ラウンド8
休日明けの月曜日。
定期試験まで残り三日と迫る中、湊との勉強会は続いていた。
湊の教え方が上手いのもあって、数日前は解けなかった問題がすらすら解けるようになっている。どうにか赤点は回避できそうだ。
「今日はここまでにしよう」
「あー、疲れた」
椅子にもたれ、背伸びをする。こんなに勉強したのはいつ以来だろう? しかも湊となんて想像もしていなかった。
「この前はすまないな」
「何が?」
「悩みなど聞いて」
「ああ、別に気にしてねえ」
「そうか。では私は用事がある。先に帰ってくれ」
湊はそう言って図書室を出て行ってしまう。少しは気を許したと思ったが、そうでもないらしい。相変わらず可愛げがない。
まあ、元より湊は真面目で校則さえ守っていれば何も言わない奴だった。少しの校則違反でも口うるさいが。
あくびを噛み殺しながら図書室を出ると、凛にすれ違った。
「やあやあ伊織、風紀姫との勉強会は順調かい?」
「おかげさまでな」
「にしし、なら良かった」
「楽しそうだな」
「まあねー。そういえば、さっき風紀姫が先輩に呼び出されてたよ?」
湊が先輩に? あいつ先に帰るって言ったくせに。
どうでもいいか。最近一緒に帰るようになっただけで、あいつとは犬猿の仲のままだ。俺には関係ない。
「なーんかやばそうな雰囲気だったけど、大丈夫かね? 校舎裏の方に行ったけど」
「あっそ」
凛に手を振り、その場を後にする。
だが、胸がざわついていた。口では関係ないと言いつつも、湊のことが気になる。気づいた時には階段を足早に降り、校舎裏に向かっていた。
様子を確認するだけだ。湊は風紀委員という立場上、あまり生徒から快く思われていない節がある。念のため、あくまでも念のためだ。
校舎裏に出ると、数人の笑い声が聞こえた。湊の声でなはい。
声のする方に向かうと、湊を囲む先輩たちの姿があった。
「どうした風紀委員さんよ!」
「本当、いつもの強気はどこへいったのかな?」
男一人に女二人の三年生が湊に言い寄っている。よく見ると湊はずぶ濡れで、教科書やノートはびりびりに引き裂かれていた。
「何か言ったら? いつもみたいにさ!」
女の一人が湊の鞄を蹴る。
湊は何も言わず、ただ震えていた。
「おい! やめろ!」
「ちっ! 誰か来やがった。行こうぜ」
湊を囲んでいた数人は、俺に気づいたようで逃げるように去っていく。急いで湊に駆け寄ると、顔をうつ向かせたままボソッと呟いた。
「来るな」
「湊?」
「いいから来るな!」
強い口調で俺を拒絶する。
湊は鞄を拾うと、濡れたままどこかへ走って行ってしまった。
あいつ……。落ちているノートを拾うと、綺麗な字で授業内容がまとめられている。中には山村君用と書き直した部分もあり、傾向と対策も伝えられるように書いてあった。普段いがみ合ってんのに、俺の為にこんな……。
湊、お前ってやつは……。
ずっと敵対視してた俺が馬鹿みたいじゃねえか。