ラウンド22
学園祭の準備は順調に進み、いよいよ当日を迎えた。学校には大勢の人がやって来ており、それぞれのクラスの出し物を賑わせている。メイド喫茶を催している俺のクラスもそれは同じで、客足は今のところ絶えていない。というより、周りと比べても大盛況のようだ。まあ、無理もないだろう。風紀姫として生徒たちから避けられている湊だが、その美貌は学内一。しかもメイド服姿で接客となれば目の保養をするには充分である。
「ケーキAセット追加ー」
「はいよ」
接客は主に女子が行っており、俺たち男子は幕裏で食事の用意をしている。言っても買ってきたものを皿に盛り付けるだけだが。注文通りに盛り付けた皿をクラスメイトに渡すと休憩時間なのか、幕裏にやって来た。
「お疲れ」
「ありがとう、伊織君もお疲れ様だ」
「大盛況だな」
「うむ。でも、楽しい」
「それは良かった。何か飲むか?」
「ではお茶をいただこう」
どうやら忙しい時間帯は過ぎたようで、クラスメイト達が何人か休憩取り始めた。思った以上の人気ぶりである。俺も隙を見て湊の隣に座った。
「なあ、伊織君」
「ん?」
「明日は予定とか、あるのか?」
「学園祭か? 昨日も言ったけど、ない」
「そ、そうか」
「何かあるのか?」
「えっと」
歯切れの悪い湊は、意を決したようにお茶を飲み干す。
「良ければ、私と巡らないか?」
「お前と?」
「あ、ああ。ダメだろうか……?」
顔を逸らしながら湊は恥ずかしそうにしている。
その可愛さに思わず胸が高鳴る。だが、俺なんかで良いのだろうか? 湊には確か、片思い中の相手がいたはずだ。折角の学園祭だし、そいつと巡るべきだろう。
「構わないが、俺以外に誘う奴がいるんじゃないか? だって、ほら。湊は片思いしてる人がいるって……」
言いながら、胸が苦しくなるのに気づいた。今までに感じたことのない感情である。
「だから、そいつと巡るべきだろ?」
「……ばか」
「え?」
「伊織君のばーか! もういい、作業に戻る!」
そう言って、湊は幕裏から出て行ってしまう。
俺、何か怒られるようなこと言っただろうか? 心当たりもなく悩んでいると、話を聞いていたのか凛が近づいてきた。
「伊織ってほんとバカだね」
「な、お前までなんだよ」
「女の子が、学園祭で、勇気を出して、誘ったんだよ?」
「わかってるよ。でも、湊は片思いしてる相手がいるんだ。俺じゃダメだろ」
腕を組みながら真面目な顔して返すと、凛は思いっきり吹いた。
「ぷふ、にゃはは!! 伊織鈍感すぎ!!」
「は?」
「良く考えてみ? 紗季ちゃんは誰を誘ったの?」
「俺」
「うんうん。で、学園祭で勇気を出して誘う相手って?」
「好きとか気になってる奴だろ?」
「にししし、そこまで出たら簡単だよね? おっと、凛も仕事に戻るにゃ。あー、伊織ってばほんと面白い。ぷふふ……」
凛はひとしきり話したかと思うと腹を抱えながら出ていった。
誘う、気になる、好き? いや、まさかそんなはずは……。だって俺と湊はずっと犬猿の仲で、いがみ合った来た。確かに最近は仲良くなった気がするが、恋心を持たれるほどじゃ……。しかし、考えれば考えるほど凛の言ったことが正解になっていく。
もしかして、湊は本当に俺のことが好きなのか?




