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17話 赤色の花


 意外にも俺の求婚という名の冗談に乗ってくれたナタリア。

 それにさらに答えるべく俺はナタリアの手を取った。


「挙式はどこで挙げようか?やっぱり最前線ギルド?」

「えっと、私はあなたと一緒ならどこでも」

「そうか。じゃあ君を最前線に連れて行かないとな」

「はい」


 精一杯のイケメンフェイスで決める。照る日の光も相まってなかなか良いんじゃないだろうか。メレルちゃんにもこんな告白がしてみたかった。


「と、まぁ茶番はここまでにして」

「え?」


 ナタリアは愛する我が子を失ったかのような顔で目を丸くする。

 しょうがないだろう、やめ時が見つからなかったんだから。


「とりあえず、俺たちは金稼ぎに行ってくるがナタリアはどうしてるんだ?」

「……私は鉱山都市に臨時でギルドの支部を作ってきます」


 少し膨れた様子で言うナタリア。そこまで面倒な作業なのだろうか。


「夜は?」

「ここに部屋を用意してもらっているのでそちらに」

「一緒じゃないの?」


 今度はノノが尋ねる。ナタリアは頷いた。


「はい、受付嬢は基本的に一般のお客さんと同じグレードの部屋に泊まることになっています」

「そう……」


 黄昏たように外を見始めるノノ。それに心打たれたのかナタリアはまごついた。


「あ、いや、ノノさんが嫌いとかでは決してないんですよ。経費削減というか、分かってくださーい」


 もうギルドの職員としてはどうにもならないのだろう。であれば俺が助け舟を出してやる他ない。


「ナタリア、禁止じゃないんだろ?」

「えぇ、はい。自腹とか経費が増えない方法であれば」

「じゃあ、一緒の部屋に泊まればいい」

「え」

「ベッドもあんなデカイしノノもなんだかんだ喜ぶ」

「いいんですか!?」


 今度は目をキラキラさせて俺に飛び込んできた。

 そりゃこんな豪華な部屋見せられれば泊まりたくもなるものだ。

 さっきまでは脳みそが理解を拒絶していたが、よく見れば部屋に絵画が飾ってあったりもする。高級そうな壺や皿まで見える。

 ここは俺たちみたいな貧乏冒険者が制度を乱用して泊まるような場所ではない。鉱山採掘隊を雇う貴族とかが現場を見るために泊まるような場所だ。

 1人でも知人がいた方が安心できる。

 というのは建前で、両手に花がしたかっただけだ。


「では一緒に泊まる手続きをしてきますね!もう冗談では許しませんからね!」


 そう叫びながらナタリアは部屋を出ていった。


「さて、俺たちは洞窟探検に行きますか。」

「ん」


 ノノを連れ立って宿を出る。

 俺たちがスイートルームに入っているだけで、下の階はどこも客と従業員が歩き回りとても繁盛しているようだった。

 さらに宿を出れば鉱員や冒険者、それを狙った商人たちで賑わう。

 スタンピードが確定する前は特に気にもせず金稼ぎのことだけを考えていたから気付かなかったが、この町も王都に負けないくらい活気に満ちていた。


 そしてその日の戦果はといえば、コークスジャイアントセンチピードの幼体が数体とワームが幾らかと屑鉄が一掴み分ほど。

 相変わらずゴブリンキングを倒したパーティとは思えないほど薄給でその日の仕事を終わらせた。

 何日も遠征したり迷宮に入る冒険者は珍しくないが、せっかくスイートルームを使えるのだし満喫しておきたい。

 そんな浮ついた気持ちで洞窟を後にして町へと戻ると行きにはなかった立派な建物が建っていた。

 もしかしてこの世界には俺の知らない建築魔法とかがあったのかもしれない。木を骨組みにして土を固められて出来ている。ノックをしても崩れたりしてこないことから十分に乾いているのも分かる。

