ラウンド6
家に帰りSNSを開くと大和さんからメッセージがきていた。
『聞いてください、今日は好きな人と二人きりになれました! 彼の横顔はクールで、今もドキドキしてます!』
楽しそうな絵文字付きのメッセージ。
大和さんは楽しそうで何よりである。というかこれ、もはや相談じゃなくて惚気ではなかろうか?
『色々お話したいですが、そろそろお風呂なので!』
時計を見ると二十一時を回っている。もうそんな時間か、とテレビを付けた。
「いやぁぁぁぁ!!」
「な、なんだ!?」
隣の部屋から聞こえる叫び、湊の声だ。
どたばた、普段の湊からは想像も出来ないような大きな音が響いてくる。
「おい、どうした?」
急いでベランダに出て隣の部に問いかける。だが、聞こえていないようで湊はベランダに出てこない。何が起きてる? もしかして……、泥棒か?
「仕方ねえ」
ベランダの柵をまたぎ、湊の部屋のベランダに飛び移る。
急いで様子を探るために部屋を覗き込むと驚きの光景が広がっていた。
下着姿の湊が部屋中を駆け回っているではないか。
どうしたのだろう? 日頃のストレスでおかしくなってしまったのだろうか?
男子高校生にとって美少女の下着姿なんて嬉し恥ずかしイベントのはずなのに、湊の奇行のせいで俺は冷めた目で見ていた。
あ、目が合った。
「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
これ以上ない絶叫。きっと覗き魔でも見つけてしまったのだろう。
いったい誰だ? うん、俺だ。
「貴様!! 人の家のベランダで何をしている!?!? 覗きか!? この変態!!」
「いや待て湊。俺は単にお前の様子が知りたくて」
「完全に変態じゃないか!?」
「違う違う、俺はお前の部屋に上がりたいだけ」
「はぁ!? さては貴様、いよいよ狂ったな!?」
いや、狂ってるのはお前だと思う。下着姿で大きな胸揺らしながら暴れるなんて、何してるんだ?
「とりあえず落ち着け、俺はお前に害を加えるつもりはない」
「ほ、本当か?」
「当たり前だ。例えお前が下着姿でも欲情したりしない」
「下着……? あ……。きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「今更かよ!?」
体を隠すように縮こまっても遅い。もう、お前の姿は瞳に焼き付けたぜ。
「というか、中に入ってもいいか? 叫び声が聞こえたから様子を見に来た」
「最初からそれを言え、ばかぁ」
「すまん。で?」
「あいつが出て……」
「あいつ?」
「ほら、そこ!!」
湊が指差す先を見ると、黒い影がかさかさしていた。
あいつか。確かに女子は悲鳴を上げるわな。
「わかった。処理してやるから、俺が下着姿見たとかいうなよ?」
「言わない言わない!」
震えている湊。よっぽど怖いとみえる。
近くにあった新聞紙を丸め、狙いを定めて叩いた。そして、動かなくなった黒い影を紙に丸めてゴミ箱に捨てた。
「死んだぞ」
「ほ、本当か?」
「ああ、もういない。勉強教えてもらってる借りは返したからな」
ベランダに出て柵を乗り越え、部屋に戻った。
「あ、山村君! ……ありがとうくらい、言えばよかった」