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3話 喰らう 


 ノノンセカゼルちゃん、もといノノと俺は正式にパーティとなるために書類を書いて冒険者ギルドへと提出を済ませた。


「パーティ結成おめでとうございます」


 受付嬢さんのその言葉で周りからの視線が少し減る。要塞騎士を狙っていた人たちは諦めたようだ。


「今日はどうしますか?」

「難易度1とか2の近場のやつあります?」

「はい、定期魔物掃除の依頼であれば」

「とりあえずはそれで」


 難易度は低くて出来高制になるが、逆を返せば出来が良ければなんとかなる依頼。街近くの街道や森やはたけなんかに出てくる低級の魔物を討伐すればいい。


「よしノノ、腕試しだ」


 どうしても俺より背が低く無口で無表情なノノを無意識のうちに引っ張っていってしまう癖がある。

 しかしそれでもノノは頷いて付いてくるのだから気にしていないのかもしれないが。


 もう太陽は真上まで来ているが、目的地は近場だからそう急ぐこともない。

 ゆっくりと2人で街を歩きながら街の外を目指す。


「ノノ、その盾重くない?」

「大丈夫」


 その背丈ほどもある金属製であろう大盾を両手で持ってノノは首を振った。

 技能適性のおかげだろうか。適性やスキルといったものは得てして人間の範疇を超える。神から授けられたものだとは言うが、これで困る人もいるのだから考えものだ。

 重くないと言うなら俺がわざわざ持ってやる必要もないか、と思いながら通りに面した串焼き屋で鶏串を2本買った。


「はい、あげる」


 自分の分を食べながらノノに串を渡す。しかし、それは一向に受け取られない。何事かとノノの方を向くと両手で盾を持って困っていた。


「あーごめん、はい、あーん」

「あーんむ」


 親鳥に餌を与えられる雛鳥よろしく、俺の差し出した鶏串を食べるノノ。食べているのが鶏なのに鳥に例えるとはこれ如何に。

 可愛いから何でも良いが。


 そんなこんなでのんびりと街の外に出た俺たちは、街道沿いに歩き始めた。


「歩くのは好きか?」


 ノノは首を縦に振る。


「山登りは?」


 ノノは首を横に振った。

 山登りは嫌いか。コカトリスが出てくるのは山の上なんだが、1回くらいなら付いてきてくれるかな。そもそもパーティ募集していたわけを話すのを忘れていた。いつか話せば良いだろう。


「出ないなぁ」


 魔王だか邪王だか覇王だか言う存在がいるせいでこの世界はモンスターで溢れていると言われているわけだが、人のたくさんいる街の近くにはモンスターたちもあまり近寄らない。

 それでもはぐれや偵察、迷子といった形で街に近づくモンスターを討伐するのが今回俺たちが受けた定期魔物掃除の依頼だ。


「少し森に入るか」

「うん」


 街近くの森、そう大きくもないから林と呼ぶ人もいるが街道に比べて隠れるところが多くモンスターが潜んでいる可能性が高い。

 さっきの鶏串で宿に泊まるのも怪しい俺にはモンスターと遭遇しないのはそれこそ死活問題なのだ。


「足元ちゃんと見ろよ」

「うん」


 木の根や蔓、動物やモンスター用の罠が仕掛けられていることもある森の中は周りや陰ももちろんのこと足元の警戒も必要になってくる。

 ノノがいるからかいつもより緊張感のある森の中を行くこと少し。俺はノノを止めた。


「足音だ」


 恐らくノノには聞こえていない。それほどに微かな足音。こちらに気づいているわけではないようだが、相手も警戒心が高いのか足音を出来る限り消しているようだった。


「ノノ、ゴブリンだ。戦った経験は?」

「ある」

「よし、ノノは大盾持ちだしな。正面から行くか」


 木漏れ日が辺りを照らし気持ちのいい空気を吹かせる森の中だが、街近くの森はそこまで生い茂っていない。低木も高木も生えてはいるが、ノノの大盾を隠すには心許ない。

 それならいっそのこと飛び出して先行を取ってしまった方が有利だろう。

 それを短い言葉でノノに伝えると、ノノは黙って頷いた。

 ただ、無策に突っ込むくらいならまだしも自分の実力に見合わない敵に喧嘩を売ることはあってはならない。

 冒険者というのは常に博打を打つ者ではなく、いざというときに勇気の出せるもののことを言うのだ。

 俺はいざという時にも逃げ出すが。


「敵を確認する、少し待ってくれ」


 自分の後ろでノノが頷いた雰囲気を感じ取り草木に隠れながら少し移動する。

 ここで頭を、正確には目より上を露出させて敵を確認するのはシーフ初心者のやることだ。

 低木に顔を近づけ、葉と葉の隙間から敵を見る。そうすれば見つからずに相手がゴブリンの集団であると判別できる。

 緑色の体に酷い体臭、小さな角と粗製の棍棒を持つ。人間の子どもくらいの背丈しかなく力も大人の冒険者に比べれば決してあるとは言えない彼ら悪鬼は、緑小鬼とも呼ばれそれでも鬼の一種である。狡猾で、非道で、残酷な性格をした緑の小鬼は1体の力は弱いが数が集まり知恵を集めると厄介であるという観点から弱くとも狩りの対象となる。