 相変わらずどこかと同じで開け放たれたギルドの大扉からは中が見え、既に多くの冒険者が利用し始めているようだ。

 大荷物で王都まで帰るよりは色々と安全だし、スタンピードのためにここに泊まりにきている冒険者もいるだろう。

 併設ではないが、横に建つ酒場が冒険者たちに酒や料理を振舞ってくれている。恐らくそのための立地だとは思うが。


 俺とノノは2人して若干気圧されながらも中に入ると受付に座るナタリアから手を振られた。

 素直にそちらへと向かう。


「おかえりなさい、あなた」

「ただいま、おじさんにそれは効くからやめてくれ」

「まぁいいじゃないですか」


 とても上機嫌なナタリアは笑って俺の肩を小突いた。それでも仕事の手は休めない。

 いくつかの書類を処理しながらナタリアは可愛らしく首を傾げた。


「お2人とも、今日はどうでした?」

「ちまちま狩っただけだ。ほとんどノノだけで、新調した弓も使ってない」


 相変わらず血濡れた拳をぶら下げるノノの手をナタリアが拭いている間にモンスターの素材を提出していく。端金でしかないから受け取らず全額パーティの金庫に預金しておくが。


 そしてモンスターの素材報酬を計算してもらった俺たちだったが、まだ幾つか手続きがあるとかでギルドで待つことになった。

 適当なテーブルに着き飲み物を注文する。届いたジュースをちまちま飲みながらナタリアの仕事が終わるのを待った。


 どれくらい待っただろうか。仕事を始めるのが遅かったのもあり日の入り直前まで仕事をして帰って来てからとっくに日は落ちている。

 長い時間探索をするタイプの冒険者も既に帰ってきて酒を飲んでいた。

 そんな中、1人の女性がふらふらと歩いてくると俺たちのテーブルに着いた。


「ちょっとあんた、そんななりして酒も飲めないわけ?」

「いや、飲めないわけじゃ無いが」

「じゃあ飲みなさいよ。はいこれ」


 彼女は手に持っていたビールのジョッキを俺に押し付ける。相当酔っているのか既にその中には何も入っていなかったが気付いていないようだった。

 なにやら周りから視線を感じる。目だけでそちらを見れば皆こちらを見ないようにしつつも気にはしているようだった。


「大丈夫ですか、もう飲むのを控えたらどうですか?」


 彼女の背中をさすりもう一方の手にも待っていたジョッキを取り上げる。

 これ以上酒を追加することは防げたが一瞬で酔いを覚ませるわけではなく目の前のこの女性は絶賛現在悪酔い中だ。


「ねぇ、私って未熟者なの?」

「大丈夫、努力家です」


 真っ赤な長い髪に赤い瞳、そこそこの装備を着ていることから俺と同等かそれ以上の冒険者ランクの人だろう。

 そんな人が俺の目の前でべろべろに酔っているのはそれはそれで良いかもしれないが、酔っ払いというのはえてして面倒くさいのだ。


「ねぇ、私どうすればいいの?」

「どうしたいんですか?」

「冒険者でいたい」

「じゃあやってみればいいじゃないですか」

「でもぉ〜、追放された〜」

「大丈夫、なんとかなりますって。俺もこの間追放されました」

「ん〜?そっか〜、おそろい〜、えへへ〜」


 死ぬほど悲しいお揃いだがこの人はそれでいいのだろうか。


「おそろい」


 ノノもつぶやき返す。

 だから君たちはそれでいいのか。


「ねぇ〜」

「なんですか?」

「お金な〜い」

「なるほど」


 少し嫌な予感がして来た。


「宿な〜い。泊めて〜」


 そう言うと名も知らぬ彼女は俺に覆い被さるように抱きついてきた。

 さらには誰かに肩を叩かれ振り返る。そこには隣の酒場の店主が立っており呆れた顔で大量に飲み干されたビールのジョッキが放置された机を指差していた。


「俺が?」

「じゃあ誰が払うんだ?」

「……ギルドじゃ無理だよなぁ」


 パーティとしてギルドに預けたお金は追放されると引き出せなくなってしまう。金がないと言っていたから所持金が無いのだろう。


「俺しかいないな」

「今一旦払ってその女に請求してくれないか?」

「そうだよな、おっちゃん被害者だもんな」


 俺も被害者だが、冒険者のケツは冒険者が拭かないと。

 そして、金を払った俺はナタリアと宿に拝み倒していつの間にか眠りこける女性を宿に入れてやった。

 キングサイズのベッド2つが功を奏してみんなで寝ることが出来てしまったが、両手に花どころか抱えるほどの花を手に入れてしまった。

 とりあえず、その女性には俺の所持金が尽きかけるほどの酒代分明日以降体で払ってもらうことを決意した。


オオムカデ祭りの前に新キャラ登場ですかね?

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