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12話 お呼ばれと事情聴取……と、洞窟開拓


 冒険者ギルドの関係者以外立ち入り禁止の2階部分。

 ヘンリーパーティにいる時でさえ入ったことはなかったのに、今日俺はノノを連れて入っていた。

 第2会議室とされる部屋に入れられ座らされる。小綺麗で埃もなさそうな部屋にはいい日差しが入り、見たことあるようなないようなギルドの重鎮たちが圧迫面接のような面持ちで座っていた。

 アイスブレイクに全員の年収を聞いてやりたい。


「ナタリア、この人たちは?」

「支部長です」

「なんの?」

「冒険者ギルドのこの街のです!」


 小声で叫ぶナタリア。ランク4の初心者がお代官様の顔なんぞ知るものか。こちとら下請けだぞ。


「支部長こんなに多いの?」

「支部長と隣町の支部長と財務管理長と戦術管理長と緊急対策本部長です!」

「全員知らない」

「今覚えてください。名札付けてますから」


 そう言われて重鎮たちの顔色を伺う。

 すると、それと同時にギルド長が名刺を渡してきた。


「王都ミスリライト冒険者ギルドギルド長のウルガットだ。よろしく」

「よろしくお願いします」


 こういう時は下手に出ておけばなんとかなる。


「では、リッパーベアとゴブリンキングの件について、話してもらえるかね?

「はい」


 それから小一時間かけて俺の知っている範囲のリッパーベアとゴブリンキングの情報を説明した。

 だが、俺とノノのことに関してはほとんど喋っていない。ノノがスカウトされても困るし、ないだろうが俺がスカウトされても力になれるとは思えないからだ。


「そうか、この街に近いな」

「調査するべきか?」

「リッパーベアの討伐と森と鉱山の調査は必要でしょうね。経費の計算を命じておきますか?」

「そうだな、試算しておいてくれ」

「わかりました」


 なにやら強面とメガネが数人で悩んでいる。こういう時木っ端冒険者は報告だけで済むからありがたい。


「ところで、君たちのランクは4と2だと聞いた。リッパーベアとゴブリンキングから逃げおおせた、あまつさえ倒せてしまった訳を聞いても?」


 やっぱり済まなかったようだ。

 冒険者同士は技能だとかスキル持ちがどうかに関しては暗黙の了解で聞かないようになっている。しかし、ギルドは時に聞いてくることがある。その必要がある時だけと説明も受けているし答えなくても良いと言われているが、今日は答えるが吉か答えぬが吉か。


「心配するな、嫌なら答えなくていい。今回は偶然か、それくらいの実力があったのだと思っておこう」

「じゃあ、それで」


 俺は冷や汗をかきながら頷いた。

 このやり取りは失敗だ。どちらを選んでも俺が何かを隠していたことになる。思考して黙るべきではなかったのだ。


「で、この後は?」

「また鉱山に行くつもりです」

「ゴブリンか?」

「いえ、金稼ぎに」


 ギルド長は残党を狩りに行くのかを問うていたのだろうが、そこは秘匿していない。新人たちに聞いた限りでは追手は倒しきったとのことだったはずだ。

 ゴブリンキング関係の報酬で懐は乾いていない。

 あの怪力で戦えるノノに大盾をまた持たせる必要があるのかは分からないが、鉱石を拾ってノノの盾を作ってやらなければいけない。そうそう困らない金額を持っているとはいえお金稼ぎもしておきたい。


「そうか、何か起きればまた報告をしてくれ」

「はい」

「お疲れ様です、マークルスさん。もう大丈夫ですよ」

「あぁ、後は頼んだ」

「はい、行ってらっしゃい」



 今度こそ鉱石を見つけるぞ、と俺たちは王都を後にした。

 昨日と変わらない道を通って鉱山都市へと入る。

 往復で時間がかかることもあり鉱山都市の宿に泊まることも考えたが鉱山都市の宿は相場が高く歩いて通った方がいいという結論に至った。


「それにしても、大事になってたな」

「うん」

「街の横の森だから分からなくもないが、リッパーベアくらいならちょっと強い奴がいれば倒せるだろうに」

「うん」


 昨日は借り忘れたツルハシを持って適当に洞窟へと向かう。

 浅いとダメ、深けりゃいいというものでもないが、深いからといってすぐに強い魔物がうじゃうじゃ出てくるとかそういったことはない。

 下に行けば行くほど日の光が届きにくくなり時間の管理が難しくなり何が出てくるのか調査が進んでいないというだけ。


「どこまで?」

「適当に8階で」

「はいよ」


 昇降機の担当職員に声をかけて昇降機を動かしてもらう。朝早いとここに何人もまとめて乗って下に向かったりすることもあるが、朝一ではない今、俺たちと一緒に昇降機に乗ってくる人はいなかった。

