ラウンド18
湊との買い出しを終えアパートに戻った後、俺は部屋でSNSを見ていた。適当にタイムラインを見ていると、どうやら大和さんが荒ぶっているようで、片思い中の相手のことを呟きまくっている。
『あんなにかっこいい人はいない!』
『イケメンフェイスが頭から離れない!』
『抱かれて悶えたい!』
興奮しきってる……。今は絡むのやめておこう。
スマホを置き夕飯を作ろうかと台所に向かうと、チャイムが鳴った。
「誰だ?」
時刻は九時過ぎ。隣の湊かと思ったが、尋ねてくる用事はないはず。
かと言って他に思い当たる人物はいない。とりあえず出るか。
「はい、誰です……」
「こんにちは」
「おかえりください」
顔を見た瞬間に玄関を閉めようとするが、ドアの隙間に足を挟まれる。
「せっかく遊びに来たんだから入れて」
「そんな丁寧な口調で手荒いことしないでくださいよ、ユウキ先輩」
そう、訪ねてきたのはユウキ先輩である。前に家を教えたことはあるが、何の用事だろうか? 考えるだけでも絶対に面倒くさそう。早々にお帰り願いた
いのだが、この人、力が強すぎる。
「いーれーて」
「やーでーす。というか何の用ですか?」
「特に用事はないの。たまたま近くに来たから寄っただけ」
「そうです、そうですか。ではお帰りください。俺は元気ですから」
「お茶くらい飲ませて、はーと」
「はーと、じゃないです、よ!」
押す力と引く力は全くの五分。だが、引かない俺にだんだん苛立ってきたのか、ユウキ先輩はドアの隙間に手をねじ込むと勢い良く引いた。
「うぉ!?」
「きゃ!?」
想像外のことに思わず前のめりになった俺は、ユウキ先輩を押し倒すような形で倒れた。
「いった……。急に引っ張らないでくださいよ」
「仕方ないだろ。伊織がさっさと入れないから悪い」
アパートの廊下で男が女に覆いかぶさっている。他の人に見られたら勘違いされそうなのでさっさと体勢を戻そうとしたその時、隣の部屋のドアが開いた。
「騒がしい。何をして……」
目が合う、湊と。しかもユウキ先輩を押し倒した状態で。
湊は目を丸くして絶句している。
「ち、違う。これには訳が……」
「ばか……」
「え?」
「伊織君のばーか!!」
バンっ、と勢いよくドアを閉める湊。
あ、これはやばいんじゃね? 真面目風紀委員にこの現場を見られたら学校で粛清される気がする。それだけは避けたい。俺はまだ普通の学校生活がしたい。勢いよく立ち上がり湊の部屋のチャイムを鳴らす。
「湊!? 湊ぉぉ!!」
だがしかし、湊が出てくることはない。
「やっちまったな」
「ユウキ先輩のせいでしょうが!? ……で、結局何の用なんですか?」
「だから言ったじゃん。たまたま近くに来ただけだって」
「まじすか」
「まじ」
俺は頭を抱えた。明日からどう湊に接すればいいんだ……。




