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14話 予想はしていたさ、外れただけ


「と、いうわけで俺の油断でムカデの大侵攻が始まります」

「簡単に言わないでください!」


 ナタリアは、また早めに帰ってきては大変なことを淡々と説明する俺の腕を掴んで振る。

 俺が受付だったら殴り飛ばしたいのでこれは妥当な反応だろう。

 ナタリアの大声もありギルドの中にコークスジャイアントセンチピードのスタンピードの噂が広まっていく。

 酒を飲んでいた者、リュートを弾いていた者、飯を食っていた者。

 それを聞いて皆帰っていく、かと思いきや揃って武器の確認や手入れの話をし始めた。

 これが冒険者だ。モンスターを狩り金を稼ぎ肉を喰らう。菜食主義者もいるが、そういうことではない。


「皆さんがやる気でよかった」

「あなたも来るんですよ?」

「え、任せれるでしょ?」


 俺とノノが居ないくらいではオオムカデの討伐は失敗しない。いっそのことこの街を出て近くの街で細々とやろうかとか思っていたのだが、どうやらそうは行かないらしい。


「発見者がいないでどうするんですか。それに、あなたならあれくらい倒せるでしょう?」

「今は無理かな」


 曖昧な笑みを浮かべた俺にナタリアは訝しげな表情をした。

 こればかりはやる気の問題ではない。いつもやる気は無いからそもそも問題ではないが、金とアイテムが圧倒的に足りないのだ。

 俺のスタイルはバカみたいな種類と数のアイテムで敵を翻弄して味方に頼むかじわじわと倒していくスタイルだ。

 今では何もかも足りない。


「何が起こるか分からないのがスタンピードですから、動ける人には出来る限り来てもらいます」

「はい」


 毅然とした態度を取るナタリアに俺は肯定で返す。

 俺も乱戦に参加するとなると、色々と準備が必要になる。腹を括るしか無いようだ。娼館に行くのはまた今度になるだろう。


「では、人員を集めましょうか。マークルスさんはギルド長室までお願いします」

「そうなるよね」


 観念して俺はノノを引き連れて2度目のギルド2階に足を踏み入れた。



「と、そんなこんなでスタンピードです」

「そうか。……分かった。まずはこの問題を終わらせよう。それと、少し話がある」

「はい」


 相変わらず掃除の行き届いた会議室のふかふかのソファに座りギルド長に経緯を語る。

 もうここまで来てしまうと俺には頷くことしかできなかった。

 ギルド長は立ち上がり棚から書類を持ってくる。それをいくつか眺めるとまたゆっくりと目の前に座った。


「マークルス、ランクは4。最近パーティを抜けているな」

「あっ、はい」

「抜けた理由は新人育成のため、合っているか?」

「えっ、はい」


 脱退事由は大抵元のパーティが申し出る。ヘンリーが気を利かせてくれたのだろう。

 それにしても新人育成とは。彼には俺がすぐに人を捕まえられると分かっていたかのようだ。

 ギルド長は思考する俺を冷酷そうな表情で見てから続ける。


「君はノノンセカゼルだな」

「……はい」


 ノノは頷いた。ノノにも何かあるのだろうか。


「ノノンセカゼル、ランク2。この街に来たのは最近のようだな」

「……。」

「度重なるパーティ脱退のため信用性低下と判断し降格とする。そう書いてある。メンバーを殴った、報酬金の横領、傷害事故」

「……。」


 ノノは何も返さない。


「マークルス、彼女はそういった人物か?」

「いいえ、そんなことありませんよ。可愛らしい女の子です」


 そう言うとギルド長は少し口角を上げ、ノノは信じられないといった様子で俺を見た。


「マークルス、新人研修ご苦労だった」

「は、はぁ」

「これよりミスリライト冒険者ギルド長の名において、ノノンセカゼルを元のランク6に昇格する」

「え」


 ギルド長の放った言葉に俺は素っ頓狂な声を出してしまった。

 今日のノノを見ていて、あのバーサーク状態といつものノノのギャップは半端ではないと思ったし、なんだかんだ俺と同じ追放された身なのかもしれないとは薄々勘づいていたが、まさかランク6とは思わなかった。だいぶ格上だ。


