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ラウンド16

 放課後、俺は六月初週に行われる学園祭に必要な物の買い出しに行く湊の付き添いで駅前に来ていた。湊は楽しそうに顔をほころばせながら周囲をきょろきょろしている。


 美味しそうな露店の食べ物に吸い寄せられたり、可愛らしい洋服に目を輝かせたり。湊はあちらこちらへと忙しい。まるで子供のようだ。


「放課後の買い物など初めてだ」

「そうかい」

「伊織君は経験があるのか?」

「まあ、たまには」


 と言っても、凛に連れまわされていただけな気がするが。俺は基本的に学校が終わったら帰宅する人間なので好んで出かけたりはしない。駅前なら尚のことである。しかし、すれ違う人のほとんどが湊を見る辺り、こいつは本当に美少女なのだと再認識する。


「で? 何を買うんだ?」

「飾り付け用の雑貨だ」

「なら、駅ビルの中にあるかもな」


 駅には隣接された大きなショッピングモールがある。ここらの高校生にはたまり場のような場所だ。中には多くの専門店もあるし、買い物ならもってこいだろう。


「行くぞ」

「うん!」


 ニコッと笑う湊は、学校にいる時とは違って可愛らしく見えた。今は風紀委員という立場を忘れて楽しんでいるのかもしれない。いつもこんな風に笑ってくれれば喧嘩や揉めずに済むんだが。 


 ショッピングモールに入ると辺りはカップルや若い男女だらけ。どうにも居心地が悪い。だが、湊の方は変わらず心躍らせているようだ。中でも最近流行りのスイーツが食べたいらしく、さっきから何度も店の前を行き来している。


 見てられない、ここは助け船を出してやるべきか……。


「買い出しもいいが、少しくらい遊んでもいいんじゃないか?」

「そ、そういうわけにはいかないだろう」


 馬鹿かこいつは、人がせっかく助け舟を出してるのに。真面目過ぎる。仕方ない、このまま店の前に張り付かれても困る。


「俺は甘いものが食べたい。特にあそこのは美味そうだ。食べたいなあ」

「伊織君がそこまで言うなら。仕方なく私も食べるとしよう」

 

 颯爽と列に並ぶ湊。

 お前はツンデレか? 典型的なツンデレなのか? 頭を抱えていると列に並んでいる湊が元気に手招きしていた。


 スイーツを買い、近くのベンチに座る。傍から見たら俺たちはカップルに見えること間違いなしだろう。さっきも店員さんからカップル割を手案されたが、湊に聞こえる前に却下しておいた。


「良かったのか? 奢ってもらって」

「構わねえよ」

「あ、ありがと」


 前に比べて湊は随分と素直になった気がする。以前はすぐに喧嘩していたが、最近は普通に話せるようになった。関係性も変わりつつあるのだろうか?


「美味しかった。ちょっと飲み物を買ってくる」

「おう」


 湊はそう言って駅ビルの中へと入っていく。すぐに帰ってくるだろうとスマホをいじって待つことにした。


 しかし、どれだけ経っても湊は戻ってこない。どうしたのだろう? 連絡しようにもあいつの連絡先を知らない。まさか迷子か? 仕方なく駅ビルに入って探すが自販機の近くに姿はない。どこまで行ったんだよ……。連絡先聞いておけば良かった。


 もしかしたら入れ違いか? ベンチに戻ろうと入り口に向かった時、遠くから湊の声がした。


「来るな!」


 どこだ? 辺りを窺うと、駐車場の方で数人の男に詰め寄られる湊の姿が目に入った。あいつ……! 俺は反射的に駆け出していた。

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