ラウンド2
「なんだよ、あいつ」
湊から逃れ教室に戻る途中、スマホを取り出しSNSを開いた。「先生にパン買いに行かされて萎える」と入力し、呟く。俺はSNSでたまにこうやって愚痴る。反応はほとんどないが。
「お」
呟いて数秒も経たずにいいねが付いた。見ると、いつも反応してくれる大和さんだった。数少ないSNSでの愚痴を共感してくれる人で、アイコンは屈強な顔の武士である。
「そういや、話したことないな」
大和さんは昔からの知り合いだが、SNSで会話したことはない。挨拶くらいしてみるか。大和さんのアカウントを選択し簡単なメッセージを送った。
『いつもいいね、ありがとうございます』
メッセージを送って数秒、既読がついた。なんて返ってくるのだろうと期待していると、大和さんから驚きのメッセージが返ってきた。
『好きです! 付き合ってください!』
なんか、屈強な顔の武士からいきなり告白されたんだが?
脳内で流れる武士ボイス。文面とアイコンのギャップが半端ない。
しかし、いきなり告白されても困る。俺は大和さんのことをほとんど知らない。返信に困っていると、大和さんから続けてメッセージが来た。
『って言うにはどうしたらいいですか?』
ええ……、変なとこで送信しないでくれよ。俺に告白したのかと思って驚いた。
しかし、いきなりこんなことを相談してきたどうするつもりだろう? 俺は恋愛経験もなければSNSで恋愛に関して呟いた覚えもない。大和さんは続けてメッセージを送ってくる。
『私、好きな人がいるんですが告白出来なくて。誰かに相談したくても、現実もSNSも友達がいないので、思わず話しかけてくれたイオさんに相談してしまいました』
イオは俺のアカウント名である。
しかしながら理由はわかった。俺に恋愛相談が務まるとは思えないが、聞くだけなら出来そうだ。
『相手はどんな人なんですか?』
当たり障りのない返事をすると、すぐにメッセージが送られてきた。
『かっこいい男の人です!』
うん、何の情報もない。だがしかし、男に恋しているということは大和さんは女の人なのだろうか? アイコンでずっと男だと思っていたが、実のところ違うのかもしれない。
『他に情報は?』
『えっと、いつも怒ってます』
どういう人なんだ? まあ、趣味志向は人それぞれだろう。
『これから色々相談すると思いますので、よろしくお願いします!』
大和さんは頭を下げる絵文字を送ってくる。
何故か俺はSNSで知らない女性の恋愛相談に乗ることになってしまった。