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第18話 竜退治の英雄(3)

 魔龍の死骸全てを灰にするのを諦めてからは、割と早かった。他国の騎士や魔導士たちにも炎熱召喚を教えてからは、魔力や体力に余裕ができたのも大きい。


 と言っても、焼き尽くすまでに丸二日を要したのだが。


 無事に魔龍のツノやウロコも入手し、現地を発ちはしても、まだやることが残っている。非常に面倒くさい。


 ハンターたちや大半の騎士や、魔導士はそのまま故郷へと帰っていくが、各国から責任者は一度ロノオフ王都に立ち寄り、報告をしなければならない。


 退治完了の速報は文官たちを先に遣わせているが、正式な報告は責任者が行うのは当然だ。『竜退治の英雄』などと呼ばれ、総指揮をとっていた私が直帰するのはいくらなんでも外聞上良くない。


 ニトーヘンを量産するだけの魔石もなく、ちんたらと馬車に合わせて進むしかないのは、本当に嫌気がさす。


 ようやく王都に入ると、大歓声で迎えられた。


 全然嬉しくない。喧しい、うるさい黙れと叫びたくて仕方がない。別に私は英雄になりたいわけじゃない。

 栄誉が欲しいわけじゃない。私が欲しいのは安寧の日々だ。そっとしておいて欲しいと心から思う。


 門に待機していた衛兵に導かれて王城へと向かう。が、その進みは遅い。やっと着いたと思ったら、国王以下、重鎮と近衛兵に迎えられた。


「皆の者、よくぞ魔龍を討った。その功績と栄誉は、伝説の一つとなり語り継がれよう!」


 そんなことは良いから、食事の一つでも出してくれ。国王が何やら偉そうに演説しているが、はっきり言ってウザいだけだ。ありがたくも何ともない。


「エウノの竜退治の英雄よ!」


 半分居眠りしながら聞き流していたら、突然、呆れるほど恥知らずな呼びかけが聞こえてきた。寝ぼけて聞き間違えたかと思っていたら、周囲にざわめきが広がっていく。


「エウノの竜退治の英雄、エナギラ伯爵殿、足労掛けて済まぬが、前に出てきてもらえぬだろうか」


 この期に及んで、国王は私に頭を下げたくないらしい。配下の文官らしき男に私を呼ばせている。まったく、腹立たしいが、これで無視したら、頭を下げさせられた彼が可哀想だ。

 エレアーネの乗るニトーヘンに移って、列の前の方に出て行く。


「其方がエナギラ伯爵であるか……?」

「そうだが、何か? 用件はそれだけでしょうか?」

「この度の参戦について、陛下が感謝の意を示されたいと……」

「感謝、だけですか?」


 役人だか官吏だか知らないが、周囲の男たちはこぞって硬直する。私の機嫌は、すこぶる悪い。


「少々図々しいのではないか? エナギラ伯爵閣下。魔龍退治は互いに報酬を要求しない約束のはず。其方はまだ若いから存じていなかったのかも知れぬが、当主ならば知っておくべきことでございますぞ」


 横から口出しをしてきたのはノルシアの副騎士団長だ。そういえば、そんなようなことは出発時に言われた気がする。だが、私が言いたいのはそんなことじゃない。

 ゆっくり首を横に振り、精一杯不愉快な表情を作って説明する。


「昨年、ロノオフは意図的にエウノに竜を送りつけてきているのです。その件は魔龍は関係がございません。ノルシア王国には直接関係ないことですから、ご存知無いかもしれませんが、私にとっては人ごとではございません」

「竜を、送りつけた……?」

「ええ、それを退治したから、私は竜退治の英雄などと呼ばれるようになったのです。現地にはまだ証拠が残っていますし、ロノオフの騎士でも心当たりがある人は何人もいるはずですよ」


 そう言って目を向けると、咄嗟に目をそらした者たちがいる。どこまで関わっているのかは分からないが、少なくとも事後に聞いたことはあるのだろう。


 その様子を見れば、ノルシア王国の副騎士団長も一方的に私がオカシイとは言えないだろう。後ろにいる者たちなど、まともに狼狽えている。そりゃそうだ、最悪の場合、戦争になりかねない。彼らにとっては完全に想定外の渦中で、卒なく立ち回れというのは、幾らなんでも無理だろう。


 だから私も、関係ない人たちの多いこんな場所で言うつもりなんて無かった。だが、愚かにも、ロノオフ国王は、私を『竜退治の英雄』などと呼んだのだ。それで竜の騒ぎを知らぬなどと言わさぬ。一体、何人が死んだと思っているのか。


「ロノオフ国王、私を『竜退治の英雄』と呼びましたな? つまりそれは私がロノオフに賠償を求める権利を認めたということで間違いありませんね?」

「竜の被害は、我々の責任では……」


 高官と思しき白髪の男が反論してきたが、そんな程度のことは、公爵たちとの話で想定済みだ。


「自国内に出現した魔物を他国に押し付けない、という約束もあったはずですよ? 手に負えないからと、こちらに押し付けた責任を取れと言っているのです。」


 シラを切るなら、竜など知らんと言っておくべきだろう。間違っても『竜退治の英雄』などと呼ぶものではない。


「押し付けたなど、人聞きの悪いことを言わないでもらいたい。五匹の竜は勝手にそちらに向かったのだろう。それに対して責任を持てなど言われても困るのだがな。」

「ほう。五匹とまで把握しておきながら、それがエウノに向かったと知っておきながら、その上で何の通知もしなかったということですかな? 国境付近に強力な魔物を発見した場合は、通知を出し、互いに戦力を供出して退治に当たるはずであろう? 国境を越えて向こうに行ったからそれで終わり、ではないはずだ」

「エウノよ。その話が(まこと)であっても、今ここですべきことでもあるまい。」


 ノルシア王国とオルディオ王国の騎士団幹部が揃って進み出てきた。

 ちょっと頭に血が上りすぎたか。彼らには何の非も無いし、場を乱して迷惑をかけたことに対しては謝っておく必要があるか。

【ヨシノ・エナギラ伯爵】

日本からの転移者で、元の名前は好野裕。昨年秋の竜騒ぎを治めた最大功労者で『竜退治の英雄』と呼ばれるようになった。

見た目は5〜6歳であり身長は110cmほど。一応、中身は38歳。


【エレアーネ】

エナギラ伯爵腹心の魔導士であり、12歳の少女。光属性の魔法を多用するが、実は適性を持っていない。


【エウノ】

主人公の所属する王国。


【ロノオフ】

魔龍が現れ、応援を求めてきた北の王国。


【ノルシア】

ロノオフとエウノの東側にある王国。


【オルディオ】

ロノオフの西側にある王国。


※この辺の国は全部王様が統治しているので王国です。


次回、『竜退治の英雄(4)』 3月24日更新予定

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