待ってます」


 そうして、特に何事もなく冒険者ギルドを出ることが出来た。


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