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5話 変化と不変


 鬼喰いに一矢報いて逃げ帰ってきた俺たちは、すぐに冒険者ギルドに駆け込んだ。


「受付嬢さん」

「はい、いらっしゃいませ。あら」

「ちょっと報告することが」


 俺がそう言うと、受付嬢は一気に真剣な表情になりメモとペンを取り出す。

 昼間だというのに酒を呑んだくれて騒ぐ者などがいる中、広い冒険者ギルドの建物の中で唯一と言っていいくらいの剣呑な雰囲気。


「東の森で鬼喰い2頭と遭遇しました。ほぼ同時に現れたことから、何かしらの強い関係性から2頭で一緒にいたと見ていいかもしれません」

「あの林でリッパーベアを?おかしいですね。わかりました、上に報告しておきます」

「お願いします。名前はマークルスです。何かあったら呼んでください」

「はい、ありがとうございます」


 俺の言葉に礼をして不在の看板を立てると受付嬢は素早く2階へと上がっていった。

 俺たちの仕事はこれで終わりである。

 冒険者ランク4と2のパーティにはリッパーベア、もとい鬼喰い2頭を相手取って華麗に立ち回る術はない。それこそお手玉のように遊ばれてしまう。

 それに、とりあえず当分の間の目標は今を生きる資金を集めることだ。ちゃっかりと、いやしっかりと集めてきた鬼喰いの爪を売ろうじゃないか。

 しかし、目の前にいた受付嬢がいなくなってしまった。お昼時なのもあって配置数が少ないのだが、見回せば見知った受付嬢しか残っていない。

 まだ正直顔を合わせたくなかった。ヘンリーのパーティとは朝にでも会っただろうから事情はもう知っているかもしれないが、なんとなく気まずいのだ。

 しかしそんなことも言ってられないと俺は数年来の受付嬢へと歩み寄る。すると、彼女は俺に気づいたのかこちらを見てパッと顔を綻ばせると手を振ってきた。


「おはよう、ナタリア」

「おはようございます、マークルスさん」


 いつもニコニコしている彼女だが、今日も変わらず周りに笑顔を振りまいている。


「もうお昼ですよ。1人になったからといって何をしていてもいいわけではありませんよ?」


 親が子を嗜めるように言うナタリア。


「俺ももう大人だ。大丈夫だよ」

「ほんとに?まぁ、任せます。それで、今日は?」

「素材を売りに」

「素材を……もう外に出てたんですか?」

「さっきだけど、東の森に」

「そっか、じゃあ素材をもらっていいですか?」

「OK」


 少しムッとした表情をしたナタリアはすぐに仕事の顔になると素材を出せと要求してきた。

 そもそも勝手に街の外に出てはいけないとかそういうわけでもないからいいだろう、と思いながらも口には出さずに鬼喰いから奪ってきた10本の爪を渡す。

 すると彼女は今度は驚きの表情を見せた。


「リッパーベアの爪?10本も。奪えたんですか?」

「今回は直接触れる機会があって」

「なるほど、リスト見ますからちょっと待ってくださいね」


 そう言ってナタリアはいくつかの紙の束を取り出してペラペラと捲り始める。


「報告はしました?」

「さっき」

「私以外の人に?」

「気まずかったんだよ」

「私は真っ先に頼って欲しかったなと思っています」

「すいませんでした」


 確かにもう何年も一緒にやってきた人だ。パーティを追放されたからといって担当を勝手に変えては心配もされるというものだ。


「でも、1人でリッパーベアに挑んだんですか?」

「いや、この子と、あれ?」


 てっきり付いて来ているのだろうと思っていた少女は俺の近くにはおらず、思わず周りを見回す。ノノは1人ぽつんとテーブルに座っていた。

 どこか物憂げな雰囲気を纏い、何か思考をしているようにも見える。歪んだ盾もその雰囲気を加速させる材料になっていた。

 だが、ずっと付いてきていた人が唐突にいなくなるのはとても心配になるからやめてほしい。

 俺はノノの所まで歩いていった。


「ノノ、紹介したい人がいるんだ。いや、受付嬢だから知ってるかもしれないが」

「なんで?」

「いや、あの人には何年も世話になってるし、新しいパーティが出来たって報告しておこうかなって」

「違う」

「あ、違うの?」

「私、変な子。いらないでしょ?」


 俺の方を向いたノノの表情はいつもとほとんど変わらないが、悲しみと悔しさが混ざっているような気がした。


「変な子なものか。すごい力持ってるじゃねえか」


 実際、この子はヘンリーのパーティにいた頃の俺かそれ以上の実力は持っている。俺のパーティに入れるのは勿体無いほどには。

 俺は嫌な方向には思い付きがいいから、恐らくこの娘はあの怪力を気味悪がられたりしたんだろう。

 名前は聞いてないが何かしらのスキルに、要塞騎士というこれも聞いたことのない技能適性。相当何かに特化した存在にされてしまったのだ。神によって。

 こういうのを神のイタズラと呼んだりする。

 イタズラされた方は人生丸ごとダメにする可能性もあるからたまったものではない。


「みんな、いらないって」


 そう言いながらノノはひとすじの涙を流す。

 しんみりとしたテンションは得意じゃないが、これからは仲間になる人だ。正直に伝えておこう。


「ノノ、聞いてくれ」


 俺が横に座るとノノは小さく頷いた。


「俺はコカトリスを狩るためにこのパーティを作った。あいつの討伐難易度は7。今の俺とノノのランクを足しても足りない相手だ。強い味方がいればいるほど良い。戦力面から考えても俺はノノを手放さない。それに、俺は君といると楽しいしパーティに強い人がいれば報酬山分けでたくさんもらえるし、パーティになってすぐに追放するほど薄情じゃない。せめて3年は付き合わないと人柄わからないしな」


 畳みかけるように喋ってしまったが、とにかく追放された奴が今度は自分が追放するなんてしないってことなんだが分かってもらえただろうか。

 ノノを見ると追いつけなかったようで机に両手をついてポカンとしていた。

 無表情娘の惚け顔は可愛らしい。それが分かっただけで儲けものだ。


「別に変な子じゃないし、まだ一緒に冒険しようぜってことよ。これからもよろしく」


 俺は握手のために手を差し出す。ノノはそれを両手で取った。


「よっしゃ、じゃあまずはナタリアに紹介だ」


 その小さい手を引きまだ小さな体を持ち上げると2人で席を立った。


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