ラウンド11
「覚えてろ!」
先輩たちは逃げるように去っていく。もう湊に手は出してこないだろう。上を見ると凛がサムズアップしている。こういう時は本当に頼りになる奴だ。
ふう、と一つ息を吐くと後方から声を掛けられた。
「山村君……?」
振り返ると、校舎の陰から制服姿の湊が現れる。いつもの強気な様子はどこへやら、恥ずかしそうに頬を染めている。
「よう。きっちりお灸は据えたから、もうお前に手は出さないはずだ」
「そ、そうか。良かった……」
「湊?」
湊はふらふらしながらこちらに歩み寄ってくる。顔もさっきより赤い。ぼうっとした感じで目の前まで来ると俺にもたれかかってきた。
「お、おい! って熱いなお前!?」
「う、うにゃあ……」
湊は力が抜けたのか、完全に俺に体を預けている。体中が熱を帯び息も荒い。こいつ、こんな様態で学校に来たのか……。湊を背負い急いで、保健室に向かった。
窓から吹く風が保健室の真っ白なカーテンを揺らしている。
ベッドで寝ている湊の寝顔はいつもの強気な表情ではなく、年頃の女の子のように可愛らしい。端正すぎる顔立ちは、黙っていれば学校一の美少女と名高いのも頷ける。
「むにゃむにゃ……」
「どんな夢見てんだか」
寝顔を眺めていると、湊は色っぽい声を上げながらもぞもぞ動いて目を開けた。
「良く寝れたか?」
「んん……? や、山村君!? な、ななな!?」
湊は顔を真っ赤にして布団を抱きしめる。
「落ち着け、俺は何もしてない」
「ほ、本当か?」
「当たり前だ」
「そ、そうか。……ここは保健室か?」
「ああ。お前、体調が悪そうだったから運んできた。医務の先生がいなかったのは予想外だったが。お前、意外と軽いのな」
今にも湯気が出そうなほど湊は顔を真っ赤にしている。そして、ぼそぼそと何かを呟き始めた。
「……がとう」
「ん?」
「ありがとう!」
湊は布団を恥ずかしそうに被った。
「どういたしまして」
「むぅ……」
布団から少し顔を出し、湊は眉を下げる。
「もう少し休んでろ、送っててやるから」
「いいのか?」
「当たり前だ。どうせ家は同じだしな」
俺は口角を上げて笑う。
湊は安心したのか被っていた布団から出ると、俺の方を真っ直ぐ見つめた。
「山村君」
「ん?」
「伊織君、って呼んでもいい?」
照れた様子で上目遣いに俺を見つめる湊。その可愛さは反則級だった。さすがにそれは反則だろう。
「私のことも紗季って呼んでいい。ダメ、かな?」
「べ、別に構わんが?」
「本当か!?」
「ああ」
「よろしく、伊織君!」
はじめて見た湊の満面の笑み。
天使のように可愛くて、思わず胸がドキッとした。
一章完結です!!




