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第19話 竜退治の英雄(4)

 竜の騒ぎの話については、時と場所を改めてすることになった。魔龍退治に参加した他国の者たちには、基本的に関係の無いことであるし、勝利を祝う場ですることでもない。


 国王の演説や、各国に向けての謝辞は短めにまとめられ、下っ端の者たちは解散して祝宴へと向かって行った。


 そして、私を含め、各国の魔龍退治派遣部隊の幹部は王宮の一角の会議室へと集められた。


 エウノだけではなく、周辺各国の役職者まで集められたのは、ロノオフの騎士団より「申し訳ないことをした」という言葉があったからだ。


 それでノルシアもオルディオも頭を抱えることになったのは言うまでも無い。


 彼らとしても、まさか、本当に意図して竜を押し付けたとは思っていなかったらしい。普通に考えれば「戦闘の結果、竜がエウノ方面に逃げて行った」という話がこじれたものだと思うだろう。


「改めて確認したい。昨年の秋、竜をエウノに誘導したのは意図的なものであると言うことで間違いありませんか?」

「……少なくとも、私はその認識で間違いない。」


 騎士団長のモレアリックは歯を食いしばり、頭を下げる。私が言うなとなるので口にはしないが、この騎士団長はやたらと若い。まだ二十代ではないだろうか、いかにも屈強な体つきではあるが、少々、威厳が不足している。


「それは、由々しきことでございますぞ、モレアリック殿。それでは、ロノオフは戦争を始めるつもりだった、と理解されても仕方がなかろう。」


 ノルシア側から忠言めいた言葉が出る。きちんと考えて物を言わないと、本当に戦争になるぞという脅しだ。その懸念があるからこそ、彼らもこの場に着いたのだろうが。


 とはいっても、今のロノオフに、戦争ができる体力が残っているとも思えない。私としても「ならば、戦争だ!」などと息巻くつもりもないし、なんとか上手いこと落としどころを探る必要がある。


 感情的にギャーギャーと喚き責め立てても話が何も進展しないし、一体何がどうなって「最悪の判断」に至ったのか、その説明を要求する。


「我が国の発展は限界に近かったのです……」


 沈鬱そうな表情をするが、騎士団長(モレアリック)の説明は、実に都合の良いものだった。

 ロノオフは夏が短く、毎年、収穫が厳しいこと。発展していこうにも、畑にできる土地が少ないこと。そして、北海に面していて、魔龍の危機に晒されていること。


 主流派閥では、戦力の拡充と国土の拡大は、この数年で随分と主張されてきたらしい。正直、こっちとしては「知らんがな」というレベルの話だ。


 そもそも、ロノオフが建国されたのは一千年以上前のはずだ。この辺の国は、欧米諸国とは比べ物にならない歴史の長さを持っている。エウノの王都は築一千年を超える建物はゴロゴロしているし、ロノオフの王都も似たようなものに見える。


 それを、何を今さら寒いだの土地が痩せてるだのと、つまらない泣き言を言うのか。新興国でもあるまいし、平民のハンターや商人のようなことを貴族が言うなと、声を大にしたい。


「其方らは、先祖代々守ってきた土地に誇りや愛着が無いのか?」


 オルディオの騎士団副団長も同じような感想を抱いたようだ。呆れたように首を横に振る。


「戦争を見据えて戦力を少しずつ強化しているときに、竜の騒ぎが起きたのです。」


 そして、思い至ったのだという。竜をエウノに押し付ければ、ロノオフの損害を抑えながらエウノに被害を与えられると。


 竜と正面から当たれば少なくない被害が出ることは容易に想像できる。既にいくつかの町が潰されているし、竜が暴れる地域を治める領主もこれ以上の損害を出したくなかったようで、エウノへの誘導に賛成したのだという。


「だが、エウノからは何も無かった。救援を求める声も、糾弾する声もだ。代わりに竜退治の英雄の話が聞こえてきて、その情報を集めているうちに、魔龍の襲来があったのです。」


 その魔龍の被害は甚大で、強化していた軍事力も物資も全て吹き飛んでしまったらしい。国王軍、領主軍あわせて万を超える兵や騎士を失ったと言う。


「分かりました。では、損害賠償の請求をしない代わりに、魔龍被害の復興支援もしない、ということで手を打ちましょうか。」

「それは困るな。」


 話をするのも面倒だし、角が立たない方向で話を終わらせようと思ったのだが、オルディオより思いがけない反対意見が出てきた。一体、何が不服なのか分からずに首を傾げていると、ノルシアも同意見のようで彼らの立場を説明する。


「ロノオフに支援できないのはエウノだけではない。我々も、現状ではロノオフを支援することはできない。魔龍は人類共通の敵であり、放置するわけにもいかない災害であると認識しているので、その退治に関して派兵の費用など請求するつもりはない。だが、復興支援はその限りではない。」


 端的に言えば、自分の国に攻め込んでくるつもりの国を援助するバカはいないということだ。ロノオフ側は「既に諦めた」と言ってはいるが、そんなことは数年後にはどうなるか分からない。

