表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/29

プロローグ

「我慢しろよ」


 学校の廊下を背中に人を乗せ走っている。目指すは保健室。背中に乗る少女の息は荒く、体は熱を帯びていた。こんなに体調が悪くなるまで何を我慢していたんだか……。犬猿の仲であるこいつを助ける理由なんてない。でも、夕暮れの学校に誰もいなかったのも事実で背に腹は代えられなかった。


 ――倒れられたら張り合いがない。


 なんて言い訳を盾にして。


「着いたぞ」


 保健室の扉を開けると医務の先生はいない。仕方なくベッドに背中の少女を寝かせると、いつもは可愛げのない怒り顔が辛そうに歪んでいた。


「……助けられるなんて、不服……」


 こんな時でも口数が減らない辺り、さすがに普段いがみ合うだけはある。

 余裕ぶった発言とは裏腹にかなり弱っているようだが。


「黙って寝てろ。医務の先生を呼んでやるから」


 保健室を後にしようとすると、苦しげな声で俺を呼び止めた。


「山村伊織……!」

「なんだ? 喧嘩なら後でしてやるから、今は大人しく寝て……」


 ――ありがとう


「は? 今なんて?」

「うるさい、なんでもない!」


 そう言って枕を投げつけてくるあたり、まだ元気があるらしい。

 保健室の扉を閉めさっさと退散する。早く医務の先生を呼んでバトンタッチしたい。

 これ以上あいつのお守なんて勘弁だ。


 ……いや、そんなわけない。


 あの堅物真面目風紀委員が俺に感謝なんてありえない。言われてたとしたら、気味が悪い。明日雪でも降るのではなかろうか? 

 

 だが、聞こえた気がしたありがとうの言葉が耳から離れずにいる。

 今思えば、これが犬猿の仲である湊紗季(みなとさき)が初めて俺にデレた瞬間だったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