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第14話 ノルシアの一級ハンター(1)

「赤と青だ! 総攻撃の合図が上がったぞ!」


 見張りの上げた大声に、野営場に緊張感が走った。魔龍退治は消極的と言えるほどの慎重策で進んでいて、野営場では比較的のんびりしていた者も多い。


 まあ、他人のことは言えない。俺もゆっくりと休んで、今はメシを食っていたところだ。


「ディオニア、ようやく出番だな。」

「ああ、ちょっと待て。こいつだけ食っちまう。」


 急いで齧りかけの肉を頬張り、咀嚼しながら準備をする。

 火を消し、装備の点検をして荷物をまとめておく。


 周囲のハンターたちも一斉に動き出しているし、騎士たちは綺麗な列を作っている。

 毎度、こんな窮屈な作戦指揮に従わなければならない騎士というのも大変なものだな。俺も一度「騎士になるつもりはないか」と声をかけられたことがあったが、こういうのを見ると、断って正解だったと思う。


「よし、俺たちも行くぞ!」


 何時間も前に戦闘は始まっているのだから、一番乗りをする意味はない。そんなこんなで褒賞が増えるわけでもないしな。


「勝ってこいよ!」

「当たり前だ。」


 俺たち『輝刃』のメンバーは十七人。そのうち、戦闘向きじゃない二人はここで留守番だ。今更偵察や情報収集なんて意味が無いし、交渉は戦いが終わってからだ。


 ひらひらと手を振り、俺たちも興奮高まる集団とともに前線に向かう。


「おいおい、これは酷いな。」

「これ全部魔龍の仕業か? 正面から当たりたくないって偉い人の気持ちが今分かったわ。」


 現場に近づくと、その惨状が明らかになる。昨夜、日が暮れる前はこれ程じゃあなかったんだがな。


 かなり広範囲にわたって、森がなくなっている。この辺り一帯は森だったはずだ。それが、今は、小さな町がすっぽりと周りの畑ごと入ってしまいそうなくらいの範囲で、滅茶苦茶に破壊され、踏み潰されている。


 その中央付近は、そこに森があった気配がなくなっているくらいだ。その光景に敬虔深い騎士様が物凄い怒りを露わにしているが、今回ばかりは俺も同意せざるを得ない。


「神に仇なす化物に死を!」

「我ら人だけではない、アレは大地に住まう生き物全ての敵だ!」


 怒りで疲れを吹き飛ばし、騎士たちが加速する。俺たちも遅れるわけにはいかない。神なんて信じていなくても、こんなことをしやがる化物を放置するつもりなんてない。


 荒地の向こうにいる魔龍は休んでいるのか、戦っている様子がない。


「魔龍はこちらに気づいていないのか?」

「動く気配がないな。だが、死んではいないんだろう。倒したってなら、喜んで報告に来るはずだ。」


 近くまで行ってみると、魔龍は胴体を地に投げだし、眠っているように見えた。よく、敵の前で眠れるなコイツは。


 こちら側に腹を晒し、尻尾を右、頭を左に丸くなっている。よく観察してみると、傷が思ったよりも増えている。全身を覆うバカみたいに硬いウロコをどう突破するかが勝負の鍵だと思っていたが、これほど傷があれば、俺たちの刃も十分に通用するだろう。