 冒険者は意外と出会いがない。俺にはメレルちゃんがいるからいいが、普通ならギルドの酒場くらいでしか交流はない。

 冒険者は冒険が好きな奴がやる職業で、出会いとかを考えたらやっていけなくなるのかもしれない。


「ノノ、小さい頃の夢とかなんだった?」

「っ……ない」

「そっか、俺も無かったよ」


 親友のヘンリーについて王都に来ただけで特にやりたいこともなく金を稼ぐためにとりあえず出来ることをした。

 手先が器用だったからなんでも一通りこなせたが、冒険者以外はほとんど何も続いていない。娼館通いくらいだ。

 ドラゴンを倒す冒険者にはもちろん憧れるが、それを自分が出来るようになるかと聞かれると今から本気出して引退前に出来るかどうかくらいだろう。

 だが、今は大きな目標がある。勢いで建ててしまった大きな壁だが好きな人の手前諦めるわけにはいかない。

 コカトリスの討伐までは頑張るさ。


 ガラガラとうるさい鎖がついに止まり地下8階層に着く。穴がたくさんあるため厳密な階層分けはないが、8階ともなると日の光は届きにくくなる。昨日の倍くらい深いところで今日は鉱石を探し出す。

 それに加えて、今日は俺がギリギリ入れるくらいの小さな穴を選択した。

 冷静に考えれば、俺が肩車で5人は入れそうな大きな穴に入っても探索済みに決まっている。

 そのおかげで新人パーティを助けられたと考えれば昨日のことは良いが、金稼ぎを優先するなら断然未介入の場所の方が確率が高いだろう。


「ここ進んでみよう」

「ん」


 ノノを連れて洞窟に入っていく。ツルハシと松明を両手に持ってしまえば短剣は握れないが、こんな狭い洞窟で敵に出てこられても結局まっすぐ後ろに逃げるくらいしか出来ない。

 ゴツゴツとして歩きにくい地面を進んでいく。あまり人が入っていない証拠ではあるが、その分何があるか分からない。

 枝分かれすることのない洞窟を警戒しながら進んでいくと、足元がピチャピチャと音を立て始めた。

 洞窟としては珍しくない。綺麗な湧水であれば水分補給が出来るし、地下水の池があれば洞窟のモンスターを待って奇襲が出来るかもしれない。


「ノノ、しーっ」

「ん」


 俺は人差し指を口に当てて足音を抑えると松明を振り消した。

 真っ暗になる洞窟内。その中でもほんのりと発光する自分のポーチからヤコウタケを取り出した。

 暗所で光る謎のキノコ、ヤコウタケ。カビ臭く食用にはしにくいため今みたいな場面か飢餓に陥りそうな冒険者くらいにしか使われない。

 ほんのりと明るくなった前方に耳を澄まして進んでいく。

 足が水を叩く音はどうしても完全に消すことはできないし、ヤコウタケの光もいつも洞窟に住んでいるようなモンスターには十分に明るいが近づくことくらいは出来るだろう。

 そして、さらに進むと少しひらけた場所に繋がっていた。その入り口から中を覗く。

 ゴブリンが松明を焚いているようなこともないためヤコウタケの光だけでは全体を見回すことはできなかったが、何かが水を飲んでいるような音だけ聞こえてきた。

 やはり池のようなものがあるかもしれない。

 そう思い、ノノの手を取り数歩その空間に足を踏み入れるとヤコウタケの光の届く端の方でカサカサとワームが逃げていった。

 さらに2人で歩いていく。

 その途中、ノノが鼻を鳴らした。


「どうした?」

「ううん」


 俺が小声で聞くとノノは首を横に振る。しかし、俺も注意深く息を吸い込みそれに気付いた。

 空気中に含まれる水。湯気である。鼻に入る空気が少し湿っぽい。

 そこで俺は1つの可能性に気づきポーチにヤコウタケを仕舞い込んだ。

 後ろで首を傾げるノノの気配が分かる。

 説明するよりも見たほうが早い。俺は再度取り出した松明に火を付けた。

 それによって浮かび上がるは湯気をたゆたわせる地下水の池。

 さらに近づけば確信を持って分かる硫黄の匂い。手を入れてみても熱すぎず、体を全部入れてしまっても大丈夫だろうことは分かる。

 こんなところで出会うとは思ってもみなかった。


 よし、次回は温泉回だ。



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