 支援する資金や物資があるならば、対ロノオフのために蓄えておきたいと考えるのは自然なことだった。


「諸卿らは、ロノオフに滅びろと、そう言われるのですか?」

「誤解を恐れずにいうならば、その通りです。ちょっと考えてみてくださいよ。地方領主が戦力を集め、他の領や王族直轄地を奪い取ろうと企てていたらどうなさいますか?」

「潰すに決まっている。叛乱を企てた領主は首を刎ね、一門の爵位は剥奪されるだろう。」

「仮に、何らかの支援をするとしたら、その後のことになりますな。」


 オルディオやノルシアの者たちから返ってきたのは当たり前のような回答だが、ロノオフ側は真っ青になっている。

 戦争に向けて動いた現王を処刑し王族を廃さねば、協力などできないと言うのは別段不思議なことでも何でもない。


 それが「ロノオフ王国が滅びる」という意味だ。別に民草にどうこうしようというつもりは誰にもない。責任を負うべきは責任者なのだ。


 モレアリックは眉間に深い皺を刻んだまま、無言で唇を噛みしめる。後ろに控えている文官や側近の者たちも、何も言い出せずに互いに顔を見合わせるだけだ。


「エナギラ閣下、あまり出すぎた意見は……」

「分かっている。これ以上の要求を、今、私からするわけにはいくまい。

 背後からモロイエアがそっと声を掛けてくる。出発前に、エウノ国王や公爵たちに賠償請求をすることは言ってあるし、任されているが、それ以上については、私には勝手に話を進める権利はない。


「私は、一度、エウノに戻って報告いたします。国としての対応は、一伯爵に過ぎない私が決められることでもありません。援助と賠償は相殺し、互いに何もしないというところまでが、私に与えられた権限ですので。」

「その事情は分かるが、放置しておけば証拠を隠滅されるのではないか?」

「この期に及んで、騎士たちを処分するなどの話になれば、それこそ王族の立場がなくなりますよ。」


 ただでさえ激減しているのに、自らの戦力を自ら切り落とすバカならば、どうせ現王家は滅びるだろう。王や王妃、王太子くらいまではどちらにしても処刑となる可能性が高いが、傍系ならば、王族という身分は失っても子爵や男爵として生きる道はあるだろう。



 話が終わったら、城下で一泊してエウノへと帰る。

 城に泊まらないのは暗殺、毒殺を避けるためだ。「オマエさえいなければ!」などとワケの分からない逆恨みをしてくるような奴はどこにでもいるものだ。


 下町の食事処と言うか酒処で、エレアーネと久しぶりの肉料理を堪能する。やっぱ、下町だよ。貴族のお高くとまった小っちゃい肉じゃなくて、どどーんと豪快な肉の塊ですよ!


「竜退治の英雄が何故こんなところにいる⁉」


 なんていきなり身バレもしたが、元平民だしたまには羽を伸ばさせろと酒を奢ってやったら、それ以上の突っ込みはしてこなかった。


 酔っぱらって宿に戻り、ゆっくり休んで翌朝は二日酔いのまま出発だ。モロイエアが「貴族たる節度を持って……」と説教臭いが、たまには少しくらい良いじゃないか。


 ニトーヘンとチョーホーケーだけだと進む速度が段違いに早い。街道は時速二十キロ以上で走り続けるのだ。一日走っていれば、先行して帰路についていた騎士たちに追いついた。


 だが、追い越して彼らを置き去りにして帰るわけにも行かない。ここからは、ゆっくり、のんびりと行くしかない。

 往路の所要日数を考えると、王都に着くまでに一週間はかかる。



 目的を達成した帰り道には緊張感が無い。往路では言葉も少なかった騎士たちも、気ままにお喋りをしたりしながら進んでいる。

 実に平和なものだ。


「……はやく、帰りたいですね。」

「わたしはお肉が食べたい!」


 エレアーネは野外生活が長すぎるのだ。生まれてから十年以上も野宿生活を続けてきた元浮浪児には、我が家という概念が未だ希薄なようだ。

「どこか、途中で狩って帰りましょうかね。みんな、喜びますよ。」

「……みんな、元気かなあ?」


 言われて初めて気づいたらしい。

 もう、行くべきところも、帰る場所も無かったころとは違うのだと。帰りを待つ人たちもいるのだと。


「帰りますよ、私の町に。」

「うん、帰ろう。私たちの町に!」

【ヨシノ・エナギラ伯爵】

日本からの転移者で、元の名前は好野裕。昨年秋の竜騒ぎを治めた最大功労者で『竜退治の英雄』と呼ばれるようになった。

見た目は5〜6歳であり身長は110cmほど。一応、中身は38歳。


【エレアーネ】

エナギラ伯爵腹心の魔導士であり、12歳の少女。光属性の魔法を多用するが、実は適性を持っていない。


【モロイエア】

エウノ王国第一の公爵であるヨースヘリアから貸し出された文官。最近白髪が気になる45歳。


【エウノ】

主人公の所属する王国。


【ロノオフ】

魔龍が現れ、応援を求めてきた北の王国。


【ノルシア】

ロノオフとエウノの東側にある王国。


【オルディオ】

ロノオフの西側にある王国。


※この辺の国は全部王様が統治しているので王国です。


魔龍編、これで完結です。

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[良い点] ここまで全部読んだ 対大物レイドをしっかり書き切れる腕がある人は少ない。称賛に値する。すばらしい。
[気になる点] 結局、龍5匹ってタイミング良く自然発生したのか、召喚したのか、遠いところから延々と1匹づつ引っ張ってきたのか…。 [一言] 読了。 面白かった。 (*´∀`) マンモスの狩りってこん…
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