 攻撃を抑えろ、抑えろと消極的な作戦に苛立ちがあったのは確かだが、これは認めざるを得ないかもな。

 この状態で総攻撃を仕掛ければ、確実に仕留められるだろう。


「一度、魔龍を起こした後に魔法で一斉攻撃。足と尾を狙う。近接部隊による総攻撃はそのあとだ。奴の足を完全に使い物にならなくする」


 魔龍の前に並ぶ騎士やハンターに、最後の作戦説明があった。つまり、魔龍の足を完全に潰して、反撃も逃走もできないようにするということだ。

 現在、完全に無事な足は無いが、それでも歩いたり人を踏み潰したりはできる。


 地道にダメージを蓄積させ、総攻撃で確実に足を奪えるように進めてきたということだろう。



 騎士たちもハンターたちもいくつかの班に分けて、魔龍の周囲に配置される。


「速かに魔龍を包囲せよ!」


 騎士が偉そうに号令を発しているのは気に入らないが、そんなことで一々逆らう意味もないし、指示された場所へと向かう。魔龍の頭を回って背中側が俺たちの持ち場らしい。俺たちといっても、ノルシア国のハンター全部だ。俺たちのパーティー『輝刃』だけではない。


 周囲を見回すと、尻尾の方を回ってやってくる一団がある。頭の方もずらりと騎士やハンターたちが並んでいる。


 そうしているうちに、いくつもの橙の光に包まれる。魔導士たちが一斉に高階級魔法の準備に入る。

 魔龍を起こすとか言っていたが、どうするつもりだ? まあ良い、何らかの策があるはずだ。


「ミーグリオとドネイランも最大の魔法をぶちかましてやれ。」

「第九級で足りるか?」


 俺たちのところからは、狙えるような傷が見当たらない。不安に思うのは分かるが、出し惜しみしている場合でもない。魔龍を立たせると言っているのだから、その前提で動けば良い。


「やれ! 立てばこっち側にも傷くらいあるだろう!」


 俺が心配する必要もなかったようで、すぐに魔龍が動きだした。低い唸り声をあげて立ち上がろうとする。


 魔導士たちが急いで詠唱をしていくと、緑の光があちこちから上がる。確かあれは魔法攻撃準備完了した時のやつだ。


 そして、赤の光がばら撒かれた。


 周辺を取り囲む魔導士たちが一斉に高階級の魔法をぶちかます。巨大な炎の旋風が重なり、灼熱の槍が魔龍の身体を焼き、貫く。


 苦悶の咆哮を上げて魔龍は暴れようとするが、俺たちと同じことを考えた奴らは結構いたようだ。凄まじい数の魔法が放たれて魔龍の足の傷を抉っていく。


 そして、魔龍はさらに一際大きな絶叫を上げると、尻尾を高く持ち上げる。だが、そこまでだった。


 さらに放たれた灼熱の槍が魔龍の尻尾を根本から大きく抉り、尻尾からは力が抜けて地に落ちたのだ。


「全力で足をやれ! 絶対に逃がすな!」


 包囲の向こう側から叫び声が伝わってきて、騎士たちが突撃をかける。


「行くぞ! 足を切り落としてやれ!」


 叫び、戦斧を握りしめて魔龍に向かって走る。魔龍の近くはまだ熱気が残っていた。だがそれも誰かが放った風の魔法が背後から吹きつけて飛ばし散らしていく。


 待機場所から魔龍の足まで約百五十歩。着くまでに十分に気と魔力を溜められる。

 大きくジャンプして戦斧を振り下ろせば魔龍の肉を引き裂き、鱗をいくつも内側から弾き散らす。


 俺の斧だけではない。何人もの一級二級のハンターが同じ傷に次々に刃を振るい、傷は一気に広がった。

【ディオニア】

ノルシア国の第一級ハンターパーティ―『輝刃』のリーダー。戦斧がメイン武器の巨漢。


【ミーグリオ】

『輝刃』の魔導士で三十歳の女性。一人で第十級の魔法を使える珍しい存在。

巨大な魔法陣と長い詠唱を必要とする高階級魔法はハンターの通常の戦いの中で使われることはない。


【ドネイラン】

『輝刃』の魔導士。三十三歳男性。こちらは第九級が限界。ミーグリオとは何度も結婚の話が上がっては消えている。


【ロノオフ】

魔龍が現れ、応援を求めてきた国。



次回、『ノルシアの一級ハンター(2)』 3月16日更新予定

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