ラウンド19
学園祭三日前。学校の雰囲気は着々とお祭りモードに変わっている。それは俺のクラスも同じだが、どうにも教室は居心地が悪い。数日前までは湊に言われるままクラスの出し物の準備などを進めていたが、今日はまだ湊と一言も会話していない。むしろ避けられている感じがする。
完全に昨日の一件だ。頭を抱えているとニヤニヤしながら凛が近づいてきた。
「おやおや、紗季ちゃんと喧嘩でもしたのかなぁ?」
「喧嘩ならいつもやってるだろうが」
「そういう意味じゃないんだけどねえ」
いじる気満々だなこいつ。上目遣いに俺を見つめながら笑いを隠しきれない様子だ。
「何があったか教えて」
「教える理由がない」
「えー、教えてくれたら仲直りさせてあげるよ?」
「別にいい」
「ホントかな? 伊織、嘘ついてる時の顔してる」
そう言ってまじまじと俺の顔を見つめてくる凛。
「いいのかなあ、これから大変だと思うけどなあ。折角紗季ちゃんと仲良くなってきたのにまた犬猿の仲に戻る道を選ばなくてもいいと思うけどなあ」
「わ、わかったよ」
「素直でよろしい。で、何があったのかにゃ?」
猫なで声で可愛くねだる凛だが、まったくもってときめかない。
俺は大きなため息を吐いた後、教室の隅の方に凛を連行してから事の真相を伝えた。
「にゃはははは!! 何それ、にゃははは!!」
「声が出けえ、静かにしろ」
「だって、にしし。あー、笑える。っていうか東郷先輩と再会してたんだ。それもウケる」
凛は腹を抱えて笑っている。準備にいそしむ他のクラスメイトたちの視線が痛い。湊の方を見ると、ぎろっ、と俺を睨んでいた。
「紗季ちゃん可愛いなあ。というか伊織も今の時代、鈍感系は流行らないぞ」
「は?」
「伝わっていないご様子。まあいいや。話は理解したから準備室で待っておれ」
凛はそれだけ言い残すとどこかに行ってしまった。あいつ、本当にやる気あんのかな? 湊は変わらず俺を無視してクラスメイトたちと準備を進めていた。
とりあえず準備室に向かうか……。
さて、教室を抜け出して準備室に来たのは良いものの、凛の姿はどこにもない。ここは学内にある倉庫みたいな場所で、学校で使う資材や道具が教室の半分程度の薄暗い部屋に置かれている。普段はほとんど人が来ない所である。こんな場所に呼び出してどうするつもりだ、と近くの椅子に座りながら待っていると誰かが準備室に入ってきた。
「凛君? 言われてきたがどこだ?」
凛だと思って文句を言おうとしたら、準備室に入って来たのは湊だった。
「み、湊?」
「……戻る」
俺に気づいた湊はそのまま背を向けて教室に戻ろうとするが、ガチャ、っと準備室の扉が閉まる音がした。
「え?」
湊が扉に手をかけ開けようとするが、本当に閉まっているらしく開く様子がない。大きく息を吐くと湊は背を向けたまま呟いた。
「どういうことだ?」
「俺は知らない」
「今度は私に何かするつもりか?」
「何の話だよ。本当に知らないんだって、誰かが間違ったんだろ」
「……まあいい。気は引けるが外に連絡してくれないか?」
「スマホ教室に置いてきた。湊は?」
「私が学校で持ち歩いているわけがない」
つまりは連絡手段もなければ、外に出る方法もない。準備室の入り口は外から施錠するタイプなので、鍵を閉められれば出ることが出来ない。
誰かが気づくか他の脱出口を探すか、方法は二つしかないのである。
「誰かいないのか? おーい!」
「他に入り口がないんだし、待つしかないないだろ」
「……そうだな」




