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ラウンド25

 翌日、学園祭最終日。メイド喫茶のシフトは入っておらず、今日はフリー。湊もまた俺を誘ったことから予定は入っていないだろう。まだ準備中の教室でいつ来るかわからない湊を待っていると、相変わらずニヤニヤ面を浮かべる凛が隣にやって来た。

 

「おやおや伊織君。何やら覚悟を決めた顔をされておりますな」

「は?」

「隠してもムダにゃ。伊織もついに恋する男子なのにゃ。にしし、幼馴染として相談に乗ってあげようか?」

「うっせ」

「残念にゃ」


 凛はつまらなそうに眉を顰める。

 そしてふっと微笑むと、俺の肩を優しくたたいた。


「でもこれだけは真面目に言っとくよ」

「何だよ急に」

「紗季ちゃんのこと、大事にするんだよ。……ぷふっ」

「そこで笑うなよ……」


 締まらない奴である。幼馴染としてアドバイスしてくれるのかと思った俺が馬鹿だった。


「ま、とりあえず紗季ちゃんが来るまでそこでもんもんしておくといいにゃ」


 そう言いながら凛は手を振って控室に戻っていった。

 さて、学園祭の開始までもう間もなくだが湊はまだ来ない。窓際に立って外を見ているが来る様子もない。まったくこっちは覚悟決めたっていうのに。仕方ない、このまま教室にいても邪魔になるだけだし、屋上にでも行くか。俺は静かに教室を出た。


 屋上には誰もおらず、俺は備え付けられたベンチに横になる。初夏の風が心地よく、天気は快晴。居心地の良さに思わず寝てしまいそうになる。ポケットからスマホを取り出しSNSを開くが、大和さんからメッセージは届いていない。それもそうだろう、互いに正体がバレている今、ここでやり取りする理由はない。


 だが……。

 ここでしか伝えられないこともあるか。

 俺は大きく息を吐いて、大和さんにメッセージを送った。


 気付くと学園祭はとっくに始まっており、賑やかな声が聞こえる。どうやら俺はうとうとしていたようでスマホを見ると数十分が経っていた。湊はまだ来ないのかと辺りを見渡すと、いつ来たのか、隣のベンチに座っていた。


「人を呼び立てておいて居眠りとは、いい度胸じゃないか」

「来たのか」

「ああ。悪いか?」

「いや」


 ベンチから立ち上がり、思いっきり背を伸ばす。


「行くぞ」

「え?」

「え、じゃなくて。一緒に学園祭巡るんだろ?」

「そ、そうだが……」


 恥ずかしそうに顔を逸らす湊。今更何を照れることがある。

 俺はため息にも近い息を吐いた。


「俺も恥ずかしい。何せ、今まで犬猿の仲だった奴とデートするなんて考えもしなかったからな」

「う、うん……」

「でも、今は状況が違う。だってよ、ずっといがみ合ってきた相手が本当は俺のことが大好きで、しかもSNSでは惚気てた。しかも本人に向かって。恥ずかしいよな。普通なら笑えるはずだ。喧嘩相手の弱みを握ったんだから。だがな俺の抱いた気持ちは違ってた。そして、気づいた」

「何に……だ?」


 湊は不安そうにこちらを見上げている。

 俺は今一度大きく息を吸い、呼吸を整えた。

 

「湊が俺のこと好きってわかった時、俺も嬉しかったってことに」

「な!?」


 頬が若干暑くなっているのがわかる。自分でも赤面したくなるくらい恥ずかしい。湊もまた、口を大きく開けたまま固まっている。


「だからさ、湊。お前のこともっと知るために。今日俺とデートしてくれ」


 言いたいことは言った。不器用な自分が出来ることを。

 後は湊の返事を待つのみ。真剣な眼差しで見つめていると、湊は様々な表情を見せた後に立ち上がり、俺の前で柔らかく微笑んだ。


「はい」

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