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Act.03 ひとまずの和解



 ゴブリンもどきとの初遭遇から早数時間。元々暗がりだった木々の合間には橙色の光が差しこんでいた。

 どうやら太陽が落ちてきたようだ。


 ずっと歩き続けていたが川らしきものはなく、ゴブリンもどきたちともあれ以来一度も姿は見ていない。

 だが、時折それらしい視線や気配を感じるため、出会わないというよりも向こうがコチラを避けているような感覚だ。


 キャシーもその感覚に気付いているのか、うっすらと汗をかいていた。

 こんな歩きづらい獣道を歩いているのだ。汗もかかずに進むなんて化け物だ。俺なんか汗ダクダクだ。


「なぁ、そろそろ夜だぜ。川は諦めてキャンプ地を決めよう」

「それはわかってるけど、水がないと後がきついわよ」


 水が見つからないのは確かに困るがすぐに困るわけではない。

 少なくとも俺には飛行機でもらった小さなペットボトルの水がある。

 水場が見つからないのであれば安全なキャンプ地を見つけるのが良いだろう。


「水なら少しはある。それよりも夜にアイツらに襲われるのは勘弁だ」


 俺の言葉にキャシーが身震いする。大方、夜寝ているときにあのゴブリンもどきに襲われた時のことでも考えているのだろう。

 耳元が真っ赤になっているみたいだが、いったい何を想像しているのやら。


「……そうね。わたしも飲みかけのペットボトルが一本あるわ……水探しはとりあえず断念ってところね」


 かくして俺とキャシーの意見は一致した。

 俺とキャシーは警察と武器商人ウェポンディーラーという最悪極まりない関係だが、この非常時においては手を組む以外に道はないのだ。


 キャシーは見た目は頼りなさそうな女性だが、山岳訓練を始めとした軍事訓練をいくつか受けている。

 少なくともまともな訓練を受けたことのない俺よりかはサバイバルスキルは高いはずだ。


「よし、キャンプ地探しと行くか」

「ちょっと、さっきから思ってたけどなんであんたが取り仕切ってんのよ」

「ん、ああ、そういえばそうだな。こういうのは専門家スペシャリストに任せた方が良いよな」

「そうよ、少なくとも一般人サラリーマンのあんたよりか専門家スペシャリストであるわたしの方が適任よ!」


何故か、専門家スペシャリストの部分を強調しながら胸を張る。

頼もしいばかりだ。とても迂闊うかつに拳銃を発砲するような警察官には見えない。


「そういうわけでアキラ。当面の間は休戦よ。また、あのゴブリンみたいな奴らが襲ってくると限らないし」

「そうだな、この状況でいがみ合っても意味ないしな。いまさらだがよろしく」


 こうして、俺とキャシーはこの状況を共に打破することを誓ったのだ。


「で、キャンプ地はどうするんだ、キャシー」

「そうね……まずは互いの荷物を確かめあいましょう」

「に、荷物をか?」


 と俺は頑丈なキャリーケースを後ろ側に隠す。


 マズイ。非常にマズイ。


 このキャリーケースには警察に見られては厄介なモノが多く詰まっているのだ。

 それこそ、俺が汗をダラダラ流している理由がココに詰まっているとでも言えよう。


「なによその反応。あ、もしかして、密輸でもしてるわけ?」

「う"」


 図星だ。このキャリーケースの中には日本へ容易に持ち込んではいけないシロモノが詰まっているのだ。

 これをキャシーに見られたらまた「逮捕よ!」なんて言われかねない。


「はぁ……別にいいわよ。今話題の死の商人(ウェポンディーラー)であるあんたが手ぶらで日本に来るわけないものね」


 しかし、キャシーの反応は俺の予想とは反してあっけからんとしていた。


「気付いていたのか?」

「まぁね。銃刀法違反や密輸であんたを逮捕したってすぐに釈放されるオチくらい見えてるわよ」


 どうやら、キャシーは俺が武器《、、》を密輸していたことに感づいていたようだが容認していたらしい。


「もちろん、意味もなく日本で使ったり犯罪組織に売るようであれば即逮捕する予定だったわ」


 キャシー恐るべし。ホントに仕事で日本へこなくてよかった。


 そんな感じでわだかまりが解消した俺たちは早速、荷物を見せ合った。

 と言っても俺が見せたのは今回の件に関係しそうなもののみで密輸していた武器は見せていない。


 キャシーも見せてくる荷物は一部で衣類も持っているようだが、俺に見せるつもりはないようなので暗黙の了解という奴だ。


「水はペットボトルが3本ね、ライターやマッチ類は無し。食べ物はわたしのカロ●ーメイトが2箱のみ……こんなんでサバイバルなんてゆとり世代は納得しないわよ」


 羽田空港から急にココへやってきたため、持っている荷物でサバイバルに役立ちそうなものはない。

 キャシーも同じでキャリーケースのほとんどは衣類のみであとは財布とスマートホン、拳銃だ。

 せめて、ナイフがあればサバイバル生活も潤うのだがあいにくと俺とキャシーの所持品には入っていない。


「ってかあんたホントに武器以外何も持ってないの?」

「さっきも言ったろ、あとは服と携帯用のゲームくらいだって」


 頑丈なキャリーケースには秘密がいっぱい詰まっているのだ。

 安易にキャシーに見られるわけにはいかない。


「ゲーム? あんたが?」

「ああ、そうだよ。F●とかド●クエとか好きだぜ!」

「ふーん、まぁいいわ。詮索は野暮だからね」


 そう言ってキャシーは胡乱げな瞳で俺を見ながらため息をついた。

 どうやら、俺の荷物を漁るなんてことはしないようだ。安心した、なにせ俺のキャリーケースにはみんな大好きなRPGが詰まってるからな。


 まぁ、そんなことより今はキャンプ地の問題だ。

 サバイバルに必要なものはほとんどなし。食料もなく見知らぬ土地で二人っきり。

 これがゲームならば石とか木とかを集めて斧を作ったりすることも可能だが、あいにくとここはそんなに便利な場所ではないようだ。


 斧や刃に使えそうな手ごろな石は探してはいるがまったくない。手ごろな石はあるけれどいくつか拾ってみたが少し握っただけで割れてしまうものがほとんどで道具に使えそうではない。


 木材は木材でここにあるのはほとんど大木。切り倒そうと思っても簡単にはいかない。道具がない今、使えるのは落ちた枝くらいだろう。

 火に関しては銃弾があるので問題なし。だが、木材の問題もあるため焚火をするにも手間がかかりそうだ。


 だが、一番の問題は水だ。水辺は見つかってないし、持っている水はわずか。今日と明日は問題ないが明後日からは死活問題に変わるだろう。


「アキラ。何ボーッとしてんのよ。おいていくわよ」


 あれこれ考えているうちにキャシーはキャンプ地を探しに行こうとしている。


「はいはい了解」


 重くて頑丈なキャリーケースを引っ張りながら俺はキャシーの後を追う。


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