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Act.02 はじめてのゴブリン



 獣道はすぐに見つかった。

 俺たちが現れた地点(仮にスポーン地点とでも名付けよう)より数メートル歩いたところに不自然に草が生えていない道があった。


「ねぇ、獣道ってこれでいい?」


「ああ、十分だ」


 発見者はキャシーだ。

 20歳……成人女性にしては背とかいろいろが小さめな彼女は木々の隙間とか茂みの合間とかが見やすいのだろう。


 彼女は服についていた枝や葉っぱを払い落とすと鋭い目で俺を睨みつけた。


「あんた今、失礼なこと考えてたでしょ」


 意外と勘は鋭いみたいだが、俺がすましたような顔をしているとふんっとそっぽを向いた。

 あまり根に持つタイプじゃないと思っていたがそうではないらしい。


「とりあえず進もう。出来れば川が見つかればいいんだが」


 俺とキャシーはとりあえず獣道を進むことにした。

 それ以外にやることと言ったら何もせずに待つくらいしかないのだが。


 獣道は頻繁に動物かナニカが利用しているのか足元は踏み鳴らされ周囲の枝や葉っぱは邪魔にならないように折れている。

 背の高い生物もいるのか一般的な日本人男性の身長を持つ俺でも難なく通ることができた。


 どれくらい進んだだろうか。

 小1時間くらい歩いたところで俺の前方を歩いていたキャシーが歩を止めた。


 小柄だが米海兵隊のブートキャンプや山岳訓練にも参加したことがあるほどに体力バカなキャシーがこの程度で音を上げるとは思えない。


 何かあったのだろうか。

 尋ねようとしたところで先にキャシーが口を開いた。


「なにかいるわね」


 ゆっくりと背中に手を伸ばす。

 前からは死角になっていて見えない位置に拳銃を2丁隠しているようだ。


 見た目が普通の服なのに背中にはごつくて物騒な形が浮き出ている。

 平和ボケした日本人ならともかく見る人が見れば帯銃していることはあきらかだ。


「人じゃないな、獣か?」


 俺も全神経を集中させて気配を探る。


 キャシーと違って俺は山岳訓練など受けたことはないし、仕事先もジャングルではなく荒野や砂漠が多い。

 多少なりとも鍛えているとはいえ慣れていない環境ではあまり役に立たないであろう。


 にしても、こんなジャングルにいる獣といったらなんだろうか。

 サルやゴリラみたいな人類のお仲間だろうか。


 そういえば、1時間も歩いたというのに鳥以外の動物の痕跡を発見していない。

 獣道は存在するが、道を通る本体にはいまだに出会えていないのだ。


「来る」


 キャシーがそう呟くと獣道の奥から奇妙なモノが現れた。


 森の緑色に溶け込むような深緑の肌にかろうじて局部が隠れている腰布。

 形は人型だったが、それは人ともサルやゴリラとも言えない生き物だった。

 遠目に見て背は低いようでその身長は大体キャシーの胸くらいで、手らしきところには棍棒のようなモノが握られていた。


 うん。あきらかに人類のお仲間っぽい形状だ。


「なによアイツ……子供?」


 キャシーの声に反応したのかそいつら(、、、、)は俺たちの下へと近づいてきた。

 暗がりな森でもはっきりと分かる黄金色の瞳。言葉ともなんとも言えない声を発する口には鋭い牙が見える。


 棍棒のようなモノは木製または石のようでその姿は原始人を彷彿させる。

 複数体で群れる彼らから1体だけ飛び出た者がいた。


 体つきは他の個体とほとんど変わらないが身に着けているモノは他のモノより少しだけ綺麗で豪華のように見える。

 そいつは俺たちの方へ視線を向けると大きく口を開いた。


『がああああああああ!』

「きゃっ」


 唐突な雄叫びにキャシーが少しだけ後ずさった。

 距離が近くなったのでそいつらの風貌はよりいっそうはっきり見て取れる。

 人型ではあるが人間ではない。


 なんというか、RPGゲームとかに出てくるゴブリンのような姿だ。


「おい、キャシー」


 いつのまにかキャシーは銃を握っていた。

 SIG SAUER P220。日本の警察に支給される自動拳銃だ。

 使用弾薬は日本の警察仕様の32ACP弾だろう。低威力で小柄な日本人にも扱いやすいのだ。

 キャシーは両手でその銃をゴブリンのような生物(ゴブリンもどき)に向ける。


「わかってるとは思うが撃つ(、、)なよ」

「言われるまでもないわ!」


 警察官における銃は犯罪者と撃ち合うためだけではない。

 こちらは銃を持っているぞという抑止力で相手の行動を諌めることも所持する目的として存在する。


 だから、先に撃って相手を刺激するなど日本の警察としてはありえない。


 無論、キャシーはCIAからの出向とはいえ警察の端くれ。抑止力としての銃の扱い方は熟知しているはずだ。

 だがこのゴブリンもどきたちに通じるかは微妙だが。


『ぎぎゃ?』


 ゴブリンもどきたちはキャシーが銃を構えるのを見て止まる。そして、ヒソヒソと何かを話し合うかのように互いの顔を寄せ合った。


 お、もしかしてコレはこちらの意図を理解した?

