友情の欠落
リビングから自室に戻った俺は考え出した
とりあえずは5W1Hの法則にでも沿って一から考えていこう
who。沙彩が
when。おそらくは夜
where。夢の中で
what。ゲームの詳細を語った
why。俺に、それを実行させるため…?
how。それは、なんだろうか。
沙彩はどうやってそれを実行するのだろうか。沙彩にはそう言う能力があるから?だとしても不思議だ。人の記憶を操作できるほどの能力は神様でなくちゃ不可能、、いやもしかしたら神様でも不可能かもしれない。そんなことを沙彩はできるのだろうか。分からない。そういえば沙彩は確かこう言ったはずだ。俺から一番遠い存在から記憶を消すと。つまり、それは学内で俺が知っている人かはたまた知らない人か。その人たちから俺の記憶は消される。それが何人いるか分からない。
だが、記憶を取り戻した俺は最期にそこに立つことができるだろうか?
不可能だ。誰からも必要とされていないどころか誰からも認知すらされない世界で俺はどうやって生きると言うのか
俺はどうすればいいんだ
沙彩が念を押した理由がやっとわかった気がする
今、俺は周りからどう見えているだろうか
いつも通りか。はたまた少し焦っているかのように見えているのか。前者だと非常にありがたいのだがな
俺は考察する。昨日の出来事を丸ごと全部
この、恐怖感によって生まれる動揺。そして動揺して冷静な判断ができなくなり、本来解決できたはずの出来事ができなくなっていってしまう沼の連鎖。それが起きないように俺は今から策を練る
そして俺は考えた。
いや、考え出した途端の出来事だ
「達也〜。早く降りてきて学校に行く準備しなさーい!」
一階の方から大声で俺を呼ぶ母の声が聞こえた
現在時刻は7時45分。俺は徒歩通学で約20分で着く近い高校のため8時30分集合で8時00分に家出ても十分間に合うのだが残念ながら透と瑞稀は7時50分に家に来る。つまり何が言いたいか分かるか?
間に合わないんだよ50分に。
こうして俺は透たちを10分待たせる申し訳ない結果に終わった
〜昼休憩〜
今のところ、学内での俺の友達は全員俺のことを覚えているらしい。だが、それも時間の問題だ。
俺は授業中、ずっと考えていた
あいつらとの残りの期間をどう過ごすべきなのか
いつの日か、あいつらの記憶の中から俺という存在は消え去る。だから気にせず今まで通りに過ごせば良い?ふざけるなよ。ある日、友達から俺の記憶がなくなるんだぞ。それを、辛いと思わない奴はいないだろう?記憶を消されても、思い出してくれるように。そう、願いながら
ガサッ
近くから草を蹴るような音が聞こえた俺はすぐにその方向を見る
…だれもいない。
近くに隠れるほどのスペースがないことからきっと俺の気のせいだったんだろう。少し疲れてきているのかもな。明日はちゃんと休まないと
それから俺は授業を受けた
でも、そんなの当然頭には入らなくて俺はいつのまにか眠ってしまっていた
「…ここは。さっきまでは確か教室に…」
「あら、何をしに来たの?」
どうやら、俺が眠ってしまうと強制的にここへ連行されるみたいだ。この、ソファとテーブルと飲み物がある世界に。
「…お前、暇なのか?」
「っんな!?ひ、暇じゃないわよ!?た、たぶん…」
「そこで多分をつけると暇だって言っているのと同じだぞ?」
「そ、そんなことない!」
顔をぷくーっと膨らませ可愛い子特権の拗ね方をする。いや、まぁ、事実沙彩は可愛いんだけど。
でも、正直クール系に見えるからなんか、俺にデレてるような気分で悪くない
…なんて、俺はこいつに弄ばれてるのに何馬鹿なことを考えているのだか
「ふふっ。それで、楽しんでもらえてる?」
何のことかは瞬時に理解した
でも、それでも理解したくなかった俺は問い返す
「…なんのことだよ」
「とぼけても無駄だよ?ここからあなたの行動全部見えてるから」
「…ストーカー?」
「違いますーっだ!はぁ、なんであなたは友達を大事にするの?」
「……は?」
思考が一瞬止まった
一体何を言っているのか
いや、違う。分かってはいる
だが、俺はそれを見て見ぬ振りをしてきた
だから、やめてくれ。『それ』を言うのは
「あなたの友達は、だれ?」
その問いに俺は答えることができなかった
「暇休憩の時、友達と楽しく過ごすやら考えていたみたいだけど。あの世界に君の友達っていた?」
「やめろ。」
「わかった」
そんなこと、言われなくても分かってる
あの学内で俺と友達と言っても透と瑞稀くらいしかいない
そんなこと、分かってる…。
違うか。俺から見れば、あいつらは他人であいつらから見た俺は親友で。
俺の友達は、あそこにはいないんだ
バッと俺は体を起こした
外はもう夕方で、近くには透と瑞稀がいた
「わっ、びっくりした。急に起き上がるのやめてよね。…達也?どうしたの?」
「おい、達也。お前、どうしたんだよ」
俺の肩に優しく置かれる手があった
それを俺は払った
「なんだよ。お前らしくない…」
「…ごめん。俺、今日1人で帰る。」
俺は走って教室を出て下駄箱にまで辿り着いた
教室に取り残された2人はどうしてるだろうか
俺はそれさえも考える余裕なんてなかった…
「達也、どうしたんだろうな」
「…分からないけど、達也、泣いてた。きっと嫌な夢を見たってそれ以上にもっと辛いもの…とか」
「例えるなら、あいつは俺らの知っている達也じゃなくて達也自身がそれを理解している。つまりはあいつにとって俺らは他人で、俺らにとってあいつは親友ってそういうことか?」
「…やめて。言わないでよ…。」
「でも、瑞稀も薄々気づいてたんだろ。あいつは達也じゃない、もっと別の誰かが乗り移ったみたいだって!」
「違う!達也は、達也のままだよ…。いつも優しくて、頭だって良い方とは言えないし運動もそこそこだし、だから、達也はかっこいいんだ。勉強を毎日して運動も欠かさない。」
「それは、昔の達也だ。今の達也は違う!今の達也は諦めているんだ!勉強とか、そういうことを全部!」
「それでも!私は信じるよ…!達也のこと…。私ね別に今の達也でも良いんだよ」
気付けば私は泣いていた
この涙は透くんとの喧嘩の、後悔の涙じゃない
少なくとも透くんに向けてのものじゃない
「瑞稀は、本当にそれで良いのか。」
「もちろん。私は今の達也、嫌いじゃないよ」
そう、これが私の本音。私はどんな達也でも良いって心に決めた。確かに今と昔じゃ性格はガラッと変わってしまったかもしれない。でも、私は達也が、達也のことが…。
なんか、気恥ずかしいね。
私たちが教室を出ようと足を動かそうした直後
「なぁ、一つ質問したいことがある」
と呼び止められた
「ん?なぁに?」
とりあえずは聞いてみようと透くんの言葉を待つ
「俺じゃ、ダメなのか?」
「…え?」
その言葉は私とって告白と同じ意味で、私はこのあと少し混乱することとなった。
信じられなかった。
透くんが私のこと好きだなんて