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第13話 選ばれし存在(3)

 さて、これからどうするか。

 翼の傷はかなり酷い。人間ごときにこれほどの傷を負わされるとは思いもしなかった。

 目もまだ回復せぬし、少し休む必要がある。


 食事をしたいが、ここに来ていた人間は踏み潰してしまったし、どこか別の巣を見つけねばなるまい。


 思案していると、体の傷に痛みが走った。人間どもめ、よくも我にこのような真似をしてくれたものだ。全ての巣を探し出して、踏み潰してくれようか。


 ッ痛ァァァァァ!


 傷が! 傷が抉られている!

 まだいたか人間め! 本当にしぶとい奴らめ。今度こそ全て叩き潰してやる。


 一歩横に足を踏み出したら、足下が崩れた。まったく、軟弱な大地め。我が面倒な時だというのに、我を支えることもできぬのか。人間の住む大地に来てから本当に腹立たしいことこの上ないことばかりだ。


 崩れやすい地面を踏みしめて体の向きを変えて尻尾を振る。

 ふん、潰れたか? それとも吹き飛んだか?

 目が見えぬのが惜しい。人間が吹き飛んでいく様を見ることができたら痛快だったろう。


 それを、よくも我を陥れてくれたものだ。

 あのお方が罰を与えるよう仰る理由がよく分かった。これほどの下卑た生き物は滅ぼすべきである。


 しばらく尻尾を振り回していても、一向に周囲は静かにならない。

 何故だ! 何故こうもしつこく湧いて出てくるのだ人間は!


 一気に焼き払ってやりたいが、我は覚えているぞ。人間は面妖で卑劣で悪逆な手段を用いると。賢明なる我は同じ失敗をすることはないのだ。面倒でも尻尾で叩き潰していくしかない。


 我も良いことを思いついたぞ。

 右を向く振りをして、一気に左を向き、尻尾で大きく横になぎ払う。

 くくく。


 どうだ、見たか。我の優れた頭脳が繰り出す高度な戦闘技術。

 吹き飛べ、人間! 潰れてしまえ、人間!


 我ああああああ!


 右の中足が! 痛い! 動かぬ!

 何か熱いものが刺さって、痛いいいいい!


 人間め、許されざる存在め! 調子に乗るな! 燃え尽きろ!

 死ぎゃあーーーッッ!


 右に向けて放った光熱の息が我の身体に直撃した。

 何処だ! 何処にいるのだ!

 高貴なる我の力を捻じ曲げる、卑劣で邪悪な人間め!


 足は痛むが、まだ尻尾は動く。絶対に潰してやる!


 おのれ! 鬱陶しい!

 人間とはどれ程の数がいるというのだ。潰している傍らから、我に魔法を撃ってくる。


 潰しても潰しても、人間は衰えることなく、我に歯向かってくる。

 そして、強烈な炎が今度は我の右後ろ足を焼いた。


 人間め! 一体何処から湧いて出てくるのだ!

 尻尾を叩きつけようとしたら、上から翼の傷を狙ってくる。何と傲岸で不逞なのか。


 雄叫びを上げ、気合を込めて尻尾を振り回すが、人間の勢いは増すばかりだ。

 滅びろ!

 滅びろ!

 いい加減に滅びろェェェ!


 左後ろ足が、左後ろ足までもが!

 何故だ! 何故こうも容易く我のウロコが貫かれるのだ!


 我は選ばれし存在なのだぞ! 人間ごときが我に歯向かうばかりか、我の力を捻じ曲げ、高貴なる身体を傷つけ、どこまで増長すれば気が済むのか!


 あのお方は仰った。

 天意を冒すほどに増長した人間どもに罰を与えよと。

 我の全力を以って天意を示せと!


 我は、全力を以って天意を示していたか……?

 そうか……

 そういうことか。



 そうだ!

 我の全力とはこんなものではない


 戦慄するがいい!

 歪められるのなら、歪めてみるがいい!

 我の本当の全力を受けて灰となるが良い!


 顔を覆うように魔法陣を何十、何百と描く。

 周囲の魔法陣は貧弱な魔法ばかりだ。奪いたければ奪うが良い。

 だが、我の真の魔法陣は渡さぬ。

 そして、光熱の息を同時に浴びせてくれよう。


 呪を唱え、同時に全身の魔力を集中する。周囲の魔法陣が弾けるが、思う壺よ。貧弱な魔法陣とはいえ、いくつも弾ければその奥へは届くまい。


 弾ければ弾けるほど遠くなるぞ?

 我の力の前に、人間が何をしようとも無駄なのだ。


 さあ、魔法が完成する。

 これで終わりだ。


 大きく息を吸い込み、光熱の息を吐く。

 同時に魔法を、魔法がはゲァァァァァァ!


 何故だ!

 何故、我の光熱の息は我を焼くのだ!

 何故、我の魔法が発動しないのだ!


 我は、我は一体何と戦っているのだ!


 一度、そう思ったら、身が凍りつくような心地がした。得体が知れない。

 潰しても潰しても、湧いて出てくる存在の正体が知れない。


 一度、一度ここから離れなければ。離れて回復を図ってからでも遅くはない。

 走り出してみるが、傷を受けた足が痛む。上手く動かない。


 しかも、大地が大きく崩れて身体が大きく傾く。

 ぬぐうううう。大地まで、大地までもが我に仇なそうというのか。


 起き上がり、体の向きを変えると、一斉に放たれた魔法が我の身体を打つ。弱い魔法に紛れて強力な魔法が前足に突き刺さり、我は急いで左の方へと体の向きを変える。


 もう、どちらが北だか南だかも分からない。

 とにかく、この魔法から逃れねば。だが、傷を負った足は痛み、軟弱な大地は彼方も此方も大きく崩れて真っ直ぐ進めない。ひたすらもがきながら進んでいたら、いつの間にか、人間の攻撃はなくなっていた。


 一度、一息つこう。僅かだが、目も開くようになってきた。もう少し休めば、見えるようになるだろう。

【ディエンドルフナーグ】

「あのお方」に選ばれて人の国で暴れる魔龍。年齢は400歳くらい。

北極大陸で怠惰に過ごしているため、知能は低い。というか、かなりバカ。

主食はアザラシ。光合成でのエネルギー獲得もできる。



【あのお方】

正体が伏された魔龍たちのボス。

実のところ『チ無双』シリーズに登場する予定はないし、隠す意味があるのかは謎である。

その正体は『パンツを脱ぎたまえ』ではで登場済み。



次回、『ノルシアの一級ハンター(1)』 3月14日更新予定

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