ラウンド15
「ユウキ先輩ですよね?」
「ちっ、バレたか……」
清楚な雰囲気を一変させ、俺を睨むユウキ先輩。
東郷ユウキ。中学時代の先輩で、俺が不良になったきっかけを作った伝説の女番長である。確か中学を卒業してすぐに就職したと聞いていたが、まさか同じ高校に進学していたとは思わなかった。
「高校生にはならなかったんじゃいんですか?」
「まあな。だが、このご時世そうもいかねえ」
「というと?」
「中卒の元ヤン雇うような会社はねえってこと」
鋭い目でユウキ先輩は遠くの空を見つめていた。
「それに、親もうるさかったしな」
「そうなんですね。……制服似合ってますよ」
「馬鹿にしてんのか?」
先程までの大人しそうな雰囲気はどこへやら、中学の時のような凄みを見せるユウキ先輩。昔は特攻服だったのに、今はセーラーブレザーの可愛らしい制服に身を包んでいる。ギャップがすごかった。
「いいか? 私が元ヤンってことはバラすなよ?」
「もしバラしたら?」
「伊織ならわかるよなあ?」
ユウキ先輩はぐいっと顔を近づけてくる。
確実にやばいことされるんだろうな、これ。墓場まで持っていこう。
「わかりました」
「よろしい。こほん、というわけで私は今は清楚な美少女。園芸部でお花を愛でているの」
「……似合わねえ」
「あぁ?」
低い唸り声で俺を脅すユウキ先輩。また厄介な人物が俺の周りに登場してしまった。湊や凛だけでも賑やかななのに。
頭をかいていると、遠くの方から俺を呼ぶ声がする。
「伊織くーん!」
声のする方を見ると湊がぶんぶん手を振りながら走ってきた。
「探したぞ」
「どうした?」
「学園祭のことで少しな。……ん?」
湊はユウキ先輩に気づいたようで、軽く会釈をする。
「こんにちは」
「こんにちは。もしかして、伊織の友達?」
「ま、まあ」
友達かと聞かれる微妙なところだが、一応頷いいておく。
湊はユウキ先輩と俺の親しそうな様子にきょとんとしていた。
「ぬ? こちらの綺麗な先輩は伊織君の知り合いなのか?」
「一応」
「そうなのか。私は湊紗季と言います」
「ご丁寧にどうも。私は東郷ユウキ。伊織とは中学時代からの仲ね」
「親交が深いんですね」
「そうね、伊織とは色んな事をしたわよ」
「色んな事ですか?」
「二人で出かけたりとか」
確かに二人で出かけたことはあるが、それは他校への殴り込みだった気がするんですがユウキ先輩? しかしながら、湊は別の意味に解釈したようで。
「な、仲が良いんですね」
「ええ」
高身長の女子二人が俺を横目にバチバチやっている。
さすがに風紀姫と元ヤンでは相性が悪いか。
「じゃあ、私は園芸部の仕事があるから。またね、お二人さん」
ユウキ先輩はおしとやかに手を振りながら花壇の方へ向かっていった。
「……伊織君も隅に置けないな」
「何か言ったか?」
「な、なんでもない」
「で? お前は俺に用があるんだろ?」
「そうだった。放課後買い出しに行くように甲原先生に頼まれたんだが、一人では出来なそうなのでな。伊織君に手伝ってほしい」
「俺? 他にいないのか? 凛とか」
「凛君を誘ったら、男の君の方が役に立つと言われてな」
単に重労働を押し付けられた気がするが、まあいい。放課後特に予定はない。
「わかった。付き合ってやる」
「良かった。では放課後よろしく頼む」
何故か俺は放課後に湊と二人で買い物に行くことになってしまった。