 3体の団体行動をするゴブリンにその片鱗を感じながらも俺はノノの元へと下がった。


「やっぱりゴブリンだ。数は3体。止められるか?」


 ノノは音を立てないようにか黙って頷いた。


「3、2、1、ゴー」


 静かにカウントダウンしゴーの合図と共に2人で木陰を飛び出し走り出す。シーフの俺と比べると少しノノの足は遅いが、ゴブリン相手になら十二分だ。

 俺たちの突然の登場に驚いたゴブリンたちは慌てて武器を構えようとする。しかし、俺の足の方が随分と早かったようだ。

 ゴブリンの1体の横を駆け抜けながら短剣を振り抜く。反撃の可能性を考えて数歩距離を取ってから振り返り構えを取ると、俺の攻撃した個体は既に倒れ息も絶え絶え、残る2体もノノという一見俺なんかより数倍脅威に見える大きな的に夢中になっていた。

 ゴブリンの攻撃する音がノノの大盾に反響して響き、反動で腕を痺れさせたゴブリンは1度棍棒を下に置き顔を顰めさせた。


 やはり俺はパーティで動いた方が効率がいい。

 物心が付くか付かないかの頃からヘンリーと切磋琢磨してきたから1人で何かをするという経験がなかったというのもあるが、シーフの適性と、何故だか影の薄いというかそこにいても気付かれない体質から堂々と暗殺という不思議なことが出来るのだ。


 キラリと太陽の光を反射する銀の大盾に惹かれるゴブリンたちを、俺はゆっくりと屠っていく。

 腐っても、追放されても冒険者ランクは4なのだ。討伐難易度1の魔物に遅れは取らない。

 ゴブリンを倒し終え、ノノの方を向くと彼女は盾から顔だけを出してーー。


「終わり?」


 そう聞いてきた。


「終わり。助かった」


 俺がそう言うとノノは小さく頷く。

 足元で体を霧散させたゴブリンたちの唯一残る小さな魔石を回収して付近に耳をすます。

 比較的早急に排除できたからか増援はいなさそうである。


「よし、大丈夫」

「うん」


 安心してくれているのか、表情からは全くわからない。それでも、さっきまでキョロキョロしていたノノは俺が拾った魔石を見ていた。


「あぁ、俺がまとめて持っておいて後で分配しようかなと」

「ん」


 ノノは頷いた。

 まぁ、俺はこの分配を任されていたのにくすねて娼館に使って追放されたわけだが。さすがにもうやらないさ、たぶん。


「疲れてないか?正直に言ってくれよ?」

「大丈夫」


 ノノは言葉少なではあるが、確信を持って言う時は目の奥に芯が出来る気がする。


「じゃあ、もう少し獲物を探すか」


 そうして歩き出そうとした俺たち、というより俺はまたノノを止めて木陰に連れ込んだ。

 パキリ、パキリという何かを踏みながら進むような音が微かに聞こえた。

 ノノの大盾も地面に下ろさせ様子を伺う。

 次第に足音が聞こえるようになりパキパキがバキバキという派手な音に変わった頃、後ろから脇腹をつつかれた。


「分かってる。くすぐったいからやめるんだ」


 ノノを嗜めつつ十中八九モンスターであろうそれの姿が見えるまで待つ。

 しかし俺はそれが見えると同時に顔を引っ込めると、ノノを抱き寄せた。

 それをクマだと言ってしまえば間違ってはいないだろう。四足歩行する群青色の巨大熊。ざっと俺の2倍の体長を持ち、普通の熊よりも鋭く太い爪や牙がある。それを使い獲物を仕留め喰らうのだ。

 その獲物とは人間と、鬼。

 群青巨大熊は、ゴブリンのはじめとした鬼を喰らう。そこから付いた2つ名が"鬼喰い"。

 討伐難易度で言えば、5.5くらいか。


 逃げなければいけない。こういう時のために逃げ足を早くなっておいたんだ。

 どう逃げるのが正解か、前か後ろかはたまたやり過ごすか。

 無い頭で最適解を模索する俺の脇腹をノノがつついた。


「待て、後でだ」


 そう言ってノノを止める。しかし、ノノの動きは止まらず続けて太ももをバシバシと叩いてきた。


「どうした」


 一旦思考を一時停止させて後ろを振り返る。そうして、俺はようやく理解した。

 後ろからも鬼喰いが迫ってきていたのだ。



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