「マークルス、ノノンセカゼルを今後も指導してやれ」

「……はい」


 これは、ギルド長からのお墨付きパーティになるということだ。


「そんなに俺たちの事が気になりますか?」

「ギルド長として、冒険者全員の成長を期待しているとも」

「そうですか」

「マークルス、報酬を受け取れ。受付のナタリアに用意させてある」

「わかりました。失礼します」


 人間諦めも肝心という言葉が好きだったが、嫌いになりそうだ。

 礼をして会議室を出る。

 下へ向かおうとする俺の手を、ノノが掴んできた。


「……いいの?」

「何がだ?」

「一緒にいて」

「まだコカトリス倒してないだろ」

「うん……それまで?」


 ノノが上目遣いでこちらを見る。


「その目はやめてくれ。いいよ、いつまでも一緒にいればいい。モンスターが2人をわかつまでだ。いいな?」

「うん!」


 そして、親子よろしく上機嫌になったノノと手を繋いで下に降りることになった。

 その姿にいの一番に驚いたのはナタリアである。

 俺たちが降りてくるや否や目をまん丸にしてこちらを見たかと思うと、まるで雷神が迫ってきたのかというほどのオーラでこちらに歩いてきた。


「今まで隠してたんですか?」

「え?」

「ノノさんはマークルスさんの隠し子だったんですね?」


 ガヤガヤした冒険者ギルドの中でも声を届かせるためかナタリアの大きめの声によってギルド内が一瞬騒然となる。

 その視線は全て俺には突き刺さった。

 両手に花でも棘が突き刺さっているんじゃ手放したくなってしまう。


「隠し子じゃない。これまで1度として当たったことはない」

「当たったことはない?」

「あ、やべ」

「メレルさんのところ以外は行かないって約束でしたよね?」


 さらに大きな声になってナタリアが迫ってくる。俺にはもうこの状況をどうにかすることはできそうになかった。


「もう行ってないから。それにメレルちゃんにコカトリス倒したら付き合ってあげるって言われたんだ」


 そう言うと、ナタリアは今度は石像のように固まった。


「え、まさかあの子が抜け駆け?いやでもずっと娼婦でいいって言ってたし。そっか、マークルスさんがパーティ抜けたからその隙に。心の隙間を狙って。どうしよう、いっそ私が冒険者になって隣にいようかな。でもそれだとお給料で養ってあげられないし、せめて老後までのお金を貯めてから」


 そして、何かをぶつぶつと唱え始める。

 呪いか何かの類に思える。

 俺はその呪いが完成する前にノノを連れてその場を後にした。


 もう上機嫌で俺の手を離さないノノと半強制的に手を繋ぎながら大通りを歩く。

 そろそろ仕事終わりが来るからか、どこものんびりとした雰囲気だ。


「ノノ、盾どうする?」

「いらない」

「そっかぁ」


 これもまだ予想出来ていた。

 彼女のスタイルは防御じゃない。バーサークアタッカーだ。

 今持っているシールドは腕につけるだけだからいいとして、拳を守るためにもナックルダスターが必要なのではないだろうか。

 盾をキャンセルして、ナックル頼んで、俺も弓とか用意しておきたい。モンスター用のアイテムも少し補充したいし、新作も見に行きたい。

 色々やるには金も時間も足りないが、なんだかヘンリーと2人で上都してきた時を思い出す。

 ムカデ狩り祭りに駆り出されるギルドと冒険者からしたらいい迷惑かもしれないが。


「ノノ、パフェ食べる?」

「食べる」


 とりあえず俺はノノを連れて小洒落た喫茶店に入ることにした。


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