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第1話 エウノの騎士(1)

今作は一人称です。

「アーグリウス。」


 魔龍退治遠征メンバーの十四人目、最後の一人に名を呼ばれ、私の心臓は跳ね上がった。

 魔龍は一匹だけでも周辺他国にまで兵力の援助を請わねばならないほどの化物で、伝説とまで言われている。


 精強な者ばかりが選ばれる中に名を連ねるのは誇らしいことだが、殉職の可能性も高い。前回の出現は六十二年も前、遠征に行った大伯父が命を落としたと聞いている。


「我が騎士団の力を見せつけてきてくれ。」


 グァイラジオ様の激励に気合を込めて返事をするが、内心では不安と恐怖が湧き上がってきていた。




 王宮前広場には多くの騎士や魔導士が集まっている。出発前の壮行会ということで、国王陛下からのお言葉をいただけるらしい。正直なところ、言葉ではなくて武具の一つでも賜りたいものだが、そんな本音を言うわけにはいかない。表情を引き締めて騎士が整列していくところに私も加わる。少し離れたところには、名を上げてやろうというハンターたちが軽口を叩いている。実に呑気なことだ。


 所属ごとに整列して王の激励を受ける。陛下の言葉を聞くと、この任務の誉れ高さが胸の奥にズシリと重くのしかかる。


 ふと視線を動かしてみると、脇の方に変な者たちがいた。馬というには不恰好過ぎるが騎乗用なのだろうか、石のような色の足の生えた奇妙なものと、その隣には馬車の胴体を持つ化物が立っている。


 一体何なのかと思って見ていたら、竜退治の英雄の挨拶があるという。すると怪しげな化物の前にいた子どもが、国王の立つ壇の前に進み出た。

 いや、違う。何だあれは? どう見ても空中に立っている。一体どうなっているのだ?

 驚きに目を見開いていると、その子どもは驚愕の言葉を並べ始めた。


「魔龍は強大な力を持つと聞く。だが、恐れることはない。敵がどれほど強大であろうとも、我らが力を合わせれば必ず斃せる。そして、私は其方らの誰一人として犠牲にするつもりはない。私の望みはただ一つ、全ての者が安心して平和に暮らせる日々である。我らが平穏を邪魔をする魔物を共に打ち払おう!」


 今、何と言った? 誰も犠牲にしない? 半数は殉職すると言われる魔龍退治だぞ?

 振り上げられた拳に呼応して私も左の拳を天に向かって突き出すが、はっきり言って、彼が何を言っているのか分からない。


 呆然としているのも束の間、行軍の道程についての話ということで隊長たちが集められ、私たちは広場で待機となった。

 待機とはいえ、何もせずぼうっとしているわけにもいかない。ここにいる騎士たちはこれから魔龍退治という共同作戦に就く同僚だ。挨拶をして交流をしておくくらいはした方が良いだろう。名前くらい覚えておかねば作戦に支障をきたす可能性もある。


「そちらはヨースヘリア公爵閣下の騎士団で間違いないでしょうか? 私はミデランの騎士、アーグリウスと申します。」


 呆然としたまま顔を見合わせている右隣の騎士たちに話しかける。


「ああ、私はヨースヘリアの騎士、ボルリノグス。よろしく頼む。」


 騎士の敬礼をして形式的な挨拶をすると、その最後に「随分と若いな」とポツリと付け加えられた。若いからと侮られたような気分になり、思わず眉を寄せてしまったが、ボルリノグスは「他意はない」と言う。


「殉職する可能性が高いのだ、個人的には前途有望な若者には参加してほしくないと思っている。」


 そう言われて見回してみると、目の前のボルリノグスは三十五を超えていそうなベテランに見えるし、自分と同年代の騎士はほとんど見当たらない。

 ミデランの騎士団から選ばれた中では私が一番年下だ。三人の子どもたちもまだ幼いし、殉職を前提に話をされると腹の奥底が凍りつくような心地がする。


「私は勝って必ず帰る。死ぬつもりで戦うことほどバカらしいことはないぞ、アーグリウス。」


 私の背後から声をかけてきたのはウェリゾウブだ。彼は私が騎士団に入団したときより指導してくれている先輩だ。

 精悍な顔立ちに、背中で一つに束ねている長く伸ばした髪がトレードマークだ。私も背が低いほうではないが、彼と話すときはかなり上を向かねば目を合わせられない。


「今から固くなりすぎだ。年寄りならば犠牲にして良いということもない。全員、無事で帰るぞ。少なくとも、そのつもりで行け。ボルリノグス様も活躍を期待しています。」

「そう言うウェリゾウブ様こそ、衰えてはおるまいな?」

「お二人はお知り合いなのですか?」

「ボルリノグス様とは旧い仲だ。学院時代からだから、二十五年来、といったところですかな。」


 幼いころから腕を競いあってきたらしい二人の間には、確かな信頼が……、いや、信頼は無いのかもしれない。火花が散りそうなほど睨み合っている。


「やめてください! 私たちの敵は魔龍でございます!」

「そうであったな。」


 二人のやり取りを見ていたら、不安や恐怖はどこかに行ってしまっていた。


「隊長が呼んでいます。行きましょう。」


 道程の確認が済んだようで、隊長が戻ってくると二百人ほどの騎士たちが動き始める。

 列をなして門を出ていく中、あの怪しげな物に乗った集団がどこか別の方に駆けていった。その先頭にはあの子どもがいる。


 何かの作戦なのだろうか? 不安ばかりが大きくなるなか、手綱を握り、視線を前へと向けなおした。

【アーグリウス】

ミデラン領の27歳の騎士。明るいブラウンの髪を短めに切っている。


【ウェリゾウブ】

ミデラン領の騎士。身長197cmある39歳男性。


【ボルリノグス】

ヨースヘリア公爵に仕える騎士。39歳。赤茶色の髪は腰ほどまであり、背中で一つに束ねている。


【竜退治の英雄】

ヨシノ・エナギラ伯爵。見た目年齢は5、6歳。肉体能力も同程度だが、実際は30代後半。



【ヨースヘリア公爵】

エウノ王国第一の公爵。


【グァイラジオ・ミデラン公爵】

エウノ王国第二の公爵。


【ロノオフ】

魔龍が現れ、応援を求めてきた北の国。




次回、『エウノの騎士(2)』

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