ラウンド26
いよいよ始まる湊のデート。屋上を後にし、俺たちは校内を回り始める。恥ずかしくて手は繋げないが、二人、仲良く談笑しながら。普段からいがみ合っている俺と湊が二人仲良く歩いていることに驚きを隠せない生徒もいる。
適当な売店でたこ焼きを買い、近くの休憩所に並んで腰かける。だが、互いにデートなどしたことのない俺たちは座ったまま何を話すわけでもなく無言のままだった。
「い、伊織君」
「な、なんだ?」
「デートとは何をすればいいのだ?」
「俺に聞かれてもわからん」
再び口を閉ざす、どうにも気まずい。
思えば共通の話題などなく、趣味も知らない。唯一知ってるのは、甘いものが好きだということだけ。学内のクレープでも買ってこようか? と席を立とうとした時、湊がとんとんと俺の肩を叩いた。
「ん?」
「あーん」
「は?」
「は、ではなくて……。たこ焼き、食べないか?」
たこ焼きは食べるが、湊に食べさせてほしいわけではない。しかも周りには人が大勢いて、学校一不仲として有名だった二人があーんをするなど、どんな噂が学内に広まるか分かったものではない。
しかし、湊は上目遣いにこちらを見つめたままたこ焼きを差し出している。無視するべきか? いや、ここで無視できるほどの度胸はない。
「伊織君、食べて?」
迫る湊、少し高揚した頬、恥ずかしそうに潤む瞳。逸らすにも逸らせない。そんな俺を周囲の生徒たちも俺の行動を見守っているのが分かる。これはもう、覚悟を決めるしかない。
俺は思い切って差し出されたたこ焼きを食べた。
「お、美味しいか?」
「う、うまひ」
少し熱いがこらえて食す。湊は俺が食べてくれたことが嬉しいようで、にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべている。あれ、こいつってこんなに可愛かったっけ? 恥ずかしくて視線を逸らすと、俺を見守っていた生徒たちがサムズアップしていた。誰も写真とか取ってないよな?
「湊も食べてみたらどうだ? 結構美味いぞ」
「うむ。……もしかして、伊織君が食べさせくれたりするのか?」
「は、はあ? それは、……まだ早いというか」
「ふふっ、まだ、か。では楽しみにしておく」
こいつ、俺のことが好きってことを隠すつもりないだろ。もう純粋に心の底から俺とのデートを楽しんでいるように見える。ま、まあ悪い気はしないが。
湊は膝の上に乗せたたこ焼きを美味しそうに頬張っていた。
たこ焼きを食べ終えた俺たちは、何かイベントを楽しもうと体育館に来た。どうやら何かのコンテストが開かれているらしい。主催は確か……ユウキ先輩のクラスだったはず。先輩に気づかれないように湊の陰に隠れながら体育館に入ったのだが、案の定先輩に気づかれてしまった。
「おやおや伊織、昨日の今日で早速デートかな?」
「ほっといてください」
まるで苛めがいのある相手を見つけたかのように迫って来るユウキ先輩。
隣の湊は若干不満そうに頬を膨らませていた。ユウキ先輩はそれに気づいたようで、湊の歩み寄る。
「ああ、ごめんね彼女ちゃん」
「ま、まだ彼女では」
「大丈夫大丈夫、伊織は君のこと超好きだから。昨日も好きすぎて辛いです、って私に相談してきたし」
「え!? 本当ですか!?」
「勝手に嘘を吐くな!」
真実のようにデマを吐く先輩にツッコミを入れる。
「ははは、ごめんごめん。さて、せっかくだしコンテストに参加していきなよ」
そう言ってパンフレットを渡してくるユウキ先輩。見ると、そこには大声ミスコンと書かれていた。……なんだ大声ミスコンって。
「なんすかこれ」
「なにもどうも、ただミスコンするだけじゃつまらないから。エントリーしている美少女たちに抽選ボックスから引いたお題を叫んでもらうことにしたわけ。面白そうだろ?」
言われてみると、確かに可愛らしい子が舞台の上に立って箱から紙を引いていては何か叫んでいる。
「勿論恥ずかしいお題も入ってるぞ。今日の下着の色とか」
「いいんですか、それ」
「多分な。どう? 湊ちゃん参加する?」
「え、えっと……」
明らかに苦笑いを浮かべて遠慮している湊。断るに断りづらいのだろう。一応先輩だし。仕方なく救いの手を差し伸べようとすると、ユウキ先輩が湊に何か耳打ちをした。
「え! や、やります!」
「よし、参加者ゲット!」
何を耳打ちされたのか、湊は意気揚々と舞台の方に向かっていく。
「ちょ、先輩なに言ったんすか?」
「ん? 伊織を好きに出来る権利をあげるって言った」
「本人の意思の働てないところで勝手に取引材料にされてる!?」
ユウキ先輩の自由奔放さに頭を抱えていると、どうやら湊の出番が回ってきたらしい。司会の案内で舞台に上がると館内からはちょっとした歓声が上がる。まあ、黙ってれば相当な美人だしな。
「お名前をどうぞ!」
「二年C組、湊紗季です」
「では、早速引いていただきましょう!」
おそらく、ミスコンよりも美少女が恥ずかしいお題を叫ぶかもしれないということがこのイベントの目玉なのだろう。抽選ボックスから一枚紙を引いた湊はお題を確認すると、顔を赤くして戸惑ったように辺りを見渡した。
「ありゃ、湊ちゃん恥ずかしいの引いたかもね」
楽しそうなユウキ先輩。湊も巻き込まれ損である。
「お題の答えをお願いします!」
だが、司会はあくまでもイベントを進めることが目的なので、構わず親交を続ける。湊は恥ずかしそうに身を震えながらマイクの前に立つが、なかなか言い出せない。
「ほら、応援してあげて」
「え、俺っすか」
「当然でしょ」
どん、と先輩に背中を叩かれる。このまま詰まってても余計に恥ずかしいだけだろうし……、仕方ない。
「湊! 頑張れ!」
一つ声援を送ると声が届いたようで、舞台上に立つ湊は大きく息を吐いた後音を伴った息を吸い込んだ。
「山村伊織が、好きだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一瞬、静寂が体育館を包むが直後に大きな拍手が巻き起こった。
「って、ええええええええええ!!??」




