○○をした日
音を立て風が耳元を過ぎていく
俺はそれを聞きながら、そっと一歩を踏み出した
さきほどよりも風は強く耳元を過ぎ、俺は重力に従ってまっすぐと落ちていった
何をしていたのだろうか
俺の高校生活は悲惨なものだ
いじめは毎日、まるでそれが日常のように存在する
親には虐待され、警察は証拠がなければ動けないなどと抜かす腰抜けばかり
生きる意味なんてあるのだろうか。
誰も俺を必要としない
必要とされない俺は重力に従い落ちるしかないのだ
これは仕方のないこと
これが俺の人生であり、これがあいつらの選択なのだから・・・
俺は心の中で一つ思うことにした。それは
(俺に関わる全ての人が不幸になりますように)
同時に俺はとてつもない激痛が走った
そこで意識は失った
次に目が覚めたのは真っ白な天井があり腕には沢山の点滴が打たれている、ある場所。そう、ここは病院だ。けれど、今の俺はそれを認識することができなかった。それほどまでに俺は狂ったのかもしれない
「やっと…!やっと目を開けたよ!お母さん!」
小さな女の子がはしゃいで喜んでいる
歳は…多く見積もっても小学生高学年程度だろう
その小さな女の子は涙を流し喜んでいた
(はて、俺にこんな妹はいただろうか…?)
「いっ…」
途端にズキリと頭を痛める何かがあった
それがなんなのか、今の俺には見当もつかなかった
ふと、もう一つの泣いているかのような声の方を見てみるとそこには、明らかに自分の母でないと、そう言い切れる人物がいた
その小学生くらいの少女にお母さんと呼ばれたその人は俺の視線に気づくと抱きついてきて
「達也…!」と泣き叫んだ
達也、おそらくは…いや、ほぼ確定で俺の名前だろう。しかし、俺は達也だという名前であった記憶がない。そう思い、思い出そうとしてもまたズキリと頭に鋭い痛みが走った
しかし、不思議だ。初めて会うはずの人なのにどうしてか、脳が勝手に目の前にある女性は母親であると認知していた
でも、ありえないだろう
なぜなら俺はあの日、あの時、確か…確か…!!
…飛び、降りた…?
「あ、あぁぁぁあぁぁああ!!!!」
そこで俺は気絶した
今まで感じたことのない激しい頭痛が襲ってきたのだ
あとから聞いた話だが、母親曰く俺は両手で頭を抑え突然、気でも狂ったかのように泣き叫び収まったかと思えば口から泡を吹いて気絶をしていた、と。
何故なのだろうか。俺はその時の出来事が一切思い出せないのだ。その件のせいで間近に迫っていた退院が2週間様子を見て大丈夫そうなら退院という形になった。最悪だ。
だが、医者の言っていることは理解できる
何故気絶したのか分からず、いつ発症するかも分からない患者を普通、退院なんてさせられないよな…。
俺は諦めて2週間を待つことにした
2週間後
2週間というのは思っていたよりも早くて、まるでそこだけ時間が早まっているような気さえした
そして、その間分かったことがある
まず、俺の名前。俺の名前はどうやら加賀 達也と言うらしい。そして家族は母、父、妹、そして俺の4人である。何人かのクラスメイトが来たがそのうちの関谷 透と小鳥遊 瑞稀は俺の幼馴染らしい。学校はいつも一緒に行っているらしいから迷う心配はないだろう
分かったのはそのくらいだろうか
ちなみに、現在の時刻は9時30分。親がここに来るのは10時なのでもうすこし時間がある。その間に行っておきたい場所があったのだ。そこは…
「やっぱ、気持ちいいなぁ〜」と俺は背伸びをしながら言った
行きたかった場所…それは屋上である
すぐ後ろには医者がいる
「まったく、柵があるとはいえ落ちないで下さいね」
「わーってるよ」
俺は適当に返事をして柵に手をつき
「良い眺めだなぁ」と言葉を吐いた
「そうですか?」と医者は苦笑しながら答えた
ふと、俺は下を向こうとした
だが、脳内でそれを恐れた
俺はそこで固まってしまった
慌てた医者が
「どうしました!?具合でも悪いのですか?」
俺は途端に意識を戻し、言い訳をした
「…いえ、大丈夫です。ぼーっとしていただけですから」
「無理はしないで下さいね」
それからすぐにその場を後にした
思っていたよりも長くそこにいたのか、屋上から戻れば母親が車で迎えに来てくれていた
俺の家はどこにでもごく一般的な一軒家だった
俺の部屋は2階にあるらしく俺は階段を上って自分の部屋にあったベッドにすぐに横になった
正直に言うと、俺はまだこの状況を飲み込めてはいない。むしろ、あの短時間で理解できるほど非常時に慣れているやつは早々にいないだろう
俺は考えた。どうしてこうなったのか。
また、どうして俺の記憶を思い出そうとすると頭に鋭い激痛が走るのか。俺は一体どうなってしまうのか。
色々考えているうちにいつのまにか眠ってしまったようだ
その時、俺は夢を見た
俺はとある一室にいた
そこには俺の見慣れない少女がいた
「お、やっと来た」
そう言って木で作られた椅子から飛び降りるようにして立ち上がり
「ねぇ、あなたは何をしにここに来たの?」
という問いがきた。俺は答えられず、無言になってしまっていた。それを察知でもしたのか少女は話題を変えた
「んー、じゃあ君は何者?」
「…俺は加賀達也」
「嘘だね」
即答された俺は驚いた。何故かって、それはもちろん決まっている。彼女は知っているのだ。俺を。
「じゃあ聞き返す。お前は何者だ」
「ふふっ。私は沙彩。ここの管理人?みたいな人だよ。なんだかもうめんどくさいから単刀直入に言うね。記憶、取り戻したい?」
最後の単語に対して俺は心臓が破裂してしまうのではないかとそう思うくらいに跳ねていた
俺はあまりに動揺してしまったせいかすぐに返答ができずにいた
だが、今度は相手も何も言ってはこない
俺はそれをありがたいと思った
そうして俺は解答を口に出した
「取り戻したい」と