 こいつら(ゴブリンもどき)に銃が理解できるとは思えないが、雰囲気で察したのだろうか。


『ぎゃははははは!』


 安心したのも束の間。何故かゴブリンもどきたちは笑い出した。

 醜い顔をゆがめて大きな口を大きく広げて笑った。


 その姿はまるで悪魔のようだった。


 ゴブリンもどきたちはひとしきり笑い終えると手に持っていた棍棒を大きく振り回しながら走り出す。


「もう、なによ!」


 パンッパンッ。発砲音が二回響く。キャシーが引き金を引いたのだ。

 モクモクと硝煙が立ち込め、音の後にゴブリンもどきたちは何故か足を止めた。


 その理由は明白だ。キャシーの放った銃弾は一番前にいたゴブリンもどきの胸と頭に直撃していたのだ。

 ゴブリンもどきはゆっくりと力を失うかのように倒れ込んだ。


「あーあ、撃っちゃった」

「ちょ……仕方ないでしょ! 棍棒振り回すとか! わたしこれでも非力な女性なんですけど!」


 ぎゃーぎゃーとキャシーは言い訳を言っているが、コレは最悪のパターンだ。

 見た感じ知性と品性のカケラも感じさせないゴブリンもどきたちはおそらく仲間を殺された腹いせに襲いかかってくるであろう。


 いくらキャシーが銃を持っているとはいえ、銃弾には限りがある。

 この先、何体このゴブリンもどきが現れるのかわからないのにポンポンと銃を使うわけにはいかないのだ。


 どうしようかと俺がため息を吐いていると目の前で信じられない光景が広がった。

 襲いかかってくると思っていたゴブリンもどきたちは急に反転するとどこかへ逃げ去って行った。

 後に凶悪な獣がいるわけでもないので、おそらくキャシーの銃に驚いたのだろう。


「なんだか知らないけど助かっちゃったわね」


 キャシーも銃を使ってしまうことのリスクをきちんと理解しているようで、すぐに拳銃をホルスターに収めた。


「にしてもなんなんだこいつら、ロード●ブザリングに出てくるゴブリンだってもうちょっとはマシな恰好してたぞ」

「ゲームに出てくるゴブリンみたいな奴だったわ。こんな生き物……始めてみたわよ」


 キャシーは肩を震わせる。訓練しているとはいえ、実際に生物へ向けて銃を放ったのははじめてだったのだろうか。

 俺は昔の自分を思い出しながらもその肩にポンと手を置いた。


「安心しろ、こんな危険生物。日本どころか海外にもいやしないって」


「じゃあ、ここはどこだって言うのよ! まるでな●う系ファンタジーの世界じゃない!」


 な●う系という言葉に心当たりはなかったが、キャシーの言う通りここはファンタジーの世界のようにも思える。

 少なくともあのゴブリンもどきは俺たちの世界にはいないはずだ。


 だとすると、俺たちはタイムトラベルしたわけでもワープしたわけでもないかもしれない。

 俺たちが住んでいた世界とは異なる世界。それこそファンタジー小説やゲームやらに出てくるようなファンタジー世界なのかもしれない。


「ちょっと、あれみて!」


 ふいにキャシーがわめいた。無理やり腕を引っ張られてその光景を目の当たりにする。


 先ほどキャシーが撃ち殺したゴブリンもどき。そいつの姿が光をまき散らしながら徐々に透明になって消えていく。


 それはまるでRPGゲームで敵を倒した時のような光景だった。


 数秒もしないうちにゴブリンもどきは消え去った。

 その場所にはゴブリンもどきが身に着けていたであろうボロい腰布(触りたくない)と石で出来た棍棒が転がっている。


「ねぇ、ここってやっぱり、わたしたちの知っている世界じゃない?」

「どういうことかわかんねぇけど、たぶんそうだろう」


 なんで、こうなったか理由はわからないが結果論から言えば、そうなっている。

 俺たちは何故か異世界へ移動してしまったようだ。


 そういえば、あの光……俺たちがこの世界に来る前にみた光。あのとき、声のようなものが聞こえた気がする。


 時間が経ってしまっていてあまり詳しくは思い出せないが、なにか呼ばれた気がした。

 それが関係あるのだろうか。それともただの勘違い? 考えても答えなんて持ち合わせていない。


「どうしよう、元の世界に帰る方法ってあるのかな? 来れたんだったら帰れるよね?」

「さぁな、ここが異世界にせよなんにせよ、この森を抜けなきゃ何も始まらない」

「うん、そうよね。じゃあ、さっさと行きましょう。またあのキモイ奴ら(ゴブリンもどき)がくるかもしれないし。ほら、いくわよ!」


 いっきに元気になったキャシーは再び獣道を進み始める。

 頼りないパートナーだが、いないよりマシだろう。


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