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第15話 ノルシアの一級ハンター(2)

「離れろ!」


 巨大な足が動く。コイツに踏まれたらそれだけでオシマイだろう。デカくて重い。たったそれだけで、どんな武器も防具も防ぐことはできない凶悪な攻撃になる。


 だが、喰らわなければ良いだけだ。

 ブン回して勢いを付けた鎖を傷の上の方に打ち込む。上級のハンターは考えることが同じなのか、俺以外にも鎖を打って魔龍の足に取り付いた奴が何人もいる。


 そして、鎖を片手に、刃を振り続けて魔龍の傷を抉り広げていく。俺たちがそうしている間にも、足の上の方の傷には魔法が集中し、血肉の雨を降らせている。


 暴れる魔龍に取り付いていられるのもそう長くはなかった。橙の明かりが周囲を照らす。巻き込まれる前に離れないとこっちまで一緒にやられてしまう。


 タイミングを見計らって魔龍の足から離れて安全圏まで全力で離脱する。ハンターたちが離れて行くなか、魔法の第二波が魔龍を襲う。


 真っ赤に灼けた巨大な岩の槍が、大きく切り開かれた魔龍の傷口から突き刺さり、足を引き千切らんとばかりに大きく抉る。


 足に大きなダメージを受けた魔龍は、咆哮を上げつつ倒れ込む。魔龍の六本の足のうち四本までがズタズタにされては、もはや走って逃げることもできないだろう。


「どんどん撃て! 一気に削るんだ!」


 魔法を使える者たちは、形振り構わず、使える攻撃魔法を浴びせていく。攻撃魔法が雨のように降り注ぐなか、魔龍の背中からヒレが広がり、光を帯びる。


 一体、何をするつもりだ? まだ何か奥の手があるのか?

 ヒレの傷は位置が高過ぎて魔法が届いていない。もっと近づいて攻撃すべきか?


 迷っているうちに、赤の光が上がった。高階級魔法の合図だが、準備の合図は上がっていない。だが、近付くなということだと理解して、踏み止まる。

 そして、火炎旋風が魔龍のヒレを包み込んだ。火炎旋風はどんどんと大きくなり、魔龍の頭をも呑み込む。


 苦しそうな声を上げて魔龍が首を振り回すが、炎の勢いは止まらない。魔龍のヒレを焼き尽くさんとばかりに炎の嵐が吹き荒れている。


 そして、再び突撃の号令が出た。魔法は一旦止み、近接攻撃を得意とする者が一斉に駆け寄る。

 もはや魔龍は全身傷だらけで、まともに動ける状態にない。


 腹の傷口に刃を滑り込ませ、肉を切り裂き、ウロコを引き剥がす。最初は一人しか刃を突き立てられなかった小さな傷が、二人になり、四人になりと、もの凄い勢いで広げられていく。


 全力で戦斧を叩きつけて分厚い脂肪を突き破り、頭から返り血を浴びながら傷を掘り進む。

 小さな城ほどの巨体に穴を開けていく作業は、もはや戦いとは思えないが、魔龍はまだ死んではいない。


 身の毛もよだつような魔龍の咆哮も、今では苦しげな悲鳴と成り果てているが、それでもまだ逃れようともがいている。


「一旦離れろ!」


 叫び声に振り返ると、ドネイランが第七級の魔法を詠唱している。一人が魔法の詠唱に入ると、周辺の魔導士たちも一斉に詠唱を開始する。


 二十歩ほど離れると、魔法の集中砲火が傷口を大きく吹き飛ばす。周囲は魔龍の血と肉片で酷いことになっているが、そんなことを気にしている場合じゃない。


「大丈夫か? ディオニア。」

「ああ、少し疲れただけだ。」


 全力で戦斧を振るい続けていれば体力も消耗する。これだけやって、まだしぶとく動き続けるとは、魔龍の体力にも恐れ入る。


「離れろ! 動くぞ!」


 再び魔龍へと足を踏み出したとき、誰かが叫んだ。

 見上げてみると、魔龍が身体を揺らしているのが分かった。あまりにも大きすぎて、下の方だけ見ていても動きの大きさに気付かなかった。


「離れろーー!」

「転がってくるぞ!」


 口々に叫びながら後退する。振り返ると、揺れは急速に大きくなっていく。距離を取りながらも魔法は散発的に撃たれるが、俺のような近接攻撃主体の人間はどうすることもできない。


 そして、一際大きく揺れたかと思ったら、地響きを立てながら大きくこちらに倒れ込んできた。あんなのが苦し紛れに転がってくるだけで甚大な被害が出かねない。全く、厄介な奴だ。騎士の指揮を取っている奴がやたらと慎重に作戦を進めるのが分かった気がする。


 倒れた魔龍は背中のヒレをバタつかせている。その度に風が巻き、砂埃が舞い上がる。これでは近づこうにも近づけない。


 そんな中、橙の光が打ち上げられた。それとともに「首を狙え」と伝わってくる。魔道士たちが動き始め、それを護るように騎士たちも移動していく。


 魔龍にはもう攻撃の手段も、逃走の手段も残されていないようだ。頭を振りながら、ただ苦しげな鳴き声を漏らすだけだ。


 これが最後の攻撃になるだろう。

 俺たちよりも尻尾側にいた奴らも頭の側にやってきて魔法の詠唱を始める。


 緑の光が一つ、また一つと上空に打ち上げられていく。

 もう終わりだと確信できるのに、何故か達成感が全くない。疲労感はあるのに、だ。


 七つめの緑の光が打ち上げられた直後、赤の光が周囲を照らす。

 天を焦がすような勢いの火柱が合図の光に重なり、辺りは赤一色に染まる。


 業火から逃れるように首を激しく振るが、無駄だとばかりに首の付け根に灼熱の槍が突き刺さる。堪らずに地面に倒れ落ちた魔龍の頭を最後の槍が貫いた。

【ディオニア】

ノルシア国の第一級ハンターパーティ―『輝刃』のリーダー。戦斧がメイン武器の巨漢。


【ミーグリオ】

『輝刃』の魔導士で三十歳の女性。一人で第十級の魔法を使える珍しい存在。

巨大な魔法陣と長い詠唱を必要とする高階級魔法はハンターの通常の戦いの中で使われることはない。


【ドネイラン】

『輝刃』の魔導士。三十三歳男性。こちらは第九級が限界。ミーグリオとは何度も結婚の話が上がっては消えている。


【ロノオフ】

魔龍が現れ、応援を求めてきた国。



次回、『竜退治の英雄(1)』 3月18日更新予定

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